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閣僚の資産公開における土地評価のカラクリ

新内閣発足などに伴う閣僚の資産公開では、土地について実勢価格とは大きくかけ離れた金額が公開されることも少なくありません。いったいなぜそのようなことになるのか、土地評価のカラクリを考えてみました。

執筆者:平野 雅之


新たな内閣が発足したとき、あるいは改造があったときなどには閣僚の資産が公開されます。

たとえば、2014年12月に第3次安倍内閣が発足した後には、トップの麻生太郎副総理兼財務相が4億9,127万円で、4億5,772万円の竹下亘復興相、1億528万円の安倍首相の3人が1億円超だとマスコミで報じられていました。

公開される金額がほとんどあてにならないことについては、「閣僚の資産公開を信じてはいけない」でも取り上げていますが、2008年には麻生太郎首相(当時)の東京都渋谷区神山町の自宅が土地だけで50億円を超えると報じた新聞もありました。

地価の変動があるとはいえ、10倍以上の開きです。

また、2007年の例をみると福田首相(当時)の東京都世田谷区野沢四丁目の自宅敷地が、86平方メートルで価格は376万円となっていました。1平方メートルあたり4万円あまりの土地が東京23区のいったいどこに存在するというのでしょうか。

最近の事例では、2015年10月に発足した第3次安倍改造内閣の新任閣僚のうち、加藤勝信一億総活躍担当相が所有する東京都杉並区の宅地が315平方メートルで1,634万円とされています。1平方メートルあたりにすれば、やはり5万円程度にすぎません。

同じく新任閣僚の林幹雄経済産業相は、千葉県内に数百平方メートルで総額1万円、2万円といった田や畑、0万円の山林などがずらっと並んでいますが……。

林大臣の例はさておき、いったいどうしてこのような実勢価格と大きく乖離した土地価格になるかといえば、資産公開の対象が「固定資産税の課税標準額」となっているためです。少しややこしいのですが、固定資産税の「評価額」ではなく「課税標準額」です。

固定資産税の評価額はもともと実勢価格の7割程度が目安とされていますが、実際にはそれを下回ることが少なくありません。さらに課税標準額の算定にあたっては、一定の負担調整措置が施されているため、場所によっては実勢価格の半分を下回ることもあるでしょう。

そのうえで、小規模住宅用地であれば課税標準の特例(200平方メートル以下の部分は6分の1)など、いくつかの特例を適用した後の価格が公開対象となる「課税標準額」であり、実勢価格の10分の1以下となっても不思議ではないカラクリがつくられているのです。

所有不動産に関していえば「ほとんど意味のない価格」を公開しているわけであり、それに加えて普通預金や現金は公開の対象外で、株式も銘柄と株数しか公開されないため金額には含まれていません。

資産公開は政治の透明性を高めるために始められた制度ですが、このままではかえって国民の不信感をあおることにもなりかねません。公開のたびに「◯◯大臣はいくら」などと大きく報じるマスコミもありますが、もう少しその実態に踏み込むべきなのでしょう。

不動産の実勢価格を評価するためにはそれなりの費用もかかるため、「政治にかかる金」を増やさないことを考えればそれも現実的ではありません。しかし、特例などが適用される前の「固定資産税評価額」を公開対象にして少しでも実態に近付けることは、余分な手間もお金もかけずにできるはずです。


>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX

(この記事は2007年11月公開の「不動産百考 vol.17」をもとに再構成したものです)


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閣僚の資産公開を信じてはいけない

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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