高めの着座位置で前方視界は良好
前席はシートサイズ、ホールド性ともにまずまず。前席よりもかなり高い位置に座る印象の後席は、背もたれも座面もやや平板な印象を受ける。アップライトに座らせる設計もあって、短めの全長を考えるとキャビンの広さは納得できる
Aセグメント(スモールカー)とSUVのクロスオーバーモデルで、最低地上高は180mmとやや高めで、それほど腰を曲げなくても身体を横に滑らせる感覚で乗り降りできる。運転席に収まるとアイポイント、ヒップポイントの高さが印象的で、前方、左右の視界も良好だ。斜め後方の視界はもう少しだが、取り回ししやすいコンパクトなボディサイズなのでそれほど気にならない。
発進時は、加速時とともに最長30秒のモーターアシストにより、エンジンの負担を抑えるというマイルドハイブリッドシステムだが、街中でストップ&ゴーを繰り返すシーンなどではスムーズに発進できるし、普通に走る分にはエンジン回転も抑えられているから室内は比較的静かだ。
ただし、1.2Lの直列4気筒エンジンは、試乗ステージだった箱根の山で回すとエンジン音のうなりが車内に容赦なく侵入し、近くを通過するイグニスを車外で聞いていても結構大きめ。高負荷領域で音が高まるCVTということもあるだろう。
なお、高速道路の法定速度前後の巡航なら静粛性はもちろん及第点以上といえるレベルなので、気になるポイントとまではいえないが。
乗り心地とハンドリングのバランスがいい
足まわりの仕上がりの良さも最近のスズキの特徴だが、新しいプラットフォームの採用に合わせて新設計されたサスペンションの仕事ぶりも見どころだ。
乗り心地はやや硬めも、2435mmという短いホイールベースにも関わらず、ボディの微小な揺れも押さえ込まれている。コーナーではそれなりにロールするが粘り腰でヒップポイントの高いモデルに乗っている感じがあまりしない。
スイフトのようにハンドリングを最重視したフットワークまでとはいえないものの、キビキビと軽快にコーナーをクリアしてくれる。直進安定性とのバランス、そして乗り心地のバランスがとれていて、好感が持てるシャーシに仕上がっている。
アップライトに座らせるのは前席だけでなく、後席も同様だ。前席よりも頭ひとつ分近く高い場所に座る感覚で、前方の見晴らしはまずまず。前席下に足が入るため多少だが足を伸ばすことができるし、頭上空間は171cmの私でこぶし1つ分の余裕があった。なお、膝前の空間は私がドラポジを決めた後で、こぶし2つほど。
ボディサイズを考えると、居住性、積載性も上々
気になったのは、座面の前後長が短めである点で、座面の角度(傾斜角)も水平気味なので太もも裏のサポート性が少しもの足らない。短時間ならいいが、長時間座っていると疲れを誘いそうな気もする。なお、後席は165mmのスライド(HYBRID MZ、HYBRID MX)が可能で、後席の背もたれにあるレバーで調整できるため、荷室を拡大したい際なども便利だ。
荷室容量は、後席を立てた状態でもスライドにより容量が異なり、後席後端時は133L、後席前端時は258L、後席背もたれ前倒し時は415L。さらに、サブトランクもあり2WDは106L、4WDは36Lとなっている(HYBRID MGは荷室ボード、サブトランクがレスとなる)。後席を前端させると5名乗車状態でも9.5インチのゴルフバッグが1つ積載できるという。
Aセグメントのスモールカーで、クロスオーバーモデルというのは国産車ではほとんどなく、輸入車ではフォルクワーゲンのcross up!(全長3570×全幅1650×全高1520mm、最低地上高155mm)くらいしかないが、こちらはFFのみ。価格も200万円に迫る設定で、燃費は25.2km/Lと良好だがハイオク指定という、日本での泣き所もある。
一方のスズキ・イグニスは138万2400円~177万8760円という車両価格に加えて、セーフティパッケージを付けても9万7200円プラスで済むし、当然ながらレギュラーガソリンで済むという利点もある。
ライバルは他のスモール、コンパクトカーになるだろうが、取り回ししやすい全長3.7m、4WDも設定するというイグニスは、多少ニッチな気もする、空白のクラスを埋めるほぼ唯一の選択肢といえそうだ。