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親との同居・近居・遠居、より良い住まいのあり方とは

旭化成ホームズから「同居・近居・遠居」に関する親の援助の実態をまとめたレポートが発表されました。この記事ではそれをもとに、それぞれの事例や、こんなことも考えてみればという内容をまとめてみました。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

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私たちはどのような住まいで暮らすにしても、必ず親と「同居する」、「近居する」、「遠居する」のいずれかの居住スタイルを選択しなければなりません。そして近年、共働き世帯の増加から、同居や近居を選択する人たちが増えてきています。今回の記事では、これらの居住スタイルがどのような実態になっているのかを、旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)が発表した『「同居・近居・遠居」における親サポートの実態を調査』から紹介していきます。

所得環境や女性の社会進出で拡大する共働き世帯

旭化成ホームズでは、「共働き家族研究所」「二世帯住宅研究所」といった独自の研究機関を有し、その研究に基づいて住宅供給をしています。今回の調査はこの二つの研究所の共同研究による成果です。

共働き世帯

共働き世帯と専業主婦世帯の変化の動向(旭化成ホームズ作成)


調査の内容に触れる前に、まずその大前提となる変化、共働き世帯の増加について触れておきます。わが国の共働き世帯数は1990年から2000年頃にかけ専業主婦による世帯数を上回り、その後急増しています。これは所得環境の変化や女性の社会進出などが主な要因と考えられます。

一方で、待機児童問題など国や自治体による共働き世帯に対する支援は行き届いておらず、そのため親世帯による子育てなどのサポートを受けている共働き家族が増えているという状況です。ですから結果的に近年、親との同居や近居という居住スタイルがよく選択されるようになったわけです。

このことをご理解いただいた上で、『「同居・近居・遠居」における親サポートの実態を調査』の結果を紹介します。なお、旭化成ホームズは、近居を親の住宅から1時間以内、遠居はそれ以上の場所で暮らしていると定義しています。その上で調査結果について、概ね次のように報告しています。

それぞれの居住スタイルで異なる親のサポート状況

(1)近居の8割が子世帯から家づくりの話を切り出し、距離が近いほど親は即賛成の傾向
(2)親世帯からの資金援助は相談時期が早く、住む距離が近いほど割合が高い
(3)フルタイム共働き子育て家族は近居で7割、遠居も2割が子育てサポートを受ける
(4)同居では家事サポートも多いが、近居・遠居では子育てサポートが中心
(5)妻の親は子世帯が夫の親と近居でも距離に関わらず積極的にサポート
(6)近居と二世帯同居は親世帯と子世帯との交流意識がよく似ている
(7)同居ストレスならぬ近居ストレスも存在、近居にも二世帯住宅のような工夫が必要
(8)家事サポートの担い手の多くは母親だが、子育てサポートでは父親も活躍
(9)遠居では半数が訪問サポート時に子世帯宅に宿泊、宿泊道具を子世帯宅に留め置き
(10)サポートする親の気持ち:1位は「仕事と家庭の両立を助けたい」
(11)サポートを受ける子の気持ち:親に見られたくない場所の1位は「夫婦の寝室」

(1)と(2)は検討段階のこと。子世帯から切り出すことにより、親世帯からの資金援助などが引き出しやすいということ、(3)~(7)は同居だけでなく、近居と遠居であっても共働き世帯にとって親のサポートが不可欠になっていることを表しています。

一方、(8)~(11)については、近居と遠居における親のサポートの実態を表しています。そして、旭化成ホームズはこの結果を受けて二世帯同居、近居、遠居のそれぞれのプランの事例を提示しています。それを説明する方が伝わりやすいと思われますので、以下で紹介します。

同居・近居・遠居のプラニング事例

【図1】は二世帯同居のプラン例。子(孫)育てを中心に世帯間交流をしながら、それぞれの世帯がプライバシーを保ちつつ暮らす、「近居」に近いスタイルです。具体的には1階が親世帯、2階が子世帯となっており、玄関、キッチン、バス、LDK、居室などがそれぞれ用意されていています。

