被災した子供には、どの様な心のケアが必要なのか?
子供たちの笑顔を取り戻すためにできることとは?
震災から1か月経った先日、地震による影響調査が発表され、被災した小中学生の約3.5%にあたる2143人にカウンセリングが必要ということが分かりました。これから真摯に取り組んでいくべき心のケアの中で、専門家、親、教師、すべての大人が気をつけていきたいこととはなんでしょうか?それについて考えます。
現地から伝わってくる個人差
震災直後、仕事でお世話になっている熊本の「ままこや助育院」の山野井先生と、今後の心のケアのことでお話しした際、現地の様子についてうかがいました。育児支援者であり、自ら被災した立場でおっしゃっていたのは、「同じ地区で同じように被災しても、その後の捉え方はそれぞれ違う」
「子供の様子は、親の様子と似ているようだ」
ということでした。この2つは心理学的に見ても、非常に的を射た鋭い指摘です。というのも、これまでの数々の心理研究で、
- 同じ状況に置かれても、それをどう捉えるかは千差万別であるものの、
- 親子(とくに母子)は似る傾向が高い
これから心のケアをしていく上で、ケアする側がこの”個人差”をしっかりと受け止めることは非常に大事だと思います。
マズローで見る、今やるべきこと、これからやるべきこと
また、個人差の理解と同様に大切なのが、そのとき必要とされることを見極める力だと思います。ここで見ていただきたいのが、心理学者マズロー博士が提唱した「欲求のピラミッド」です。
マズローの欲求5段階説で分かる、今必要なこととは?
人間は、一番下の食欲、睡眠などの「生理的欲求(レベル1)」が満たされると、1つ上の「安全への欲求(レベル2)」へ上がり、そこが満たされると、次の「社会的欲求(レベル3)」を満たす……、これがレベル5まで存在すると言われています。特徴的なのは、人間の欲求は、低層を満たすことで高層へと進むということ。
これを今回の震災に置き換えると、それまでレベル3や4にいた人でさえ、一瞬にして、いやおうなくレベル1まで落とされてしまったことになります。今、被災者の方が大変な思いをされているのは、その突然の落差もあるのです。
このピラミッドを見ると、被災現場でどのようなサポートが必要かが見えやすくなります。まずは、水、食料、そして、安心して眠れる環境です。もし、レベル1の「生きるための欲求」、そしてレベル2の「安全への欲求」を満たさずして、次の「所属への欲求」へと急いてしまうと、時期尚早のため、被災された方々も気持ち的に受け入れにくくなってしまいます。
実際に、地震当初は、ボランティア活動の受け入れや活動が非常に困難な状況だったといいます。なぜなら、人命救助が行われていた地震直後は、緊急支援車両の道路確保が最優先だったからです。地震の様子をニュースで見ると、「なにか自分にできることはないか」という思いに駆られるのですが、その思いも、適時適所に届かないと、思いが伝わらなくなってしまいます。
先日、熊本地震特設サイトに書かれていたのが、
「今だからこそ必要な活動、これから必要になる活動がある」
という言葉。被災地の様子がずしんと伝わってくる重みのある言葉でした。震災から1か月、「心のケア」は、まさにこれから最優先ですべきことの1つでしょう。
>> 次ページで、アメリカ心理学会で推奨している自然災害時のケアに基づいた、段階的なケアについてお伝えしていきます。