『踊る大捜査線』以降、テレビドラマでも警察を組織としてとらえる作品が増えていますが、横山秀夫作品は元新聞記者の経験をいかして、刑事だけでなく警察内の様々な職種の視点で事件をとらえることが特長。警察と新聞記者との接点、広報官が主人公の本作は最も得意なパターンです。
また昨年はNHKで『64(ロクヨン)』はドラマ化され、そちらも「横山秀夫原作にハズレなし」といえる、十分によい作品でした。映画は連ドラと比較すると時間が短めになり食い足りない場合もあります。しかし『64(ロクヨン)』はNHK版が58分×5回の290分、映画版は前後編121+119分の240分と近いレベル。さらに映画版では綾野剛、榮倉奈々、瑛太(NHK版では同じ役を弟の永山絢斗が演じています)、永瀬正敏、三浦友和、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、仲村トオル、吉岡秀隆と主演級を多数起用しているのも特長です。
今回は横山秀夫原作のドラマと映画『64-ロクヨン-』の関係を解説します。映画のみならず、その周辺のドラマを見ることでより深く作品を楽しむことができます。
エピソード0
映画公開前に前日譚や脇役キャラを主役にしたスピンアウト作品をテレビドラマとして放送するのはよくあるパターン。映画『64-ロクヨン-』でもTBS系月曜名作劇場で2週連続「横山秀夫サスペンス」が放送されました。『陰の季節』と『刑事の勲章』の二作で、横山秀夫の小説では『64(ロクヨン)』と同じ「D県警シリーズ」。そのため登場人物も重複があります。『陰の季節』『刑事の勲章』の主人公・二渡(仲村トオル)は県警の警務課調査官、一般の会社でいうと人事課長でしょうか。その二渡が警察内部の人事・総務的問題を解決するために動き、それが刑事事件の解決にもつながっていくという、一味違った警察ミステリーです。
そして『刑事の勲章』のラストで、二渡の考えで映画『64-ロクヨン-』主人公、三上(佐藤浩市)を刑事部から広報官に異動させ、映画に続き、二渡も映画版に登場します。他にも二渡と三上の共通の上司である赤間警務部長(滝藤賢一)、松岡捜査一課長(三浦友和)、荒木田刑事部長(奥田瑛二)もドラマと映画に登場しています。
広がる世界
また原作小説の『陰の季節』の登場人物に似顔絵が得意な婦警・平野瑞穂というキャラがいます。ドラマ版では『陰の季節』(演:山下リオ)に登場するその似顔絵婦警、小説の「D県警シリーズ」のもう一冊、『顔 FACE』では主人公に昇格。さらに2003年に『顔』として仲間由紀恵主演でフジテレビが連ドラ化しています。
もう一つの県警
横山秀夫原作でもう一つ「F県警強行犯シリーズ」はさらにこみいった構造で、同じくTBS系2時間ドラマでシリーズ化(2002~2005年)されています。舞台となるのは県警の捜査一課強行犯捜査係。尾関刑事部長(寺田農)、田端捜査一課長(橋爪功)の元、強行犯捜査係一班の朽木班長(渡辺謙)、二班の楠見班長(段田安則)、三班の村瀬班長(伊武雅刀)の三班構成。それぞれの班が競い合い5年間の検挙率ほぼ100%を誇るが、一方でライバル意識が強すぎて班や刑事個人が独自の行動をとり、まとめるのも大変な組織を描きます。
6作あり
- 『沈黙のアリバイ』朽木班長(渡辺謙)
- 『第三の時効』一班所属のまま二班に応援に行く森(緒形直人)
- 『密室の抜け穴』村瀬班長(伊武雅刀)が倒れて代理班長になった東出(石橋凌)
- 『ペルソナの微笑』二班の新人・八代(金子賢)
- 『囚人のジレンマ』3つの殺人事件が起こり全班を指揮する田端捜査一課長(橋爪功)
- 『モノクロームの反転』2班と3班の合同捜査で楠見班長(段田安則)
ただし、渡辺謙は第一作の『沈黙のアリバイ』が放送された後、映画『ラスト・サムライ』(2003)のヒットでハリウッドに進出。全班出動の『囚人のジレンマ』では登場するべきですが「犯人を追って海外出張中」ということになっていました。
TBSのシリーズが終了した後、横山秀夫の原作で2編、新作が書かれました。そのうちの1編『永遠の時効』はテレビ東京「水曜ミステリー9」枠で一係の田中主任(中村俊介)が主人公で朽木班長が田中哲司、楠見班長が光石研、田畑一課長が矢島健一、尾関刑事部長が伊武雅刀とキャストを変えてドラマ化されています。
ドラマと映画の世界をつなげるキーマン
横山秀夫原作ドラマに関わりが深いのは制作会社コブラピクチャーズの越智貞夫社長。ここで紹介したTBSとテレビ東京で制作された作品、それ以外にも佐藤浩市主演の『逆転の夏』、テレビ朝日のドラマ版『半落ち』と内野聖陽主演の連ドラから映画化された『臨場』、と映像化された横山秀夫作品の多くに関わっています。そして映画『64-ロクヨン-』にも企画として参加。横山秀夫作品を熟知しているキーマンも大きな力になったでしょう。
そして映画『64-ロクヨン-』は原作、NHK版とは違った結末となるようで、ドラマを見ていても映画にもいく価値はありそうです。
原作、ドラマ、映画、それぞれおもしろい横山秀夫作品ですが、実は作品の枠を越えてつながりがあり、より深め合っています。それを意識しながら映画『64-ロクヨン-』を楽しんでみては?