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『後妻業の女』とドラマ名演出家の映画作品

『後妻業の女』の鶴橋康夫監督はテレビ局の出身。『踊る大捜査線』以後はドラマ演出家が映画監督となることは増えましたが、以前はドラマと映画の間には高い壁がありました。昭和の名演出家のドラマの代表作と映画監督作品を紹介します。

黒田 昭彦

執筆者:黒田 昭彦

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大人向けとしてヒット!映画『後妻業の女』

後妻業の女

直木賞作家・黒川博行×名匠・鶴橋康夫による人間喜劇『後妻業の女』。(C)2016「後妻業の女」製作委員会

夏休み前後の映画興行は『シン・ゴジラ』や『君の名は。』など特撮やアニメが中心に。そんな中、大人向けとしてヒットしているのが『後妻業の女』。高齢男性と結婚して遺産を独り占めしようとするヒロイン(大竹しのぶ)と、裏で糸をひく結婚相談所の所長(豊川悦司)の恐ろしい陰謀をコミカルに描いて好評です。

『君の名は。』『シン・ゴジラ』におされ、『ゴーストバスターズ』など割を食ってしまう作品もある中、同2作品と『ミニオンズ』と同じスタッフによるアニメ『ペット』に続き、『後妻業の女』は公開後2週間、興行成績ランキング4位をキープ。熟年層だけでなく広い年齢層に人気です。


監督はテレビドラマ出身

監督の鶴橋康夫は日本テレビ系、大阪の読売テレビ出身。60年代からテレビドラマを演出し芸術祭、芸術選奨、ギャラクシー賞など受賞多数で「芸術祭男」と呼ばれていました。

作風は人間の内なる闇を描くこと。例えば死刑囚(浅丘ルリ子)の死刑執行までを描く2時間ドラマ『魔性』(1984年テレビ大賞優秀個人賞受賞)。同性愛の愛人(芦川よしみ)が夫(津川雅彦)とも関係を持ったため嫉妬により殺して人肉まで食べてしまうという殺人犯。その心情を浅丘ルリ子は黙っているけど、光の陰影だけで表現するという見事な演出を見せています。

読売テレビを退社後もフリーの演出家として活躍。ドラマの最近作は2014年テレビ朝日の『松本清張 坂道の家』。放送文化基金賞奨励賞、東京ドラマアウォード優秀賞と相変わらず賞取りの腕を見せています。

そんな実力ある演出家ですが、映画監督を務めるのは2003年に読売テレビ退社後、『愛の流刑地』『源氏物語 千年の謎』につづいて『後妻業』は三作目。

『踊る大捜査線』のヒット以降ぐらいから、テレビドラマを映画化することが増えました。また撮影がデジタル化されテレビも映画もほとんど同じ機材を使うようになったため、現在ではテレビ局の社員ディレクターでもエース級なら、だいたい映画監督経験があります。しかし以前は、テレビドラマと映画には高い壁があり、ドラマ演出家が映画監督をすることはめったにありませんでした。

そこでこの記事では、昭和に活躍した演出家のドラマ代表作と映画監督作品を紹介します。

映画に負けるな

倉本聰脚本の『2丁目3番地』から『池中玄太80キロ』『外科医有森冴子』まで、70年代から90年代初めの日本テレビドラマの主軸だった石橋冠。日本テレビでの最後の作品は1994年『遠山金志郎美容室』。西田敏行主演で『池中玄太80キロ』の流れを組む作品でしたがヒットせず、大ヒットしたのは前番組『家なき子』。この後、日本テレビドラマの路線が変わっていきます。

退社後はNHKで『新宿鮫』をドラマ化するなど幅を広げて、NHK、テレビ朝日、テレビ東京、WOWOWなどで多数のドラマを作品をつくってきました。

若いころは岡本喜八監督邸の離れに下宿していた映画青年でしたが、ドラマづくりではスタッフに「映画に負けるな」と叱咤していたからか、監督デビューは遅く、2016年公開の『人生の約束』で齢79にして初めて。西田敏行、ビートたけし(『兄弟』『菊次郎とさき』『点と線』などを演出)も出演しています。

