不妊症

不妊治療と胎児診断…古賀文敏ウイメンズクリニック(2ページ目)

今回は不妊治療から胎児診断、妊婦健診、産後の育児支援までを一貫してフォローする体制を持つ、福岡・天神の古賀文敏ウイメンズクリニックを取材してまいりました。有名な老舗クリニックがひしめく福岡で、こちらの不妊治療クリニックが急成長している理由とは? さまざまな試行錯誤と工夫があるようです。

執筆者:池上 文尋


Q. 開業された当初の心境をお聞かせください

あのサウスサイドテラスに惹かれて、即断しましたが、開業する前は、まわりの先生方が皆さん有名で、ブランドもできていましたので、とても怖くて生きた心地がしませんでしたね。落下傘開業だったせいもあって、当時はなかなか患者さんが来られませんでしたが、私が国立小倉病院や久留米大学病院で治療にあたっていた方からの口コミで少しずつ増えていきました。

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患者さん用タオルは今治タオルです。

ただ対話を通して治療にあたっていたので、なるべく広げすぎないように努めました。はじめはクリニックも夜8時半まで診療をしていましたし、信頼できるスタッフを揃えるのに時間がかかりましたので、私自身も培養に携わっていました。診療時間が終わってから、明日の培養準備を行い、午前0時をまわるという日々が続きました。

Q. 先生ご自身も培養に携わっていくことは、大きな強みでは?

そうですね。僕自身が培養に関わることで、妊娠に結びつかなかったとき一体どこでつまずいているのか、辿りながら検証することができます。これが培養士に任せっきりの場合はそうもいかないですし、助言することも難しいでしょう。

当院では顕微授精よりも体外受精のほうが多く、6割5分ほどを占めています。これは他院と比較しても割合が多いと思いますが、その理由として、体外受精で妊娠できる事例に対し、顕微授精を行ったからといって胚が良くなるわけではないという、僕自身の実感があったからです。

一時期、顕微授精のほうが脚光を浴びていた時代がありましたし、受精障害であれば確かに、次のステップは顕微授精となります。しかし、7~8割は精子の問題ではなく、卵の育て方の問題、成熟度だと思っていました。

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診察室です。

これは、僕が培養をやっていなかったら辿り着かない考えなのかもしれません。しかし、全て卵もみていましたし、精子のスイムアップも自身で行っていたからこそ培われた感覚なのだと思っています。排卵誘発が一番大事です。

また胚の培養について役立っているのが、聖マリア病院の新生児センターで学んだ経験です。

そこでは、超低出生体重児(1,000g未満の超未熟児)を半年で8人担当したのですが、小さな赤ちゃんは触っただけで皮膚が剥けることもあります。保育器から出したことで急激な温度変化でストレスも受けます。保育器越しに日々観察を愛情をもって行い、なんとなく元気がない“not doing well”を気づくのが大切なのです。Minimum handling、つまり出来るだけ侵襲を加えない、その上でちょっとした変化に気づくことが新生児の医療だと教わりました。

採血ひとつとっても、数日行うと、輸血をしないといけなくなるぐらいですから。

胚は新生児より、もっと小さな存在です。培養器から取り出してじっくり観察し、グレードをつけることは培養する側のためであって、胚のためには何にもなりません。とにかく妊娠させたい、それだけなんだという気持ちが今に繋がっています。

Q. 胎児診断をされているきっかけや想いを教えて下さい。

僕の中ではやはり、不妊治療が産科とつながっているんですよね。

不妊治療を長くされていた方は、燃え尽き症候群のようにそこで時が止まっています。中には、夫婦2人だけの生活がもう10年以上続いていたりするケースもありますので、妊娠した途端、出産や育児が怖くなり、不安に駆られてしまうこともあります。

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待合室です。

また、不妊治療をされている方の中には、夫婦間や嫁姑間の問題を抱えている場合もあります。そういった方にとっては、不妊治療自体がさらに辛く感じることも多く、妊娠が全ての問題を解決するわけではありません。

僕らの最終目標は、子供が健やかに育つことです。せっかく妊娠したとしても不安や心配ばかりではいけない、そのためには妊娠させられるだけではなく、産後の育児支援も必要ではないかと開業当初から思っていました。

ですので、クリニックを始めたときから、ひと月に1回、妊娠中期に振り返りの機会を、そして産後6ヶ月後にもう一度集まっていただき、育児支援をする機会を設けていました。僕の中では、不妊治療に育児支援は切り離せないものでしたから。

そして数年前に新型出生前診断が日本で導入されました。そもそも私は体外受精で妊娠したからといって、その検査を受ける必要はないと考えていましたが、当院の患者さんの多くが検査を希望されたのです。私たちは「統計上、体外受精で妊娠しても赤ちゃんの異常は自然妊娠と同じだよ」とお話していましたが、皆さんはやっぱり不安だったのだと思います。

そのときに強く意識したのが、体外受精で妊娠した方というのは、本当に心の底から喜ぶことができずに卒業していくことが多いということです。

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待合室の壁と棚です。

特に10回ほど体外受精を経験していると、母子手帳を渡して不妊治療を卒業したとしても、流産や破水で産めずに終わるのではないかと常に怯えています。

そして、妊娠8ヶ月頃になってお産が近づいてきても、その準備に取りかかれずにいるのを見てきたので、これは僕の言葉だけではなく、裏付けされた安心を与えてあげたいと思ったことが、胎児診断を始めたきっかけです。

胎児診断では確かに染色体異常をみつけるという意味合いもありますが、僕はどちらかというと体外受精していた人がそれを受けることによって、次の準備をしていいんだと前に進めるような気持ちになってもらえたらと思っています。

Q. 今後のビジョンをお聞かせください

僕の中では不妊治療を大きく横に広げていくのではなく、縦に広げていきたいですね。それが例えば、育児支援だったり胎児診断だったり子供の教育だったり。産後ケアにも関心を持っています。それと同時に、妊娠する前からの栄養の改善にも取り組んでいます。分子整合栄養療法を通じて、日々の食事や生活習慣が健康を形成していることを実感しています。僕らスタッフも栄養の勉強にかなり力を入れています。

そして、できることをやっていきながら、今までのように一人一人に向き合って治療していこうと思っています。そして本来女性が持っている凜とした美しさをサポートしていきたいと思っています。

僕らは湯布院の離れのある温泉宿のように、お一人お一人を玄関までお出迎えして、不妊治療の大切なひとときをゆっくり過ごしていただきたい。そしてこのクリニックで力を蓄えて、新たなステージに向かって元気よく旅立てるようお見送りしたいと思っています。そのために僕らが元気で、“良い気”を持っていることが大切です。頑張ります!

まとめ

今回は、ホテルのような雰囲気の中で、取材とは言いつつもこちらがリラックスしてお話しを伺うことができました。

不妊治療を続けていくことは様々なストレスがかかりますが、それを少しでも取り除いてくれるような雰囲気のクリニック。そして、不妊治療から妊婦健診、産後の育児支援まで一貫してフォローしていただける体制は、患者さんにとって多くの安心感をもたらしてくれることでしょう。

古賀先生ご自身も語り口が優しく、真面目なお人柄ですので、信頼して訪れる患者さんが多いことも頷けます。

お忙しい診療の合間に取材に応じていただきました古賀先生にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。


●関連サイト
古賀文敏ウイメンズクリニック
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