住宅ローンを長期にわたって返済し続けたとき、そこに含まれる利息分はかなりの金額になります。途中で借入残高の一部を繰上返済することによって、総支払額を低減できる効果はかなり大きなものになるでしょう。
そのため繰上返済に関する消費者の関心も高く、実際に住宅を購入して住宅ローンを借りる前の段階から、「繰上返済の手数料は?」「繰上返済の金額単位は?」などと入念にチェックする人も多いようです。
以前にメールをいただいたユーザーのなかにも、「20年の予定で借りた住宅ローンを、何度も繰上返済をして6~7年で完済してしまった」という人がいらっしゃいました。
しかし、ほんの数年で返済し終えることのできるような人は別として、たとえば「100万円貯まったらすぐに100万円を繰上返済」というのはNGでしょう。繰上返済が万能とか、繰上返済が第一優先といった考えからは少し距離を置いてほしいのです。
まずは生活資金や子どもの教育資金など、あらかじめ見込まれる出費への備えをしなければなりません。とくに進入学の時期にはまとまった資金が必要になることも多いでしょう。
さらに、年齢によっては老後資金に充てるための貯蓄も始めなければならないでしょうし、入院治療費など予定外の急な出費への備えも、ある程度は必要です。
また、一戸建て住宅であれば定期的な補修や改装費用、急な修繕費用もすべて自分で負担することになります。繰上返済を優先して家の手入れを疎かにすれば、住宅ローン利息の軽減額よりも大きく資産価値を落としたり、後回しにした修繕費用が増大したりする結果になりかねません。
マンションでも全体の修繕積立金が不足すれば、臨時徴収が検討されることもあります。
このようなときに手持ちの資金が不足し、銀行のカードローンなどを借りる羽目になっては本末転倒です。一部の自動車ローンなどを除けば、一般の人が借りられるローンのなかで最も低金利なのが住宅ローンですから、まずは住宅ローン以外の借入れをしないで済む資金計画を第一優先に考えなければなりません。
もし、すでに他の借入れがあるならそちらの返済を先に済ませ、住宅ローンの繰上返済は最後でよいのです。
また、期間短縮型の繰上返済のときには、返済期間が10年未満になると住宅ローン控除を受けられなくなることや、将来に借換えが必要となったときの選択肢を狭める結果となりかねないことにも注意が必要です。
どのような事態にも十分に対応できるだけの蓄えを、などと考えていたらキリがありませんが、想定できる範囲内の出費分はしっかりと残し、余った分を住宅ローンの繰上返済に回すといった考え方で構いません。
さらに積極的に考えるのであれば、住宅ローンの金利以上の利回りを得られる確実な金融商品があったときに、それに投資するということも視野に入れることができます。リスクの高い投資は避けるべきでしょうが……。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年3月公開の「不動産百考 vol.21」をもとに再構成したものです)
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