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東北被災地の課題と温度差 仮設住宅で阿波踊り2016

東日本大震災の津波により壊滅的な被害に遭った宮城県名取市の閖上地区に今年も行ってきました。震災発生から5年あまりが経過し、私たちは「復興はかなり進んでいるだろう」と思いがちですが、実際にはそんなことはなく、未だ道半ばという印象でした。今回はそのレポート。福島の復興の状況についても触れます。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

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東日本大震災から5年あまりが経過しました。5年も経つと「被災地の復興はずいぶん進んだのだろうな」とか、「被災した方々の住環境は改善されたのだろう」と思われがちですし、被災地への関心そのものが薄れつつあるのが現状だと思います。そこで、今回は私が1年ぶりに訪れた宮城県名取市閖上地区の復興、中でも住宅復興の様子をレポートします。福島県の原発事故の影響を受けた地域に関しても言及します。

東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた閖上地区

私が閖上地区を訪問したの4月9日と10日で、今年で5回目。ここには埼玉県越谷市に本社を置くハウスメーカー・ポラスグループが建設した応急仮設住宅(仮設住宅)「美田園第一仮設住宅」があります。同社や越谷市の方々が、入居されている方々を阿波踊りを披露することで慰問しているのですが、それに私も同行させていただいているのです。

阿波踊り

今年の阿波踊りは仮設住宅だけでなく、閖上地区に設けられた朝市でも披露され、地元の人たちとの交流も行われた。なお、朝市は毎週日曜日に開催されており、地元でとれた海産物や野菜などが販売されている。(クリックすると拡大します)

毎年訪問する目的の一つは、被災地の復興を定点観察すること。閖上地区には高さ10m近い津波が押し寄せました。名取市全体で死亡者964人(2014年3月末時点、行方不明者含む)、半壊以上の建物5000棟以上(非住宅含む)という被害を受けました。閖上地区はその中で最大の被害を受けた場所です。

定点観察することにより、その被害から現地がどのように復興の過程をどう歩もうとしているのかということを伝えること、それにより震災に関する記憶を少しでも風化させないようにするということが狙いです。

さて今回、特に報告したいのが5年が経過したことで、住宅再建の動きが本格化している、あるいはしようとしていること。そして、その一方でまだその道のりに長い時間がかかりそうだということです。また、復興の動きに明らかに存在する温度差についてもお伝えしたいと考えています。

まずは、「本格化している」部分について。仮設住宅の周辺は仙台空港とつながる鉄道があるため、元々、住宅地として人気の高いエリアであったこともあり、新しい住宅がどんどん建設されてます。

仮設住宅の道路を挟んですぐのところにも、災害公営住宅を含めた住宅地、いわゆる集団移住地が完成し、既に新たな暮らしをスタートさせた方々がいらっしゃいます。このあたりは昨年には見られたことですが、残念ながら閖上地区の方々を対象としたものではありませんでした。

宅地造成工事がいよいよ本格化したが…

今年訪問して大きな変化と感じられたのは、閖上地区の方々が住むことになる住宅地の造成が始まっていたことです。これには少し説明がいります。閖上地区では「現地再建」、要するに元の閖上地区があった海沿いの場所を3~5mほどかさ上げするかたちで進められています。

商店街跡

閖上地区はかつて赤貝で有名な漁業の街として知られていた。写真は当時の商店街の案内図。今もわずかだが住宅の基礎などが残り、そこに当時の人の営みをとどめている(クリックすると拡大します)

昨年にも一部で造成工事が始まっていましたが、今年はその規模がより拡大され、周辺の光景が昨年とは大きく変貌していたのが印象的でした。いよいよ住宅再建、暮らしの再建が本格的に進み始めたと感じましたが、話はそう簡単ではないようです。

実際にそこに災害公営住宅を含めた住宅などが完成し、居住が開始されるのには、まだ少なくとも3年ほどの時間が必要。かさ上げのためには盛土をしなければならず、それを固め安定させ、住宅地として十分な地盤となるまで時間がかかるためです。

また、名取市の内陸部に移住を希望する住民の方々との意見調整が必要などという状況もあり、本格的な再建にはまだまだいくつかのハードルがあるようです。要するに復興の動きが見られる中で課題もあるのです。

一方で、仮設住宅の集約化も始まっていました。集約化というのは、市内各所に分散してあった仮設住宅を数ヵ所にし、それ以外は解体するということです。美田園第一仮設住宅は一時期、入居者が減っていたのですが、現在はその受け皿となってほぼ満室に近い状況になっていました。

