アドバイス1 早期退職は資金面ではきびしい結果に
最初のご相談として、奥様が早期退職すべきかどうか、老後資金の面から考えてみましょう。まず、奥様が早期退職し、そのままリタイアされた場合ですが、当然ながら家計は目に見えて厳しくなります。試算をしてみますと、基本生活費が現状と同じであれば、退職した年は退職金100万円によって黒字になりますが、翌年から年間50万円程度の赤字に転落。結果、貯蓄を含めた金融資産を取り崩す生活となりますが、それもおよそ11年後に底をつくことになります。収入減に合わせて支出を抑えるにしても、家計を見る限り、さほど無駄があるわけではありません。食費や小遣い、雑費等が削減の対象になるでしょうが、全体で月4万円ほどの削減は、一時的には可能でも、それを継続させるのは難しいでしょう。しかも、先の試算には不定期な出費は盛り込んでいません。実際にはさらに赤字幅が大きいことも考えられるのです。
では、早期退職後、赤字となる50万円分をパート収入で得た場合はどうでしょうか。しばらくは、家計収支はトントンですが、ご主人が定年後、公的年金だけでは明らかに生活費が不足します。運用部分が、期待通りの利回りで増えていかないと、老後資金は不足気味に。実際、運用利回り2.5%でも奥様が70歳を過ぎたあたりで資金残高がゼロになってしまいます。
対して、パート収入を倍の100万円とすれば、毎年50万円の黒字となりますから、金融資産は確実に増えていきます。運用利回りが0%でも、ご主人が62歳のときに1000万円を超え、定年時には退職金と合わせて1800万円超となり、ある程度まとまった老後資金が確保できます。ただし、パートでそれだけ稼ぐには1日5時間勤務、時給800円として年間250日働く必要があります。
つまり、労働時間はフルタイムと大きく差はありません。であれば、早期退職せず、今の会社でずっと働いても、体力的には変わらないのではないでしょうか。もしそうした場合、現状の収入をキープすると、年間収支は165万円の黒字となり、ご主人が65歳のとき、金融資産は3000万円を超えます。受け取る公的年金も増え、貯蓄をさほど取り崩すことなく生活できる水準となるはずです。
ただし、奥様の体調、体力を考えると、雇用継続は簡単には決められないと思います。したがって、まずは勤務先に仕事の配分や時短勤務を相談されてはどうでしょう。それが可能なら、勤務としてはベストな形だと思います。
アドバイス2 遺言書は相続において最低限必要
次に相続に関連したご相談ですが、「マンションが夫名義のため、万が一があったときに不安」ということについては、確かに自宅等の所有権は事実婚の状態では、原則相続されません。とは言え仮に入籍し、遺言書で妻にすべて相続すると記しても、実子には遺留分(民法で定められた相続人が最低限相続できる財産)があります。事実婚であれば、実子の遺留分は相続財産の1/2、入籍していても1/4となります。相続に備えて預貯金の準備をされるか、スムーズに相続できるよう事前に実子と話し合っておく必要があるでしょう。
ともあれ、ご主人が年上ですから、遺言書は早めに用意してもらうべきです。また、なぜ退職されたら入籍をし、継続して働くなら事実婚のままなのか、その理由がわからないのですが、ともあれ、相続については入籍しておくことで条件が有利になることはあります。
アドバイス3 夫の死亡保障を確保しておきたい
保険について、ご主人の死亡保障がないのが少し気になります。住宅ローンについてはご主人が団体信用生命保険に加入しているはずですから、万が一のことがあっても心配はいりません。また、事実婚であっても、一定の要件を満たせば、遺族厚生年金を受け取ることができます。ただし、それで生活費が確保できるかどうかは、また別の問題です。
奥様は遺族厚生年金と、65歳になるまでは、中高齢寡婦加算を受け取れますが、その額はおそらく100万円程度。月にして8万円程度ですから、きびしいと言わざるを得ません。保険期間はご主人が定年を迎える65歳まで定期保険か、月10万円程度の収入保障保険に新たに加入するといいでしょう。ただし、事実婚の相手を保険金受取人にする場合、一定の要件が必要(保険会社によって異なる)になるので、注意が必要です。
最後に住宅ローンですが変動にしては金利が割高です。おそらく、優遇がなかったからだと思われますが、最寄りの、あるいは付き合いのある金融機関にいくつか借り換えを打診してみてもいいと思います。固定でも10年程度であれば、金利はこちらの方が低いのでは。当然、借り換えコストが発生しますがそれを加算しても総支払額が得であれば実施したいところです。
教えてくれたのは……
平野 泰嗣(ひらの やすし)さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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