現代型のシステムキッチンは“終わった”
キッチンというとイコール「システムキッチン」と思われる方も多いでしょう。それほどまで現代の家庭に普及している証拠です。しかし、このシステムキッチンが一般家庭に普及し始めたのはわずか25~6年ほど前です。日本で最初のシステムキッチンは、1973年にクリナップのショールームでドイツの「ビルトインキッチン」が試作されたのが始まりだと言われています。私が社会人になりたての1980年代後半、システムキッチンは「部材型」が主流で、比較的高価なものでした。その数年後に幅寸法のバリエーションのみでレイアウトを固定した「簡易施工型」と呼ばれるローコスト型の製品が発売され、そこから一気に普及していきます。本来そういうキッチンはシステムキッチンとは呼ぶべきではないのですが、当時は「天板が一枚でつながっているキッチン」のことをそう呼んでいる人も多かったのも事実です。もともと「システムキッチン」という言葉は日本だけのものですから、定義付けはどうとでもなりますね。
それから四半世紀、いつの間にか簡易施工型が日本市場では主流になってしまいました。これだけシステムキッチンがほとんどの家に行き渡った現代ですから、システムキッチンの役割は変わっていいと思います。いや、すでに現代型のモデルは終わったと言ってもいいでしょう。各メーカーは次の展開を模索している段階です。
自分らしい暮らしを実現するためのキッチンへ
現代のライフスタイルを簡単にまとめると「自己実現」です。自分らしい暮らし、自分らしい生活をいかに実現できるか。それこそが最大のポイントです。そんな中、家作りの中心はキッチンだと言っても過言ではないほどに、一般の方のキッチンへの関心は常に上位にあります。そこで注目されるのが、カスタマイズキッチンやオーダーキッチンです。ある程度の規制を設けつつ、サイズや素材、設備機器を比較的自由に選ぶ事が出来るのがカスタマイズキッチン、大きさや素材、カタチなどすべてゼロからプランニングするのをオーダーキッチンといいます。つまり「自分らしい暮らし」を実現するためのキッチンだということです。
オーダーキッチンは高額?
通常、オーダーキッチンといえば「高額」というイメージがあるでしょう。もちろん規格化された物を大量に作るシステムキッチンに比べると高額になりがちです。しかし、全体の満足感や仕上がりの良さ、自由度などにプライオリティを置いた場合、コストパフォーマンスは非常に優れているものでもあります。そしてなにより、「自分らしさ」が実現できるわけですから、住まい手の満足度が上がります。私は、住まい手の満足度が上がること=家の価値が上がることだと思っています。そして、完成した家の価値が上がるということは、それを設計した建築家や施工した工務店の価値も上がるということです。決してメーカーのシステムキッチンがダメだと言っているわけではなく、それぞれのライフスタイルに合った最適なキッチンを健全に選ぶことができる環境が大事なのです。
また、オーダーキッチンといっても、オーダーキッチン屋さんがつくるものから、造作家具屋さん、建具屋さん、大工さんが作る物もあり、実はつくり方によってはシステムキッチンと同等の価格で実現できる場合もあります。たとえば写真のダイニングテーブルまで含んだ1.2mx2.8mのキッチンは、50万円程度で出来ています。こういったことを実現するためには設計者、施工者、住まい手の知識と理解が必要なのです。
こうした皆さんの『キッチン力』が向上することにより、世界からかなり遅れているといわれる日本のキッチンはもっと成長し、独自の進化を遂げると思っています。そのために、このAll Aboutをはじめとして、いろんな場所でキッチンの魅力を発信していこうと思っています。
次回の記事をお楽しみに。