これは自力での住宅再建や賃貸住宅、災害公営住宅へ入居した人々が増えたということです。そういう意味では、住宅再建は目に見えて進んでいると考えられそうです。しかしながら、その一方で新たな問題も浮上しているといいます。それは、新たな環境における「絆」の喪失です。

新たな住環境を獲得する一方で「絆」を喪失するケースも

新たな住環境に移り住んだとしても、そこには仮設住宅の中にあった共同体意識、横のつながりがなく、特にお年寄りを中心に孤独感にさいなまれるというケースがあるそうです。ですから、美田園第一仮設住宅がイベントの参加を呼びかけるなどし、その絆の維持に努めているといいます。

宅地造成

閖上地区の方々が「集団移住」するための土地の造成が本格化していた。住宅や学校、商業施設なども含めた開発が行われるというが、本格的に人々の賑わいが戻るのはまだ先のことだ(クリックすると拡大します)

仮設住宅は狭さや遮音性の低さ、劣化など住環境上の様々な問題がありますが、住民同士の交流や様々な団体の支援があり、それらは入居者が孤立するケースを少なくしています。ですから、災害公営住宅などに移った方々の中には、「仮設住宅に戻りたい」という人もいらっしゃるとのことです。

また、仮に災害公営住宅に入居しても、お年寄りを中心とした方々にとっては、それが逆に悩みの種となっているそうです。災害公営住宅は所得により優遇されるとしても、仮設住宅と異なり家賃負担が発生するからです。

災害ではお年寄りや幼い子どもたちなどが「震災弱者」となるケースが多いのですが、復興への取り組みが5年経過した今でも、それが継続しているわけです。いずれにせよ、住宅復興においては、災害公営住宅の入居に当選するしないも含め、現地では複雑な感情が渦巻いているというのが現在の状況です。

ところで今回は、初めて常磐自動車道を利用することで現地への道のりを往復しました。常磐自動車道は昨年3月末に全線開通したものですが、ここを通ることでいわゆる原発事故による影響を受けた地域の様子をうかがい知ることができました。

影響が未だに深刻な福島県の原発周辺エリア

「うかがい知れた」というのは、ルート上には「帰宅困難地域」、つまり放射線量が未だに高い場所があり、バスの外に出られなかったためです。いわゆる「帰宅困難地域」と呼ばれるエリアで、高いところででは毎時4.2マイクロシーベルト(μSv/h)と表示されている箇所もありました。

浪江町

福島県双葉郡浪江町の様子。除染作業すら行われておらず田畑は雑草に覆われたまま。集落の建物は地震による揺れなどで屋根が痛んでいるものがあるが、応急処置が施されたのみで放置されていた(クリックすると拡大します)

東京が0.03μSv/hくらいですから、4.2μSv/hという放射線の多さがわかっていただけると思います。車窓に広がる光景からは原発事故の傷跡の深さが感じられました。というのも、帰宅困難地域以外の場所は地表の土が削られ、所々に除染された土を集めた土嚢が大量に集積されている様子が目の当たりにされましたから。

中でも帰宅困難地域は、除染さえされず放置されていました。もちろん人の姿は全く見られません。地震の揺れにより倒壊したままの建物もいくつか見られました。要するに帰還のメドが全く立っていない地域が現実としてあるわけです。

復興庁のホームページによると、今年3月10日時点の東日本大震災による避難者は全国に17万841人おり、このうち福島県では最大規模の5万3983人、うち仮設住宅などでの避難者は5万1727人となっています。

除染エリアの拡大や、前述した高速道路の開通などインフラの整備により、少しずつふるさとへ帰還できる環境が整えられていますが、とはいえ避難生活を今後も長く継続せざるを得ない人たちが数多くいらっしゃることに、今回改めて気づかされました。

閖上の方々の場合は「あと3年くらいで暮らしが改善するかも」と先が見えているわけです。一方で、福島の帰宅困難地域の方々にはまだ全く先が見えないという、復興の温度差がまざまざと感じられました。

最後になりましたが、5月16、17日に発生した熊本県・大分県における大地震において被災された方々に対してお見舞いを申し上げます。

私たちマスコミ関係者は、警察や消防、自衛隊、医療などの関係者とは違い、このような大震災が発生した際、状況を把握し、分析しそれを伝えることくらいしかできません。そういう意味では大変無力な存在です。

しかしながら、継続的に取材を続け、そこで見聞きしたことを紹介することで、記憶の風化を防止し、今後起こる災害に対しての何らかの手助けができるはずと考えています。

ですので、少なくとも閖上の方々が仮設住宅から出て、新たな住まいを得られるまで、取材と記事にすることに、私は継続的に取り組んでいきたいと考えています。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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