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都市部の厳しい条件を克服した住まいづくりの事例

住宅密集地での住まいづくり、特に敷地が狭い場合は何かと制約が多く、快適性や使い勝手など犠牲にすることが多いもの。そこで、今回はそれらの解消のアイデアが数多く詰まったリアルサイズの建物をご紹介します。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

ハウスメーカー選びガイド

今回の記事では「都市型狭小住宅」のあり方について考えていきます。都市部の住宅密集地における住まいづくりは、そもそも敷地が小さいため十分な居住空間を確保しづらい上、周囲や近隣との兼ね合いや法規制が大変厳しい中、つまりは様々な制約の中で住まいづくりをしなければならず、快適性や使い勝手を損ないがちになります。そこで、どのような対策や工夫があり得るのかについて、先日私が取材してきたある建物を事例に、具体的にみていきます。

住友林業のリアルサイズモデルハウス「街角一番」

取材したのは、住友林業による「街角一番 豊島区高松の家」という物件です。概要は以下の通りです。

外観

正面から見た「街角一番豊島区高松の家」の外観。左側は3階建て住宅、右側は倉庫で、その奥には共同住宅も見える(クリックすると拡大します)


  • 所在地=東京都豊島区高松3丁目
  • 敷地面積=64.55平方メートル
  • 延べ床面積=103.70平方メートル
    1階=29.60平方メートル
    2階=37.88平方メートル
    3階=32.08平方メートル
    ペントハウス=4.14平方メートル

1坪=約3.3平方メートルですから、20坪足らずの敷地に、居住面積が約30坪程度の家が建っているというイメージです。「ビッグフレーム構法」という独自の構造体で建てられています。これは木造梁勝ちラーメン構造という大断面集成柱を用いるものです。重量鉄骨造の木造住宅版のようなものといえば、わかりやすいでしょうか。

BF

「ビッグフレーム構法」の構造体。大断面集成柱と専用の金具を用いることで、高い耐震性と柔軟な敷地対応力を実現している(注:この建物では見ることができません。クリックすると拡大します)

上下階の通し柱が不要で、各階の柱の位置を同じにする必要がなく各階ごとに空間を構成できる上、耐震性や可変性に優れることも特徴です。ちなみに住友林業は従来、木造軸組工法が主力でしたが、近年はこの構造による建物が主流になっています。 

この建物を特に紹介するのには、ちゃんと理由があります。それは、これが住宅展示場などにある一般的なモデルハウスと比べて、皆さん方にとって都市型狭小住宅について学べることがたくさんあるためです。

というのも、これは現在、モデルハウスとして公開されていますが、将来的には希望する人に売却されるものなのです。ですから、一般的なモデルハウスより、現実的な設えになっていますし、狭小住宅として住友林業ならどこまでできるということが、リアルサイズで体験・体感できるのです。

要するに、このような事例は住友林業の都市型住宅に対する実力がよりわかりやすく反映されているわけで、一方で「どのような工夫があり得るのか」ということについても、皆さんにとってより理解しやすいわけです。

ですので、最近は多くのハウスメーカーで「街角一番」のような取り組みをしています。このような事例を皆さんにもっと参考にしていただきたいという意味で、このモデルハウスを紹介するのです。

北側が道路に面している人気が低い敷地の活用事例

ではここから、この建物にみられる狭小住宅をより快適にするための工夫を見ていきますが、その前に敷地条件を確認しておきましょう。この建物は生活道路が交わる四つ角から2軒目で北側は道路に面しています。

周囲の様子

ペントハウスから見た北側の周辺の様子。低層住宅が建ち並ぶ、典型的な住宅密集地にこの建物は建っている(クリックすると拡大します)

周囲の状況は、正面(玄関側)から見て右側(西側)に2階建て住宅くらいの高さがある倉庫、左側(東側)に民家、背後(南側)には2階建てのアパート、その向こう側には学校のグラウンドがあるという状況です。

もちろん、道路を挟んだ北側にも住宅が建ち並んでいます。どちらの方向にも何らかの建物があるため、周囲の視線に配慮しつつ、採光や通風を確保する必要があるという、典型的な都市の住まいというわけです。

ちなみに、このような開口部を北向きに取らざるを得ない敷地は一般的に敬遠されがちですが、北側への斜線制限を受ける南側の建物より、居住面積を確保しやすいというメリットもあります。

南側の建物は北側の建物の日射などに配慮せざるえないため、屋根部分をカット、つまり片流れ屋根の3階建て、または2階建ての寄棟、切妻の屋根形状にしなければなりませんが、北側に道路があるこのような建物の場合、フラット屋根の3階建てにできるわけです。

