フルモデルチェンジ並みに進化した、フェラーリの正統派GT
マラネッロ製ロードカーの歴史を紐解いてみれば、現代の跳ね馬人気とは違う側面が見えてくる。フェラーリのロードカーは、歴史的にみて純然たるGTカー、それも2+2の4シーターモデルが主役だった。
始まりは、50年代のこと。当時、フェラーリのスポーツカーはそのほとんどがコンペティチオーネ(競技車両)であり、ミッレミリアを始めとする公道レースで大活躍をし、その名を世界に轟かせていた。50年代になって、ようやく、競技目的ではない、V12FRのGT=グランツーリズモが生産されるようになり、アメリカ市場において名声と人気が高まるに従って、それはより高性能に、そしてラグジュアリーに進化を果たしていく。60年代に登場した4シーターの250GTルッソや330GTCは、フェラーリGTロードカーの頂点とも言うべきモデルだった。
現代のように、V8ミドシップモデルがコアモデルとして人気を博すようになったのは、2ペダルミッションのF355が登場した90年代半ば以降のことであり、日本市場では特にその現象が顕著に現れた。もっとも、その間もフェラーリは、V12エンジンをフロントに積む2シーターと2+2のベルリネッタ=クーペをフラッグシップモデルとしてモデルラインナップの頂点に置き続けてきたわけだが……。
先だって、日本市場へのローンチを果たした最新モデルのGTC4ルッソは、その名前からも容易に想像が付くように、往年の名馬の名を2つも組み合わせた、正に“贅沢”(=イタリア語でルッソという)なモデルであり、フェラーリの正統派GTの血脈にあると言っていい。“刺激的な性能”ばかりがフェラーリらしさではない、ということだ。
FF(フェラーリ・フォー)のビッグマイナーチェンジモデルだが、内容をつぶさに検討すれば、ほとんどフルモデルチェンジに近いことが分かる。シューティングブレークスタイルは、前後の意匠のみならずルーフやサイド&リアウィンドウまわりまでデザイン変更されており、FFと同じボディパネルは一枚も存在しない。恐らく、エンブレムとフロントスクリーン、ミラーが同じという程度ではないだろうか。
インテリアに至っては、まったくもって最新モデルである。ラグジュアリーでモダンなツインコクピットスタイルで、開放感もあり、見映え質感も大幅に上がった。
パワートレーンやシャシー&サスペンションシステムも大幅に進化した。特に、各種電子制御技術のアップデートは質量ともに圧倒的な規模で、スポーツ性能とGT性能の両方を大幅に引き上げることに成功している。
そんな新型GTC4ルッソの国際試乗会が、初夏の北イタリアで開催されたので、参加した。
最高のGT+誰もが楽しめるスポーツカー
バカンスシーズンの始まりだけあって、“スッドチロル”の避暑地はどこもかしこも観光客で賑わっていた。山岳路では渋滞にも巻き込まれたが、まったく気が急かない、というか、落ち着いて、コレ幸いと辺りの景色を眺めていられる精神的な余裕があった。従来の刺激的な跳ね馬モデルであれば、クルマからも相当に煽られつつ、乗り手の欲求不満は貯まる一方だったはず。ところがこのクルマは、渋滞中の微速域でもパワートレーンは落ち着き払っていて、V12の静かな音色は耳に心地よく、もちろん、乗り心地も悪くない。これこそ、今の時代の真のラグジュアリーだ。
ゆっくり走っていても気分がいい。ならば、その性能を解放したときには、どうだったか。GTC4ルッソの走りのパフォーマンスを要約すれば、それは、最高のGTであり、誰もが楽しめる適切なスポーツカーだった。
V12は常にウルトラスムースで、途切れることなく適切な力を供給し続ける。右足を強く踏み込んだところで、スリルはほとんどない。速度感がないのだ。ドライバーのいかなる介入にも関わらず、常に安定した反応をみせてくれるという点ですでに、現代的で素晴らしいGTカーの資質が十分に備わっていると判断した。
後輪操舵を得た新しい4WDシステムのおかげで、急なカーブから高速コーナーまで、ドライバーの無理を呑み込んで、素晴らしいフィールで曲がっていく。それも、決してお仕着せがましくもない。
その間、ドライバーはというと、ずっと“楽しい気分”でいられた。運転が随分と上手くなった、と思ってしまうほどに、だ。ドライバーズカーを熟知し、 “おもてなし”精神に満ちた、現代のフェラーリらしいそれはクルマ造りである。
そして、何よりも、高回転域で感じるV12自然吸気エンジンの心地良さは、世界最高クラスだ。踏んで感じて気持ち良いという点で、これ以上のエンジンは他にないだろう。伝統的なフェラーリ・ワールドそのものを、極上のリラックス空間で、あるいは貴方が望めば適度にスポーツ性のあるなかで、それぞれ体験できる。何とも贅沢な話だ。このクルマは、真に実用的(フル4シーター&ラゲージスペース&4WD)なスポーツカーである。これこそ、フェラーリの考える、スポーツ・ユーティリティ・ビークル=SUVなのだ。
前夜。ディナーの席上で、「ライバルは、言ってみればレンジローバーです」、と呟いた開発者の言葉を思い出し、深く納得してしまった。