【子供向け】段階的な心のケア
次にご紹介するのは、アメリカ心理学会で推奨している自然災害時のケアです。今の段階で「ただ聞いてほしい」「抱きしめてほしい」という子もいれば、すでに何か能動的な活動に取り組める子もいます。そんな「個人差」を踏まえ、前ページの「マズローのピラミッド式」に、1から段階的に取り組めるようにアレンジしてみました。- 子供との時間をできるだけ増やす:
被災直後の数カ月に求められるケアは、何よりも子供たちに安心感を与えてあげることです。今までよりも、「抱っこを求めてくる」「甘えてくる」、これは親を安全基地としているためで、そこでしっかりと甘えさせてあげることで、不安が解消されます。とくにスキンシップは子供の安心感を高める効果があります。
- 映像を避ける:
地震のニュースを映像で見ると、視覚的にトラウマとして残りやすいことが分かっています。徐々に露出は減ってきていますが、今後も気に留めて、必要以上にさらさないようにしましょう。
- 遊びで緊張をほぐす:
遊びを通して気持ちを外に発散させることは、緊張感を解きほぐす上でもおすすめです。小さなお子さんは、言葉ではまだ上手く気持ちを出せないので、お絵かきなどを使って気持ちを表現させ、その思いを感じ取ってあげるのも有効です。
- 経験を話し合う:
自分の気持ちを言葉で表現できる子には、感じていることや考えていることをシェアするのもおすすめです。話すことで、心の中の不安を減らすことができたり、ごちゃごちゃになった思いを整理することができたり、エスカレートしそうになる感情をコントロールしやすくなったりします。災害時の混乱で情報を誤解して捉えてしまい、それが不安の原因になっている場合もあります。正しい情報で頭を整理してあげましょう。
- 助け合いの場に参加する:
他者を助ける経験はその子の自分力を強くします。困っている人を助け、「ありがとう」と感謝されることで、自分を価値ある存在と認めることができ、自己肯定感が高まっていきます。
以上は、子供向けの心のケアですが、大人も同じように傷ついていることを忘れてはいけません。親はなによりも我が子の心を心配してしまいますが、ご自身のケアもとても大切です。
冒頭にも書いたように、親子は受け止め方が似るものです。「親が元気になれば、子供も元気になる」、その連鎖をうまく活用し、お父さま、お母さまご自身の心のケアにも力をいれていく必要があります。これも、子供のケア同様に、1から段階的にまとめてみました。
【親向け】段階的な心のケア
- 自分で自分を焦らせない:
「私がこうなるべきではない」「もっと~~しなくてはいけない」のような絶対的な口調で自分自身を統制しようしてしまうと、実際の心の中の思いを無理に押さえつけてしまうことがあります。「大きなことが起こったのだから気持ちの整理には時間がかかって当然」という立ち位置から、自分のことを見つめてあげてください。
- お酒などに頼らない:
ストレスがあるときやうまく眠れないときなどに、アルコールに頼ってしまうと、逆にそれを悪化させてしまうことがあります。健康的な食生活を心がけることで、ストレスへの耐性が高まっていきますので、飲みすぎ、やけ食いなどは避けるようにしましょう。
- 1人で頑張らない:
自然災害では、普段親しくしていた方々も同じような状況にあります。その仲間は、他の誰よりも気持ちを分かってくれる人であり、共感してくれる人です。そして、同時に、自分もその方たちの共感者になることができます。状況を一番分かってくれる身近な人々とのつながりから得る”癒し力”を感じてみてください。
- あえて健全な生活リズムを意識する:
不便な生活を強いられている方もいらっしゃると思いますが、その中でできる健全なこと(例:生活リズムを守る、体操をする)を積極的に取り入れるようにすると、自己効力感が促され、ストレスを克服しやすくなります。
- 周りを助ける:
子供向けのケアでも書きましたが、苦境にいるときに、あえて他者を助ける活動をすると、その人の自己コントロール力を復活させたり、自分自身に自信を取り戻したりする効果があります。親子でボランティアに参加するのも非常に良いアイデアだと思います。
これから真摯に取り組んでいくべき、心のケア。私も、山野井先生とともに、親子の心のケアを続けてまいります。今回ご紹介した心理学的な側面を、ぜひ今後の心のケアに役立てていただければと思います。