ラインナップを拡充するブランドの中心モデル"A3"
アウディA3は、初代がデビューして20年と、アウディ史のなかでは比較的“若い”モデルだけれど、今やA4と並ぶブランドの柱となっている。モデル名の数字が表すとおり、A4の下、つまり欧州Cセグメントに分類され、VWゴルフなどと同じカテゴリーに属している。
現行モデルは13年デビューの3世代目。日本では、主力となる5ドアハッチバックモデル(スポーツバック)のほか、最近では4ドアセダンも追加された。
両ボディタイプとも、1.4TFSI(122ps)、1.4TFSIシリンダーオンデマンド(140ps)、1.8TFSIクワトロ(180ps)、そしてS3(285ps)というメインのグレード構成は同じだが、5ドアハッチバックには加えて、プラグインハイブリッド(PHEV)のe-tron(204ps)システム出力と、クワトロ社設計のRS3(367ps)も用意されているのが特徴だ。
日本市場に最適サイズのプレミアム3ボックス、ブランド初のコンパクトセダンがA3セダン。スポーツバックより全長130mm/全高10mm大きく、全幅は30m広い。価格は321万(1.4TFSI)~617万円(S3)
クワトロGmbHが送り出す特別なハイパフォーマンスモデル、RS3スポーツバック。367ps/465Nmの2.5Lターボと専用チューンされた4WDシステムを積み、0-100km/h加速4.3秒を誇る。価格は756万円
今回は、注目のPHEVグレード、e-tronをメインにリポートしよう。
PHEVの魅力はEVとガソリン車のイイトコドリ活用
PHEVの特徴は、充電ができて短距離ながらEV走行も可能、という点に尽きる。
A3e-tronの場合、110kW(150ps)&250Nmの1.4L TFSIエンジンに、80kW(109ps)&330Nmという高出力電気モーターを組み込んだ6ATをドッキングさせ、8.7kWhという高性能なリチウムイオンバッテリーを後席下に積むことで、システム出力150kW(204ps)&システムトルク350Nmを実現するハイブリッドカーとした。
フルEVと同じ、とまでは言わないまでも従来のハイブリッド車とは比べ物にならないほど高性能なモーターと外部充電可能なバッテリーを積む。そのため、100V家庭用電源から9時間の充電でカタログスペック52.8kmというフルEV走行を可能とした。EVのままでの最高速度も130km/hに達するから、性能的には充分、実用に適していると言っていい。
PHEVの利点は、ごく平均的なユーザーの一日あたり移動距離ならEVで賄えてしまう点だ。e-tronのカタログ値から予測するに、30~40kmくらいは充分にもちそう。つまり、家のガレージで一晩、夜間電力で充電し、たとえば半時間程度のドライブで会社と毎日往復する、などいう使い方であれば、ほとんどガソリンを使わずにすみ、結果、燃費は“無限大”に近づく。もし、用途がこのように限られているのなら、フルEVの購入を検討しても良いわけだが、とはいっても、たまの週末には家族で遠出のドライブも楽しみたいだろうし、帰宅途中に遠い寄り道を強いられる可能性だってある。そうなるとEVの場合、常にバッテリー切れの不安に苛まれるわけで、それがEV普及の心理的壁となって立ちはだかっている。
その点、PHEVなら、たとえバッテリーを使い果たしたとしても、そのあとはフツウにガソリン車として走ってくれる。つまり、停まる心配は、ガソリンが無くならない限り、無用。EVとガソリン車のイイトコドリ活用が、PHEVの魅力というわけだ。
もっとも、いいことばかりじゃない。そんなにいいのであれば、ハイブリッド王国の日本でもっと普及してもおかしくない。けれども、実際にはヨーロッパ勢の方が積極的だ。最大の理由は、値段。リチウムイオンバッテリーのサイズを大きくする=値段が高くなる。実際、e-tronの価格は、1.4TFSIシリンダーオンデマンドに比べて、ざっと+200万円。日本における車載用リチウムイオン蓄電池の価格が約20万円/1kMhとされているから、ちょうどそのぶん+α(モーターやシステム)が上乗せされている。
プレミアムブランドでの活用には一定の価格的バッファも採りうるし、さらに欧州ではガソリンを全く使わない領域があること(前述した街乗りメインの用途)を高く評価している。そのあたり、ブランドイメージとユーザー意識の差が、モデルラインナップの数となって現れているのだと思う。
さらに、PHEVには欠点がある。スペック的には高出力&高トルクに見えているが、重量増も甚だしい。A3では、+250kg程度も重い。毎日、長い距離をガンガン走るという使い方の場合は、ノーマルA3や国産ハイブリッドの方が、実用燃費に優るという事態もありうる。
走りはプレミアムブランドの腕の見せ所
EV走行を優先するEV、バッテリー充電を優先するチャージ、バッテリー消費を抑えるハイブリッド、エンジンとモーターをバランスよく用いるオート、と4モードを選択可能。シフトしはスポーティな走りを楽しめるSモードがそなわっている
もっとも、実車に乗ってみれば、フツウに走らせている限りにおいて、250kgの重量差をさほど感じさせないあたり、さすがにプレミアムブランドだ。もう少し鈍重かと思ったが、単独では低い出力のフルEVモードでも、軽快に走る。
アクセルペダルをめいっぱい踏み込めば、エンジンも掛かる。加速フィールも力強い。ターボとの相性もよく、途切れの無いパワフルな加速をみせた。このあたりのセッティングもまた、プレミアムブランドの腕の見せ所、というわけだ。
プレステージ性、ライフスタイルに合えば検討価値はある
よくできたPHEVだ。他にもゴルフGTEやもうじき発売の新型プリウスPHEVあたりがこのクラスのライバルになるが、アウディのいち高級グレードとしてプレステージ性を高く評価できるという方なら、オーバー500万円というS3並みの価格も受け入れられることだろう。
前述したように、購入の決断に至るまでには、価格差と用途、さらには環境意識をマトリックスして、自分のライフスタイルに合うかどうか判断しなければならないが、乗っても遠出はほとんどなく近所で買物程度(年間走行距離なら1万km未満)というなら、検討してみる価値はある。
今後、リチウムイオンバッテリーの価格が下がっていけば(2020年に向けて着実に下げトレンドだ)、日本でもPHEVが普及する可能性は高いが、しばらくは欧州車のPHEV旋風が吹き荒れることだろう。