アイドルは地上を目指し、ファンは地下へ潜る
marble≠marble(「マーブル・マーブル」と読む)というインディーズ・バンドは、20代の原色ガールTnakaちゃん (Vocal)、30代のフジタダイスケさん (Synthesizer)、40代の松本零士さん (Programming)からなるエレクトロポップ系三人組。彼らは、ライヴではBerryz工房、℃-ute、Juice=Juiceなどのハロプロ系リミックス・カヴァーもしており、ちなみにmarble≠marbleという表記は、Juice=Juiceを意識していると思われます。メンバーは、アイドルとファンの関係についてこんな風に語ってくれました。
フジタ:大学で音楽を勉強したのですが、クラシックとかがわからなくて、落第生だったんです。でも、自分で表現したいというのがあって、学生時代にノイズやフリージャズなどの即興演奏に出会いました。即興と電子音響の世界は近くって、シンセを使って音を作り始めたのです。同時にモーニング娘。も好きだったのです。よくあるパターンですが、ハロプロからだんだん地下の深いところに入って行きました。
松本:いずこねこさんとかアイドルの人たちはパワーがあると、とても興味を持っていたんです。偶然、流れで地下アイドルさんのアレンジとかもするようになりました。
どうやら、30代以上の地下アイドルファンの中には、ハロプロにハマって、一度落ちる、その後、Perfume、ももクロ、AKB、またはもう一度ハロプロに戻る、そこから情報収集が簡単にできるようになったネットの恩恵もあり、どんどんアイドルとの距離感が近い地下に潜るという流れがあるようです。地上(メジャー)アイドルと地下アイドルは、ファン層としては繋がっています。地下(アンダーグラウンド)というと、反体制的なイメージの言葉ですが、地下アイドルの場合、小さなスペースを拠点にライヴを中心に活動することを地下とすると考えるべきでしょう。
Tnaka:多くの地下アイドルの人たちも上に行きたいのです。
アイドルファンは地上から地下へ潜ろうとし、アイドルは地下から地上に登ろうとする。地上と地下で一つの循環構造が出来上がっています。
地下アイドルから学んだチェキの重要性
そんなアイドルから、marble≠marbleは運営システムを学んでいます。フジタ:アイドル・シーンがとても熱いんですよ。元々アイドルが好きだった人たちに加えて、ライヴハウスに行く習慣のあったバンドが好きなライヴキッズ的な人たちがアイドルのライヴに来ています。
松本:アイドルというのは、物販システムとしてのフォーマットでもあるんです。チケットが十分さばけなくても、物販でなんとか運営していく。物販としても色々ありますが、その中でも地下アイドルとしての最強アイテムはチェキです。音楽で売りたいという志のもと、チェキをしないバンドも多いですが、marble≠marbleはチェキを潔く重要視しています。
フジタ:グッズってなかなかリピートが起こらないのですよ。アイドルのお客さんは基本通ってくれます。トートバッグを一つ買ってしまえば、二個も三個もいらないじゃないですか? でも、チェキは毎回想い出に撮って帰るのです。だから、毎回チェキを買ってくれるのです。自分がアイドル・ファンとして買う立場だったから、よく分かるんです。
地下アイドルの場合、500円が相場となっているとこと。チェキの相場を調べてみると、1万円を超える有名アイドルのチェキやCDとの抱き合わせもあります。
フジタ:最近、東京だと1000円チェキが多いのですが、僕たちは関西では500円でやっているので、1000円のつもりで来たお客さんの中には、500円のお釣りがいらないという人もいます。そういう方は、何か他に買うとか、2枚チェキを撮ったりしてくれます。
チェキは原価が安く利益率が高いのです。他のグッズと比べると、投資も低く、製造工程もシンプル、在庫を抱えないでいい。生産者にとっては理想のプロダクトです。ファンにとっても、デジタルでないから、一つしかない。2ショットチェキの場合、それはプロダクト以上にファンに体験をもたらします。マーケティング的には、チェキは「金のなる木(Cash Cow)」なんです。でも、別にチェキでぼろ儲けをしようという話ではありません。アイドル、バンドに関わらず、多くの地下(インディーズ)活動をしている人たちは、継続していくための運営資金を必要としています。継続的にライヴ活動をこなしていくことで、自分たちの音楽を多くの人たちに広げたいという思いからです。ですから、チェキは活動を継続するためのシステムと捉えるべきだと考えます。
marble≠marbleは、チェキにも創意工夫をしています。CDジャケットのアートワークやライヴペインティングもするTnakaちゃんは、アートの才能を活かして、チェキをテーマ別に独自のデコレーションを施しています。音楽に加え、これも彼らの表現方法と捉えてもいいでしょう。