 

映画をつくれないNHK

NHKは放送法の縛りにより直接映画製作はできず、関連会社のNHKエンタープライズが製作。それも民放ほどは多くありません。

この10年の主なドラマ派生の映画とその監督というと
  • 『ハゲタカ』(大友啓史)
  • 『セカンドバージン』(黒崎博)
  • 『外事警察 その男に騙されるな』(堀切園健太郎)
ぐらい。このうち大友啓史は『龍馬伝』の後、フリーになり『るろうに剣心』シリーズで映画監督として一本立ち。今年は8月公開の『秘密 THE TOP SECRET』、11月公開の小栗旬主演『ミュージアム』、来年には『3月のライオン』と続々監督作品が公開されます。

そんなNHKですので、昭和に活躍した演出家も映画監督デビューは退局後。

『阿修羅のごとく』『けものみち』の和田勉は映画『ハリマオ』と『完全なる飼育』の2作。正直、名ディレクターの監督作品としては首を捻ります。テレビドラマもNHK後は2作しか演出していないので、あまり恵まれているとはいえません。
対して『あ・うん』『夢千代日記』の深町幸男は、NHK退局後も山田太一脚本作品を中心にドラマ演出多数。映画は吉永小百合主演の縁か『長崎ぶらぶら節』を監督。美しい映像の中に情感が伝わるいい作品でした。

 

バルタン星人の生みの親

TBS出身の飯島敏宏は、在社中から外部の映画系制作会社での仕事がメインでした。1965~1968年の動きを見ると、国際放映で渥美清の『泣いてたまるか』。円谷プロにいって『ウルトラQ』『ウルトラマン』。松竹京都で栗塚旭主演の時代活劇『風』。さらに『ウルトラセブン』の視聴率が下がってきたというのでテコ入れのためまた円谷プロに戻る、と今に残る作品に次々と参加。

特に、今年50周年の『ウルトラマン』では第1話の前に撮影した第2話のバルタン星人回『侵略者を撃て』を担当。スペシウム光線をどういうポーズで発射するのか?など手探りでつくり、シリーズの方向性を決める大事な役割を果たしました。

1970年には名匠・木下惠介監督がTBSと組んでドラマ制作をしていた木下プロに出向。プロデューサーとして山田太一脚本『それぞれの秋』、向田邦子脚本『冬の運動会』、そして『金曜日の妻たちへ』シリーズを制作します。

そんなキャリアなので映画監督デビューははやく1972年。ただし円谷プロ創立10周年記念映画『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』で子ども向けの作品でした。

 

一般向け映画は2011年の『ホームカミング』の1作。代表作『金曜日の妻たちへ』で描いた新興住宅地に住む人たちのその後を作り続けています。ドラマではTBS『君が人生の時』は高嶋政伸、松嶋菜々子でジュニア世代を描き、NHK『理想の生活』は堺正章主演で定年後の生き方を描いています。

『ホームカミング』もその流れで、定年後の主人公(高田純次)が町おこしの夏祭りを企画するコメディ。黒部進、森次晃嗣といったウルトラシリーズ人脈も多数登場しています。

しかし『ホームカミング』公開日は2011年3月12日。3月5日公開だった『潮騒のメモリー 母娘の島』(『あまちゃん』劇中映画)と同じく盛り上がるはずもなく公開終了となってしまいました。

 
昭和のドラマ演出家がつくる映画の特徴は、多くのドラマの後につくった数少ない映画だけにテーマ的に集大成になっていることと、ドラマで深くつきあいのある俳優が多数出演していること。『後妻業の女』も主演の大竹しのぶは鶴橋演出ドラマに3作主演。豊川悦司は映画第一作『愛の流刑地』に主演。女優二番手の尾野真千子はドラマ最近作『坂道の家』に主演するなど「鶴橋監督だから」という俳優が多数出演しています。




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