夫の「一夫二妻」を経たあとの夫婦関係とは
ほかの女性のもとへ行った夫が帰ってきた。妻の心理は?
実は、不倫についての取材をしていると、こういう話はそれほど珍しくはない。子どもが小さいうちは、妻側も戻ってきた夫を受け入れるケースが多い。
だが、そこでよく話し合っておかないと、のちに恨みつらみを残すことになりかねない。
「子どものためと割り切ったはずなのに」
小さな子供がいるから離婚はできない、不満を表面化してはならない。
そう話してくれたのは、リカさん(47歳)だ。夫が家族を残して不倫相手のもとに走ったのは、リカさんは33歳、ふたりの子は7歳と5歳のころだった。当時35歳だった夫は、仕事で知り合った25歳の女性と関係をもち、ある日、リカさんにすべてを打ち明けた。
「どうしても彼女と一緒に暮らしたい、って。土下座して、荷物をまとめて出て行く彼を止めようがなかった。給料は振り込みだから、それまで通り、私が管理していました。夫は週に一度は家に来て、子どもたちと話したり、遊んだり。1年くらいそんな生活が続きましたが、だんだん帰ってくる日が多くなっていったんです。それである日、戻りたいとまた土下座。いつかそんなことになるかもしれないとは思っていた」
子どもたちには、「お父さんは遠くにお仕事に行ってるから、なかなか帰ってこられない」と伝えていたから、また一緒に暮らせると子どもたちは大喜び。
「夫とはそのことについて、ほとんど話していません。私もこれでよかったんだ、と自分を納得させました。その一方で、どうしても夫を生理的に受け入れることができなくなって、ずっとセックスレスが続いて……。だんだん夫に心を開けなくなっていき、結局、下の子が高校を卒業したこの春、離婚しました。あのとき、もっと夫婦で話し合っておけば違う結末になったかもしれません」
夫婦の間で、夫の不倫をタブーにしてしまった。子どものためにと割り切ったつもりだったが、それは自分の本当の気持ちから目を逸らしただけだった。それがお互いのわだかまりとなり、心を開けなくなってしまったのだろう。
「徹底的に話し合って、今の関係には満足している」
とことんぶつかって、話し合った夫婦もいる。
「うちも一時期、夫が帰ってこなくなったことがあります。結婚していても、相手の心までは縛れないんですよね、悲しいけど。結局、夫が戻ってくるまで2年ほどかかりましたが、帰ってくるときには夫婦で徹底的に話し合いました」
話し合ってわかったのは、「私はまだこの人が好きだ」ということだった、とケイコさんは言う。恋愛時代を思い出し、またゼロからスタートしたいと心から思ったそうだ。
「中学生だったひとり娘には、夫婦の問題は隠していましたが、薄々感づいていたようですね。だからと言って、子どものために……とは考えなかった。私が彼をまだ愛せるかどうか、そこがいちばんの問題でした。それ以来、夫婦関係は前よりよくなったかもしれない。何でも話し合うようになったし」
夫婦関係をやり直して5年が経つが、今の関係にケイコさんは満足しているようだ。
「ただ、この先はわかりません。夫にまた好きな人ができるかもしれないし、私にもできるかもしれない。夫婦はいつでもそういう危機をはらんでいる関係だということだけは肝に銘じています。今だって、夫に裏切られたという気持ちがあるのは確かだけど、人間の心は縛れないということを意識に入れておくのは、大事なことじゃないかなと思う」
夫婦といえども他人である。たとえ独身時代のような恋愛感情が薄れたとしても、代わりに家族としての愛情は深くなっているはず。夫婦の間に恋愛感情がなくなったから不倫に走るともいえるし、家族愛が深くなっているから戻ってくるとも言える。男女でありながら家族でもある、「夫婦」という関係は興味深い。
「不倫した夫が戻ってきたからといって、そうすんなり受け入れられるわけがない。そこでいい子になって受け入れてしまうと、のちのち恨みがわいてくるような気がするんですよね。思い切り自分の悔しい気持ちを吐き出して、夫婦という立場ではなくて、ひとりの女として人間として、相手と正面切ってケンカする。それをやらないといけないんじゃないかと思います。私だって、いまだに不倫した夫が憎らしくなることがあります。そういうときは夫にケンカを売ればいいんです」
被害者意識が強すぎると相手を責めてばかりになってしまう。ぶつかりあいながら、少しずつ前よりいい関係になっていくことができるケースもある。
配偶者の不倫を、「夫婦に与えられた試金石」と例えた人がいる。どうしたら乗り越えられるのか、あるいは乗り越えられないのか。それはふたりの気持ち次第なのかもしれない。