同居

【図1】二世帯同居のプランニング例(以下、いずれも旭化成ホームズ作成、(クリックすると拡大します)


このプランのポイントは子世帯の玄関と、2階の子ども(孫)部屋に至る動線です。孫は玄関脇にある扉から親世帯に行けますし、もちろんその逆でおじいちゃん、おばあちゃんが孫の部屋に行くこともできます。

子世帯の視点でみてみると、自分たちのプライバシーはしっかりと確保された上で、子どもの世話を親世帯に任せやすくなるわけです。旭化成ホームズではこれを「孫共育ゾーン」と呼んでいます。

両世帯の生活時間が異なることに配慮していることも特徴の一つです。玄関へのアプローチが建物の左右に分かれていますし、親世帯の寝室が子世帯の寝室の下にあることで、親世帯は子世帯の生活音をあまり感じなくてすむようにもなっています。

【図2】は近居のプラン例です。子ども(孫)の世話を1階のLDKで済ませることができ、調査結果にあった(11)で問題となっていた夫婦の寝室というプライバシー空間は最低限守られるよう配慮されています。ですから、ポイントは2階部分にあり、階段から近い場所に子ども部屋が設けられています。

近居

【図2】近居のプランニング例(クリックすると拡大します)


また、1階については玄関に近い場所に「リビングクローゼット」を設け、ここに子どもの遊び道具や、おじいちゃん、おばあちゃんが孫の世話をするためのモノをわかりやすく、集中的に収納できるようにしています。

このほか、親が来ていない普段、家事がしやすいようにするため、キッチンとバス、洗濯&乾燥スペース、「デイリークローゼット」(家族全員の衣類をしまう場所)をコンパクトにまとめているのもポイントの一つです。

最後に【図3】は遠居のプラン例ですが、こちらは親の宿泊を念頭に入れた二世帯同居の要素を取り入れているのが特徴です。2階にLDKを配置し、1階には寝室のほか、子ども部屋、そして「親の宿泊部屋」を配置しています。
遠居

【図3】遠居のプランニング例(クリックすると拡大します)


まず2階ですが、近居以上に浴室や洗濯・乾燥、収納などのスペースが動線よく配置されています。子どもの居場所や家事をする場としてタタミスペースも用意しています。

最大のポイントとなるのは1階の親の宿泊部屋ですが、これは(9)に配慮したもので、宿泊用具などを納める収納も用意されています。もちろん、子どもが成長したら、子ども部屋として使えます。

「意外に短い子育て期」も考慮の上で検討を

以上が、旭化成ホームズの調査に関するざっとした紹介ですが、ちょっとここで皆さんに考えていただきたいことがあります。それは、よくいわれることですが「子育てをする期間は意外に短い」ということです。

街並み

戸建て・マンション・賃貸など住まい方には多様なスタイルがある。その中で、誰もが必ず親との同居、近居、遠居のいずれかを選択し居住している(写真はイメージ。クリックすると拡大します)

で、その観点から考えると、例えば遠居のプランニングには難しさもみえてきます。「難しさ」というのは、将来的に身体の機能が衰えてきた時、2階リビングというのは住みづらさを感じる要素になる可能性があるということです。

また、2階リビングの場合、買い物などのモノをしょっちゅう持って上がらなければいけないわけで、それは家事動線の部分ではデメリットになることもあるわけです。これは同居プランでも同様のことがいえます。

つまり、住宅のプランニングにおいては、あちらが立てばこちらが立たない、ということが往々にしてあるわけです。つまり、子育て時期のことを重視しようとすると、例えば皆さんが高齢者になった時に住みづらさを感じる可能性だってあるということです。

もちろん、皆さんには皆さんなりの住まいに対する希望があるはずですし、今回の調査でみえてきた課題もあるわけで、それを否定するわけではありません。申し上げたいのは、住まいづくりにはこのような難しさが必ず伴うということです。

ですから、現状の暮らしのニーズだけにとらわれずに将来のライフスタイルがどう変わるかなどを想像しつつ、多角的に検討されるべきということです。そうすることで、皆さんにとってより満足度の高い住まいづくりを実現することになるはずです。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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