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欧州でプレーする日本人FWのノルマは何点?

プロ野球の打者にとって、シーズン打率3割は周囲を納得させられる成績だ。サッカーのストライカーも同じである。3割の確率でゴールを記録していくことが、成功には不可欠だ。

戸塚 啓

執筆者:戸塚 啓

日本代表・Jリーグガイド

「3試合に1点」で信頼を勝ち取る

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ストライカーのノルマは、2ケタ得点である。

実績十分の選手の10ゴールと、プロ1年目の選手の10ゴールでは意味合いが異なるものの、前者も「最低限の仕事はした」という評価を与えられる。

ドイツ・ブンデスリーガ、日本のJリーグは、18チームによる2回戦総当たりで争われる。1チームあたりのリーグ戦試合数は「34」だから、3試合に1点のペースで10ゴール以上になる。

3試合に1点というのは、実に絶妙な数字と言っていい。

開幕戦でゴールをあげたとしよう。次の試合には「前のゲームで得点をした選手」として周囲から見られる。ゴールの記憶は鮮度を保っており、この試合で無得点に終わってもまだ批判の対象とはならない。プレーの質がよほどひどくない限り、監督の信頼は保たれる。

次の試合でも無得点に終わると、そろそろ周囲が騒がしくなる。2試合連続ノーゴールという現実が、ストライカーの周辺に灰色の影を落とす。チームが勝利を逃していれば、視線はさらに厳しくなる。「違う選手を使うか?」という考えが、監督の脳裏に過る。

すでに十分な実績を築いてきた選手なら、それでもまだ周囲は黙っているだろう。監督はその選手を使い続け、チームメイトからの信頼も揺るがない。「そんなときもあるさ」と、2試合連続無得点の結果を受け流してくれる。

移籍1年目の選手は、そうもいかない。

他国のリーグで成績を残してきたとしても、地元メディアやファン・サポーターにとっては単なる「数字の羅列」だ。勝利につながるゴールを目撃することで、彼らは納得する


岡崎は先入観を払拭しつつある

その意味で、岡崎慎司(28歳)は上々の滑り出しを見せた。

昨シーズンまでドイツ・ブンデスリーガでプレーした岡崎は、過去2シーズン連続ゴールで2ケタ得点をマークした。所属するマインツでチーム最多のゴールをあげた実績が評価され、今シーズンからイングランド・プレミアリーグのレスターシティへの移籍を勝ち取った。

レスターでは開幕2試合目で、移籍後初ゴールをマークした。

イングランドのサッカーは、伝統的にゴール前の肉弾戦を好む。身体と身体の激しいぶつかり合いのなかで、貪欲にゴールを奪うストライカーが好まれる。

岡崎のプレースタイルは、イングランドの気質に合致する。174センチの日本人ストライカーがピッチに立つと、長身のディフェンダーたちに囲まれてしまう。しかし、日本人らしい俊敏さと足を止めない動きで、彼は違いを見せつけている。自分が走り込んだ場所でパスをもらえなければ、さらに違う場所へ走り出す「動き直し」の質と回数によって、決定的なチャンスに絡むことができている。

イングランド・プレミアリーグでは、日本人ストライカーの成功例がない。攻撃的MFまで幅を拡げても、チームの中心的役割を担った選手は見つけられない。

そうした歴史から、岡崎にも懐疑的な視線があった。前線からの精力的なディフェンスも高く評価されているが、無得点試合が続けば批判の火種は燻る。「やっぱり日本人は……」という先入観が支配的になっていく。

シーズン開幕の余韻が残る段階であげたゴールは、それだけに大きな意味がある。そして、他ならぬ本人が満足感に浸っていないことが頼もしい。ドイツで過ごした5年のシーズンで、「ストライカーの価値はゴールで決まる」ことを、身体に刻んできたからだろう。

監督の評価も高い。チームを率いるクラウディオ・ラニエリは、イタリア人監督である。見栄えよりも結果にこだわり、泥臭く点を取るストライカーが評価される国の出身だ。おそらくラニエリは、岡崎にイタリア人の点取り屋に似た頼もしさを感じているに違いない。


武藤のデビュー戦は不運だった

その岡崎と入れ替わるように、ドイツ・ブンデスリーガのマインツへ移籍したのが武藤嘉紀だ。今年6月までFC東京でプレーしたこの23歳は、リーグ開幕戦に後半途中から出場した。しかし、得点をあげることはできなかった。

ゴール奪取が難しい展開だったのは事実である。

武藤が送り出されたのは、残り時間が15分を切ってからだった。しかも、マインツのホームで1対0とリードする対戦相手は、すでに守備重視の戦術に切り替えていた。敵陣にはスペースが見当たらない。武藤が得意とするサイドからのドリブルや、DFラインの背後を突く飛び出しが、相手の戦術によって封じられていたのだ。

選手交代もマイナスに作用した。残り時間わずかで終盤を迎えると、マインツのマルティン・シュミット監督は長身ディフェンダーを投入した。レオン・ハロゲンと呼ばれるその選手の高さを生かして、ヘディングの競り合いに活路を求めようとした。この時点で武藤にできることは、競り合いのあとのボールに何とかして絡むことくらいだった。この試合に彼は、運に恵まれなかった。


「1試合に2度のチャンスはない」という覚悟が必要

武藤のドリブルとスピードは、シュミット監督にも評価されている。開幕戦では長身フォワードのフロリアン・ニーダーマイヤーが先発で起用されたが、それほど遠くない時期にスタメンに抜擢されるだろう。

大切なのは、そこで、何ができるか。

マインツはブンデスリーガの中堅クラブであり、相手に主導権を譲るゲームも少なくない。たくさんのチャンスを作り、そのなかからゴールを奪うというよりも、少ない好機を得点へ結びつけることで勝機を見出す。

武藤に求められるのは、チャンスを確実に生かす決定力だ。試合開始直後でも、チャンスを逃してはいけない。2度目のチャンスを彼が迎える前に、交代させられてしまう可能性があるからだ。

開幕戦は出場時間が短かったが、それでも1試合出場である。自身にとっての3戦目までにゴールを奪うことで、新天地で生きる道を切り開いてほしい。
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