高齢者のリハビリは、黙々と運動を続けるだけではなく、他者と関わりながら意欲を保っていくことが大切です。
高齢でもリハビリを通じて要介護状態を改善する、または悪化を阻止するには、本人の意欲や家族の応援、他支援者とのコミュニケーションなど、身体機能訓練以外にも様々な力が必要不可欠になります。
半年間のリハビリによって
杖なしで歩けるようになった81歳女性
ここで、実際に通所介護施設(デイサービス)の利用を通じて、膝痛や歩行状態を改善させたケースを紹介します。81歳の女性Aさんは、もともとシルバーカー(押し車)を使って自由に屋外を散歩していましたが、膝痛が年々悪化し、屋外はもとより自宅内でも「壁や棚を伝いながら、やっとの思いで移動する」状態に陥っていました。介護保険を申請すると要支援2の判定を受けましたが、入浴や排泄などの身の回りの動作が日に日に不自由になってしまったそうです。
Aさんは一人暮らしでしたので、自分のことは自分でという気持ちが人一倍強かったのでしょう。「ホウキを使って、家の周りくらいはきちんと掃除しておきたい」などと思いを語り、リハビリをメインとしたデイサービスの利用を希望しました。
デイサービスでは、主に理学療法士が作成した筋力アップやバランス感覚を改善させる訓練に取り組みました。すると、約半年後には、杖も使用せず自宅内や庭先を歩行できるまでに状態が改善しました。ホウキを使った掃除も安全にこなせるようになったAさんは、デイサービスの利用頻度を減らしながら日常生活に自信をつけ、最後には無事「デイサービス利用終了」の日を迎えることができました。
Aさんが歩けるようになった理由は?
~身体機能訓練以外に知っておきたい大切な要素~
なぜAさんは短期間のうちに状態を改善させることができたのでしょうか?以下、重要と考えられる5つのポイントを挙げます。1)「要支援」の段階でリハビリを開始
Aさんの要介護度は「要支援2」。日常生活の一部に介護や見守りを必要とする段階です。日常生活において僅かでも「自分でできること」が残っている段階で始めるリハビリは、ほぼ寝たきり・座りきりの状態で始めるよりも成果を得やすくなります。
「訓練で膝痛を改善できる」段階でリハビリを開始できたことも功を奏しました。Aさんの場合は、太ももの筋力訓練により膝痛を軽減することができました。もし、「歩くのが怖い」ほど痛みが悪化していたとすれば、リハビリはもっと難航していたはずです。
2)自主トレーニングを継続
介護サービスをうまく活用し、家族や仲間と関わりながらリハビリを進めていきましょう。
3)デイサービス利用目的や目標を常に意識
Aさんは、デイサービスに来るとすぐに「今日の訓練は…目標は○回、○○には要注意」などと、同じ利用者やスタッフに向けて「宣言」していました。スタッフが見守るなか目標として掲げていた「ホウキを使った掃除」に挑戦し、リハビリの成果や課題を確認する時間も持っていたそうです。自分のスケジュールをしっかり把握しており、自立した生活への意識が伺われます。
4)健康状態への関心
もともと「健康」に関心の高かったAさん。健康情報を伝えるテレビ番組やホームセンターで販売される健康器具を欠かさずチェックする習慣がありました。長い間一人暮らしをしていたこともあり、自分自身の健康状態にも日頃から気を配っていたのでしょう。体の調子を崩す以前からの生活習慣や興味関心は、リハビリの成果を左右する重要な要素です。
5)家族の応援
近所に住むお孫さんが、度々自宅を訪れ様子を見に来てくれていたそうです。時には、自宅で簡単に筋力アップが図れる道具や健康器具をプレゼントしてくれたのこと。こうした関わりから、自分のためだけではなく、お孫さんを喜ばせたいという気持ちが、リハビリの成果に表れたのかもしれません。
介護サービスや家族・地域の力を活かしながら
自分でできることを一つでも増やすリハビリを
もっとも、Aさんのように出来るだけ介護度が軽い状態でリハビリを開始するのが理想ですが、障害の内容や程度、合併症の有無によっては、それが叶わない場合もあります。また、高齢者の場合、いったん日常生活に介護または見守りが必要な状態に陥ってしまうと、どんなにリハビリが上手くいったとしても、日常生活が「完全自立」するケースは非常にまれです。Aさんも含め、高齢者が住み慣れた地域で、健康で長生きするためには、介護サービスまたは地域の力(家族やご近所さんとの協力)をうまく活用しながら心身の状態を維持する必要があるでしょう。
それでも、リハビリを通じて日常生活のなかで少しでも身体が動かしやすくなり、一つでも「自分一人で安全に行えること」が増えれば、自分自身の健康状態悪化を阻止するだけではなく、家族の負担・不安を軽減できる可能性があります。