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過去のマンションブームの終焉を振り返る

新築マンションは都心部を中心に好調を維持しているようですが、過去の大量供給時代に比べて発売戸数は半分以下の水準にとどまっています。それが大きく減少した時期に何があったのか、改めて振り返っておくことにしましょう。

執筆者:平野 雅之


2015年10月に発覚したマンションの杭問題など、いくつかの不安要素を抱えながらも、新築マンション市場そのものは好調を維持しているようです。不動産経済研究所のまとめによれば、首都圏において9月、10月は2か月連続で契約率が60%台に落ち込んだものの、11月には80%台を回復しました。

ただし、首都圏の新築マンション市場を牽引しているのは主に東京都心部であり、高級物件の販売も影響して11月の平均価格は1991年6月以来、24年ぶりに6,000万円を突破したのだとか。

その一方で、首都圏の新築マンション年間発売戸数は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要があった2013年以降は減少が続き、2015年は4万戸を少し上回る水準にとどまりそうです。過去最多は2000年の9万5千戸あまりですから、その半分以下の戸数でしかありません。

それでは、新築マンションの発売戸数が大きく減る潮目の時期が数年前にあったことを覚えているでしょうか。首都圏では2005年に8万戸台だった発売戸数が、2006年に7万戸台、2007年に6万戸台、そして2008年に4万戸台となったのです。

その頃に何があったのかを振り返ってみると、まず2007年の前半は大都市圏での地価回復に伴うマンション販売価格の上昇で、マンションデベロッパーによる売り渋り、販売時期の先送りなどが指摘されていました。

そして、2005年に発覚した耐震強度偽装事件を受けた改正建築基準法が2007年6月に施行され、その影響で建築確認の遅れや新規着工戸数の激減が目立つようになったのです。

そうこうするうちに、マンション価格の上昇へついていけなくなった消費者が離れ始めて契約率は低迷。2007年12月には約16年ぶりの低い契約率を記録するなどして、販売在庫数が徐々に積み上がっていきます。

また、2007年後半からはアメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融不安や株価の低迷を受けて富裕層の需要が縮み、それまで比較的好調だった都心の高額物件でも変調がみられました。

それに追い打ちをかけたのが2008年9月のリーマン・ショックであり、2007年末あたりから現れ始めていた中堅マンションデベロッパーの倒産がさらに加速していくことになります。

その一方で、2008年には大手デベロッパーが東京都下の大規模分譲マンションで20%~25%程度の値下げに踏み切るなどして物議を醸しています。他のマンションでも表にはあまり出ないものの、売れ残った部屋が安値で処分されていたことを知っている人も多いでしょう。

さらに、それまでマンションの大量供給が続き、住宅ローンも超低金利になっていたことから、本来であればまだ購入時時ではなかった顧客層を先取りしてしまい、その結果としてあるべき需要が細ってしまったという見方もありました。

さまざまな要素がタイミング悪く重なって「マンション不況」といわれる状況に陥り、大量供給を伴うマンションブームは終焉を迎えたのですが、もう一つ見逃せないのが大手ゼネコンによる施工ミスの問題です。

一連の耐震強度偽装事件の後、「大手マンションデベロッパーの分譲、大手ゼネコンの施工物件なら大丈夫だろう」とあまり気に留めなかった人も少なからずいたようなのですが、2007年11月に大手ゼネコン施工の超高層マンションにおける鉄筋の数量不足、さらに別の大手ゼネコン施工の都心マンションにおける鉄筋の強度不足などが相次いで発覚しました。

大手も信用することができず、「もう一気に醒めちゃった~。値段も高くなったし、しばらくは買うのヤメッ!」というのは、その当時に聞いたある主婦の声ですが、何だか最近の杭問題に重なるような話でしょう。

2016年は消費税率の再引き上げを前に駆け込み需要が再び発生することになりそうですが、これから数年のうちに新築住宅市場そのものが大きな転機を迎えることになるかもしれません。


>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX

(この記事は2008年2月公開の「不動産百考 vol.20」をもとに再構成したものです)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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