虫歯

経過観察する虫歯と削って埋める虫歯の違い

昔の虫歯治療は、見つければすぐに削って詰める治療が行われてきましたが、最近の虫歯では、削らずに経過を観察するケースも増えてきました。その違いをわかりやすく説明します。

丸山 和弘

執筆者:丸山 和弘

歯科医 / 歯の健康ガイド

なぜ?進行しない虫歯のメカニズム

むし歯との綱引き

綱引きのバランスが安定させる環境が必要

虫歯なのに進行しないメカニズムで重要なのは、「再石灰化」という歯の自己修復機能です。虫歯は歯にプラークが付着した後に、プラーク直下が酸によって溶かされて穴が開いていきます。同じように歯は、酸性の食べ物にさらされ続けると歯表面全体が脱灰して溶けていきます。

これらはほぼ毎日食事のたびに繰り返されているのですが、唾液に含まれるカルシウムイオンなどによって、溶けた部分の修復も繰り返されているのです。そのため、虫歯の進行速度より自己修復機能が、上回っている場合が進行しない虫歯の条件となります。

さらに、虫歯の深さも重要です。虫歯の発見時の深さが、エナメル質に限局していなければなりません。エナメル質は酸に強く硬いため、虫歯の酸に抵抗性があります。しかも唾液に常に触れているため、再石灰化が起こりやすく進行が抑えられやすいのです。

歯を削る治療が必要な虫歯というのは、発見時にすでにエナメル質よりも先に進行している虫歯です。エナメル質の内部は、象牙質があり柔らかく溶けるスピードが速いため、内部で広がりやすくなっています。しかも象牙質に虫歯が入り込むと外部からの唾液が届きにくく再石灰化もあまり期待できません。虫歯になった象牙質は歯の神経に刺激を伝えるため、しみたり、時々痛くなったりなどの症状が現れるようになります。


虫歯になっても進行させない環境づくり

歯のかみ合わせ面の凸凹部分に、黒い小さな点が見つかったり、溝が黒くなった場合が経過観察となる最も多いケースです。そんな時に歯を削らずに済ませるためのヒントをまとめました。

・プラークの付着をできるだけ取り除く
虫歯になってからでも遅くはありません。歯の溝は、歯ブラシの毛先が届きにくく、プラークが残りがち。プラークは歯の表面を溶かすだけでなく、唾液が直接虫歯に触れることを邪魔するため再石灰化の効果を高めるためにも、しっかり取り除く必要があります。

・フッ素入りの歯磨き粉の利用
フッ素は歯の表面を緻密にして、硬度を高める働きがあります。歯が硬いと虫歯の出す酸に溶けにくくなり、さらに再石灰化の効果も高めます。

・よく噛んで食べる

よく噛むということは、硬いものを力をいれてしっかり噛むということではありません。リズムよく適度な強さで、長く噛むということです。よく噛むことで唾液の分泌が増し、歯の溝に食べ物が擦れることでプラークが取れて綺麗になる効果も期待できます。

・粘着性の間食には注意する
歯の溝などに残りやすい粘着性のあるものは、溝の虫歯を進行させやすくなります。食後や歯みがきの際に、溝に残っていないか確認したりしましょう。


経過観察は定期的確認が絶対必要

歯医者さんなどで、「この虫歯は経過観察しましょう」と言われたとしても安心は禁物。実は経過観察中の虫歯が進行してしまい、見た目は小さな黒い点だったものが、内部で大きな空洞を作る虫歯にまでなってしまうこともよくあります。

以前は初期虫歯を見つければすぐに削って詰めたのですが、最近は進行が遅い「ゆっくり虫歯」も多いことからすぐには削らず、「経過観察」とするケース自体が多くなってきているためです。経過観察虫歯が進行するかどうかは、歯のブラッシング、唾液の再石灰化能力、歯自体の硬度などが、重要となります。

10代~20代では、永久歯に生え変わってから徐々に歯の石灰化による歯自体の硬度が高まり、虫歯の進行を止められることが期待できる反面、まだ柔らかい歯の内部への急速に進行していくというリスクも伴います。

50代以降では、唾液の分泌減少によって、再石灰化が起こりにくくなり、それまで防ぐことができた、経過観察虫歯が徐々に内部に進行してしまうことも考えられられます。

「なるべく削らず」は理想ですが、少しでも内部への進行していく様子があれば、すぐに削って埋める方が歯の寿命を延ばせることも考えるべきです。そのため経過観察の期間は最高でも6ヶ月程度として、その都度診断されることをおススメします。

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