マセラティが作る、現代のスぺシャリティカー
地中海の暖かな風の呼び名に由来した名前をもつ、ブランド初のSUVモデル。国内では350psの3L V6ツインターボを搭載するベースグレード(1080万円)と420psのS(1279万円)、3L V6ディーゼルターボのディーゼル(価格未定)をラインナップ
マセラティがSUVを作る。その第一報を聞いたとき、世界のSUVブームは本物だと確信した。
マセラティといえば、世界でも屈指のスポーツカーブランドであり、ラグジュアリーカーメーカーだ。フェラーリを上回る歴史をもち、イタリア屈指のハイエンドブランドである。そんなブランドがSUVを造るというのだから、驚くほかない。もっとも、英国の名門、ベントレーのSUVにも同じくらい驚いたものだが。
とはいえ、最近のマセラティをみていると、SUV生産は必然だったとも言える。マセラティが純粋にスポーツカーブランドだったのは戦前までの話で、以後は超高級GTカーメーカーとしてその名を馳せ、紆余曲折のすえにフィアットグループの一員となってからは、セダンのクワトロポルテに代表されるラグジュアリーカーブランドとなった。マセラティの今は、セダンが主役。となれば、セダンとクーペの魅力を併せ持つ現代のスペシャリティ、SUVを造らないという戦略を選ぶことは不可能だった。
フィアット・アウトによる、クライスラー・ジープの買収も、その方向性に拍車を掛けたようだ。もっとも、当初こそ優秀なオフロード走破性を秘めたグランドチェロキーをベースにする案もあったというが、マセラティを名乗る以上、たとえSUVであっても、オフロードよりオンロードでのパフォーマンスが重要視される。それが、ヨーロッパの潮流だからだ。そこで、マセラティは、ジープ系のSUVプラットフォームではなく、他のラグジュアリーブランドと同様に、セダン系をベースとした高性能SUVを企画することにした。そうして誕生したのが、このレヴァンテである。
SUVを超越した、流麗なエクステリアと色っぽいインテリア
スタイリングは、最近のSUVトレンドに則り、クーペ風味の効いた2ボックススタイルとし、ノーズや前後フェンダーの形状にマセラティらしさを表現する。全長5mというから、近くによってみると、かなりの大きさだ。ホイールベースが3m以上もあるから、セダンのオルターナティヴとしても十分に使えるだろう。
最近登場したラグジュアリーブランド系のSUVのなかでも、群を抜いてスタイリッシュ。ルーフラインやサイドウィンドウのデザインだけを見れば、とてもSUVとは思えないほど、流麗。フロントマスクの大きなグリルはエアシャッター付きで、エンジンルームへの空気流入をコントロールしている。
身体をしっかりとサポートする設計のフロントシート。インテリアは好みに合わせてカスタマイズ可能、スポーティな専用シートやカーボン素材を用いたスポーツ・パックや、エルメネジルド・ゼニアによるシルクやイタリアン・レザーを用いたゼニア・エディション・インテリアなども選べる
インテリアにいたっては、他のマセラティラインナップよりもスペシャリティ色が濃く、色っぽい。シートデザインも含め、SUVを超越した雰囲気を湛えている。
日本仕様は3グレードで、パワースペック違いのガソリン3L V6ツインターボが2種類と、3L V6のディーゼルターボを用意。いずれも8AT+電子制御4WDを組み合わせた。Q4と呼ばれる4WDシステムは、完全後輪駆動から前50:後50まで駆動配分するもの。ギブリQ4と同様のシステム内容からも、オンロード重視であることが伺えよう。
加速フィールとサウンドで“SUV”を忘れさせる
ハイスペック仕様のガソリンターボモデル、レヴァンテSに試乗した。結論からいうと、セダンのギブリよりも楽しいかもしれない! 加速やパワー感といったファーストインプレッションの類は、ギブリとほぼ同等と言っていい。レヴァンテとギブリの間には、重量差が、実は見た目ほどには“ない”ため、フェラーリ製3L V6ツインターボエンジンによるビートの効いたパワフルな走りは、SUVとなっても、いささかの見劣りもないのだ。相変わらず、エグゾーストノートは官能的で、乾いたラウドサウンドを響かせる。そう、この、セダンに負けない加速フィールとサウンドが、SUVに乗っているという事実をたやすく忘れさせ、ドライビングに夢中にさせるのだった。
さらに、がっちりと固められたアシが、背の高いボディをひとつの塊として支えている。ソリッドな乗り心地だが、妙な揺れなど微塵もない。ハンドリングもまたギブリゆずりで、後輪を中心とした圧倒的な高スタビリティのもと、適切な手応えをもって前輪が自在に進路を変え、車体がコンパクトにまとまってついてくる。そんな、実にSUVらしからぬハンドリングを味わうにいたって、もはやこのクルマは、背が高いだけのスポーツカーだと思えてくるのだった。
5+1段階の可変車高を備えたエアサスペンションを装着。通常車高のノーマル(地上高207mm)に加え、ノーマルより40mm上がるオフロード2、25mm上がるオフロード1、20mm下がるエアロ1、35mm下がるエアロ2、乗降時に45mm下がるイージーエントリーが選べる
唯一、心配のたねは、レヴァンテがセダンとクーペの魅力を、パフォーマンスと内外装デザインの両方で実現しているという点である。それがどうしたって? ギブリやクワトロポルテ、グランツーリズモが売れなくなってしまうじゃないか!