こんな関係、どう思いますか?
どんなに本人が満足している恋であろうと、相手が既婚者となると、人は非難する。もちろん、諸手を挙げて賛成賛同できる恋愛ではないとしても、他人がとやかく言うことでもないと、個人的には思う。恋愛している本人の立場になれば、それほど好きな人に巡り会ったことは決して不幸とは言い切れないのだから。そもそも幸不幸を他人が判断するのもよけいなお世話だ。
仕事に恋愛に、充実していた30代
「イタイおばさん」と親友に言われてしまった彼女。
エリコさん(仮名=41歳)は、苦笑しながら言った。彼女は29歳からすでに12年、既婚者と恋愛を続けているのだ。相手は8歳年上の以前の上司。今は部署が変わったが、同じ会社で働いている。毎日、顔も合わせるそうだ。
「子どもの時と同じ感覚かなあ。彼に会いたいから会社に行く。彼に褒められたいから仕事がんばる。そのモチベーションだけでやってきたような気がします」
実際、彼女は昇進が早かった。中規模のメーカーで、今は課長という立場。10人ほどの部下を束ねている。
「仕事が楽しくなったのは、彼が上司になってから。それまでは適当に勤めて早く結婚しようと思ってた」
相手が既婚者だったから、恋愛などするまいと思っていた。エリコさんは「まじめで正義感が強い」女性だったから、不倫なんてもってのほかだった。
恋愛を続けるか、「普通に」結婚するか
愛妻家の彼。自分も結婚願望はなかった。
「彼は子どもが3人、会社でも愛妻家で通っていました。社内恋愛で結婚して、奥さんは寿退社。当時はそういうことが多かったみたい」
彼は、はじめから離婚するつもりはないと言った。もし結婚を望むなら、いつでも自分は身を引くから、と。かっこよさげだが、ある意味では、ずるい男だ。最初から手の内をさらけだして、女性に選択を求めている。
「当時、私はまったく結婚願望がなかったんですよね。だから彼との恋愛に足を踏み入れてしまった。これほど続くとは思わなかったし」
会社にも周りの社員にもばれていない。細心の注意を払ってきたから、彼は妻に疑われたことも一度もないらしい。
「30代に入って、ものすごく仕事が忙しくなった。毎日必死でしたよ。彼にも鍛えられました。ひとり暮らしを始めて、彼が残業後に訪ねてくることも増えた。仕事と恋愛でいっぱいいっぱいだったけど充実していました。土曜日も仕事ということが多かったけれど、日曜だけは彼も家庭にいたから、私は趣味のダンスをやったり友だちに会ったり。私にとっても都合のいい恋愛だったんですよね」
40歳は大きな壁だった
「このままでいいの?」でも、愛情は増していく。
「単に都合がいいだけではなく、一緒にいると、私はやはりこの人が好きなんだなあとしみじみ思うことが多いんです。若々しかった彼も白髪が増えたし、以前ほど身のこなしが軽やかではなくなった。でもそこに愛おしさがある。長年つきあってきたからこそ、そういう情が芽生えちゃってるんです」
積み重ねた年月が愛おしくて、別れたりしたら自分の人生を否定するようで別れられない。そういう声は何度か聞いたことがある。だがエリコさんの場合は微妙に違う。年月への愛おしさは、そのまま彼への愛情と信頼なのだ。自分自身に執着しているわけではない。
「40歳の誕生日に、『このままでいいの?』と彼に聞いたことがあるんです。彼は『オレはこのままがいい。だけどエリコの人生はエリコのものだから……』と。相変わらず決定権は私。前はずるいと思ったけど、今は私の人生は私が決めればいいんだとも思っています。でも、周りから見たら、ただのイタイおばさんなんでしょうね」
おばさん、という言葉はまったく当てはまらないが、一般的には40代独身で既婚者と長年つきあっているというだけで、「イタイ」と思われることはあり得る。だが、そう言う人には言わせておくしかない。
「結婚したい」から必死で探して誰かと結婚したからといって、それで幸せになるとは限らない。そもそも、「幸せ」って何だろう。周りから見て形が整っている家庭だって、家族それぞれが満足しているとは限らない。何か事件が起こるたび、「仲のいいご家族でしたよ」と近所の人が言うではないか。一般的な「幸せ」にとらわれていると、大事なことを見落としかねないのではないだろうか。
人に言えない関係であっても、彼が言うように、エリコさんの人生はエリコさんのもの。自分がいいと思ったようにしか人は生きられないのだ。
「倫理に反した生き方でもいいんでしょうか」
エリコさんは、最後に真正面から私を見据えた。
いいとか悪いとか、判断を下す立場にはない。エリコさんと彼との関係の深さや充実感は、他人にはわからない。他人の声に動揺する必要はない。男が悪い、早く解放すべきだという意見もあるだろう。本気で好きなら離婚するはずという声もあるだろう。だが、本気で好きだからこそ、こういう関係も存在するのではないかと私は思っている。