この方がすっきりとした建物形状にできますし、特別な工夫がなく施工がしやすいため、建物全体の施工費用を抑えることができるというメリットも発生します。要するに、北側をうまく活用する工夫が施された建物であるということで、見学すると私たちはそんなことも理解できるというわけです。

実生活を豊かにする2階LDKのプラスα空間

地下室

地下室の様子。これくらいの広さがあると様々なモノを収納できるほか、居場所としての活用もできそうだ(クリックすると拡大します)

では、建物内部に入ってみましょう。1階は玄関と主寝室、浴室などで構成されています。主寝室には地下室(11.59平方メートル)が設置されていました。狭小住宅の場合、収納量が少なくなりがちですが、地下室を設けることで収納量不足の解決を図ろうとしているわけです。

中には、普段使わないものや防災グッズなどが置かれていました。で、印象に残ったのが、大変涼しいこと。取材した日は外気温が30℃を超えた日でしたが、ここはエアコンなしでも大変過ごしやすく感じられました。収納スペースとしてだけでなく、夏の隠れ場所にもなりそうな感じでした。

LDKは2階に設置されています。間仕切りのない広々とした空間(15.7平方メートル)ですが、傍らにカウンターデスクと棚を配置したプラスα空間「こまま」と呼ばれる空間が設けられていました。ここは、主婦が家計簿をつけたり、子どもが勉強したりできるスペース。

LDK

2階のLDK。左側の壁には外の建物の状況を反映し、高い位置に窓が設けられている。右側にプラスα空間「こまま」が見える(クリックすると拡大します)


LDKと完全に仕切られているわけではありませんから、LDKにいる家族の様子が何となくわかり、適度な距離感を保てるようになっています。家族といえども、時にはケンカもするわけですから、このようなスペースがあると視線が交わらず良いかも。

また、友人を招待したり急な来客をLDKに通さなければならないケースもありますが、こんなスペースがあるとLDKの見せたくないものを隠すことができます。そうした生活上のよくある困りごとにも配慮しているというわけです。

こまま

「こまま」の様子。こもり感もあるため、夫婦や家族の関係に疲れた時、ホッと一息つける場になりそう。なお、カウンターデスクの背面は棚になっている(クリックすると拡大します)

もう一つ注目したいのが窓の配置。前述したように周りは住宅などの建物で囲まれていますから、周囲の視線と交わらないようにしなければいけません。そこで、2階はリビングだけに大きな窓とし、その他はキッチンやダイニングの上部など高い位置に配置されていました。

また、こうすることで通風と採光に配慮し、建物内の快適性を高めているというわけです。実際に取材した印象ですが、北側にメインの開口部(窓)があるプランでありながら「暗い」という印象を全く受けませんでした。

階段に表れる狭小住宅でも安心・安全をないがしろにしない姿勢

階段スペースからLDKに向かう動線にはパントリー(食料庫)と洗濯機置き場も。これは、洗濯などの家事をできるだけ短い動線でこなせるように配慮したものです。こうしたことも狭小住宅といえども必要なことです。

3階は子ども部屋2部屋と納戸で構成され、さらに屋上(ペントハウス)があります。北側の部屋にはベランダがありますが、3階部分にあることで周囲からの視線から遮られ、部屋との連続性、ゆとりが感じられるように工夫されていました。

階段

階段の様子。踊り場はないが、一段一段の踏み板を大きくし、手すりを設けるなどすることで安全性に配慮している。毎日上り下りするものなので、このような設えは重要なのだ(クリックすると拡大します)

ペントハウスからは、学校の校庭が見渡せるなど視線が良く通るスペース。「我が家だけの空間」として、様々な生活シーンに活用できそうでしたが、ここで確認したいのは狭小住宅であっても工夫次第で快適な空間を獲得できるということです。

これらをつなぐ階段ですが、狭小住宅で最も犠牲となりがちです。特に2階にLDKがある場合、毎日モノを抱えて上り下りしなければなりませんから、階段が急だと大変です。また、年を取った時、転倒して大けがをするケースだって考えられます。

ですので、狭小住宅であっても階段の安全性には配慮したいものです。この建物では、できるだけ踏み板を大きくし、手すりも設置。このあたりに、住み手の日々の生活と将来の暮らしに対する配慮がうかがわれます。

ところで、良い住まいづくりを行うためには様々な事例を実際に見学してみることが、非常に大切です。前述しましたが、今回紹介した住友林業の「街角一番」のような取り組みを、他のハウスメーカーや工務店も実施していますから、是非、今回のようなリアルサイズの建物を見学し参考にしてみてはいかがでしょうか。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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