紀元3世紀頃から存在する歯科インプラントの歴史
歯科インプラント治療も外科手術の一つ。少しでも心身に負担の少ない「低侵襲治療」を選択することができます
実は歯科インプラント自体の歴史は古く、ヨーロッパや中南米で発見された紀元3世紀頃から紀元7世紀頃のものと思われる人骨の顎の部分に、鉄や貝で出来たインプラントのようなもの埋まっているのも発見されています。しかしインプラントが歯科治療の一環として確立されたのは、1952年に近代インプラントの素材として広く使用されているチタンと骨の結合が発見されてから。そして臨床を重ね広く世間に広まったのはさらに後の1980年代といわれています。
インプラント希望の患者さんや埋入件数が増えればそれだけインプラント治療に対する情報量も増え、さらにはインターネットの普及により事前に治療にかかるあらゆる事柄を各自で調べておくことも出来るようになりました。求める人が多ければ、提供する側が増えれば、必然的により良いもの手に入れたい、提供したいという欲求も増えます。
今回は多くの人が気になっているであろうインプラントを埋入する手術そのものについてお話いたします。
心身のダメージを少なく抑える「低侵襲治療」とは?
歯科治療での外科手術を経験したことのない人でも、一般的な開腹手術と腹腔鏡を使用した手術にはどのような違いがあるかは想像がつきやすいでしょう。身体に大きくメスを入れる開腹手術は手術そのものにも大きな負担が掛かる上に、傷口が塞がるまで長期間を要し、行動や食事が制限され心身ともに大きなストレスがかかってしまいます。一方、腹腔鏡を使用した手術は体に数ミリ程度の穴を数か所開けて内視鏡や手術器具を挿入しモニターに映し出される様子を見ながら手術を行うため、傷口も小さく済み治癒も早く負担が少なくなります。
このように患者さんの負担を軽減させる治療を「低侵襲治療」といいます。しかし、技術面でより高度なものを求められるのは後者の腹腔鏡手術の方です。そしてそれはインプラント治療においても同様です。
より負担の少ないインプラント治療へ
上顎洞粘膜を破ることなく上顎洞底を挙上し、中心にインプラントをしっかり固定。膜をリフトして出来た空間には骨補填材料を充填。
通常の上顎洞底挙上術であれば側面からおよそ15ミリほど開窓し、治療箇所を直視しながら骨補填を行います。メスを入れる範囲が広ければそれだけ術後の腫れや痛みも強く、大きい負担を伴ってしまいます。しかし、これらも条件と術者の知識・技術が伴っていれば負担を減らす低侵襲治療への転換が可能なのです。
歯科用3DCTにより埋入位置と埋入深度が正確に読み取れ、骨の厚みも充分にあり複雑な骨造成が不要な場合は歯肉と歯槽骨を剥離せずに「フラップレスオペ」というインプラント手術を行う事が出来ます。しかしフラップレスオペは実際に歯槽骨を見ることなく手術を行うため、事前に確認している埋入位置や埋入角度、埋入深度を見誤ってしまうという単純ミスを起こさない注意が必要です。
また、インプラントを埋入したい箇所の歯槽骨が不足しており本来は骨移植や骨造成の必要がある場合も、短めのインプラント(ショートインプラント)を使用したり、埋入角度を変えたりと技術によってカバーする「グラフトレス」という治療法を選択する事が出来ます。さらに少しの骨造成であればインプラントを埋入するため小さな穴から骨補填をおこない、同時にインプラントを埋入することもできます。勿論こちらも事前のデータ収集と微妙な骨質を感じ取れるなどの経験・技術は必須です。
インプラントで低侵襲治療を受けるためには
大前提として必ず必要なのは、皆さんの口腔内が低侵襲治療を受けるのに適した状況なのかどうか。そして、担当医の技術がそれに伴っているかどうか。誰だって痛みが少なく治癒も早い治療を望むはずです。しかしそれには条件がある事を念頭に置き、まずは掛かりつけの歯科医院に相談してみましょう。本当はインプラント治療を受けたいのに手術が負担で二の足を踏んでいる方へのアドバイスになれば幸いです。