子どもにも、言うことを聞かない理由がある
子どもを何度叱っても言うことを聞かないときには、理由があります
たとえば、その昔、小学校の廊下には、こんな張り紙がしてありました。
「廊下は走らない!」
今も張ってある小学校があるかもしれません。でも、これだと子どもは走ります。全力で走ります。先生の姿が見えたときだけ走るのを止めます。わかっているのです、廊下は走ってはいけないと。なのに、なぜ走るのを止めないのでしょうか。大きく2つの理由があるようです。
1)叱られている理由がわからない
子どもに、なぜ廊下を走ってはいけないのか聞いてみましょう。「規則だから」と答える子は、なぜそんな規則になっているのかわからなければ走ります。人は納得のいかないことに従うのは苦痛だからです。でも、おそらく「危ないから」という答えが返ってくることが多いと思います。そしたら次に「なぜ、廊下を走ると危ないの?」と聞いてみましょう。「人とぶつかってケガをするから」とか、「雨の日は滑ってケガをするから」などの答えが返ってくるかもしれません。でも、内心「でも、たいしたケガにはならないよね」と思っていたら走ります。
ですから、廊下を走って大怪我をしたなどのエピソードがあれば、「こんなに危ないんだよ」と伝えるのもいいでしょうし、「勢いがついたまま、曲がり角で小さな子にぶつかったら、どんなことになりそう?」とか「雨の日に滑って、傘が友だちの顔に飛んでいったらどうする?」とか、具体的に、その場の情景が浮かぶように質問して考えさせましょう。最悪の場面を想定させて「そうなったら、どう思う?」と聞いてみるのもいいでしょう。
そして「私はあなたが大きなケガをするのもいやだし、人にケガをさせるのもいや。だから気をつけてほしい」などと、こちらの気持ちも伝えましょう。
「人に迷惑をかけない」「人を傷つけてはいけない」「ごはんは残さない」など、「なぜダメなの?」と改めて聞かれると、言葉に詰まってしまうような時「ダメなものはダメ!」と言いたくなります。それで子どもが言うことを聞いてくれたら大人は楽です。
でも、それは、理由を自分で考えなさいということ。考えても、大人と同じ思いになれていなくて繰り返してしまっているのですから、一度一緒に考えてみましょう。そもそも「人に迷惑をかける(人を傷つける)というのはどういうことか」という話し合いから始めてもいいですね。
時間もエネルギーも必要ですが、子どもと一緒に理由を考えると、子どもが日頃どんなことを考えているのかを知るチャンスにもなりますし、親としての自分のスタンスもはっきりしてきます。
2)望ましい行動がわからない
子どもと一度ゆっくり話し合うことで、見えてくることも多いものです。
「Aという行動を選ばない」ということは、「A以外の行動を選ばなければならない」ということです。「A以外の行動の中から、こちらが望ましいと思っている行動を察しなさい」ということでもあります。これは難しい。相手の心を正確に察することは不可能だからです。
嫌みな上司から、あるいは嫌みな親戚から「なんでこんなやり方しかできないの」と怒られたり、ため息をつかれたりした場面を想像してみてください。「じゃあ、どうしろっていうのよ!?」という気持ちになりませんか。もしかしたら、「廊下を走らない!」と言われた子どもは、同じように感じているかもしれません。
ですから、「廊下は走らず、ゆっくり歩こう」と、具体的に望ましい行動を提示しましょう。「右側を」「静かに」歩こう、など、適宜つけ加えてもいいですね。
「人に迷惑をかけない」「人を傷つけてはいけない」「ごはんは残さない」にしても同じことです。たとえば、「時間を守る」「腹が立ったら10秒数える」「食べられない量だと思ったら、食べ始める前に減らす」など、代わりの行動を提示するといいでしょう。
「~しないかわりに、どうすればいいと思う?」と話し合うと、なお良いですね。人から押しつけられたルールに従うのは葛藤が生じやすいですが、自分で決めたルールだと気持ちよく守ることができます。
望ましい行動を取れたとき、自分自身がどんな気持ちになりそうかも、子どもと話し合ってみましょう。自分に自信が持てたり、いい気分になれたりする「予測」ができれば、モチベーションにつながります。