個体によって違うストレス閾値(ストレスレベル)
その犬にとって閾値を越えるストレスや刺激は望ましい行動を障害してしまうことがある/(c)DAJ/amanaimages
オーナーの声の出し方や犬に接する態度も1つのストレス(刺激)
それを踏まえた上で、私たちが愛犬に対して与えるコマンド(スワレやオイデ、マテなどの指示)や、その時の言葉の出し方、雰囲気、態度なども犬たちにとっては、ある種のストレス(刺激)と考えてみることにしましょう。ここで、以下のリンクにある動画をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=j6bfo5IlCEY
これはアメリカにあるデューク大学の研究者たちが行った実験の模様を録画したものです。その実験結果と考察については、つい先日、オンラインで学術雑誌「The Journal Animal Cognition」にも発表されています。
この実験は、あるストレス(刺激)が与えられた時、その動物がベストな行動をとる際の条件や、その個体の気質との関連性にスポットがあてられています。
実験は生後8ヶ月齢から11歳までのペットドッグ30頭、および身体に障害のある人の手助けをするサービスドッグ76頭を対象に行われました。実験者と犬との間には幅6フィート、高さ3フィートの透明なプラスチック製の衝立があり、実験者は手にジャーキーを持って犬を呼びます。1つ目のパターンでは落ち着いた態度と低い声のトーンで犬を呼び、2つ目のパターンでは声のトーンは高く、ジャーキーを持つ手も大きく振って、やや興奮気味の態度で犬を呼びます。犬がジャーキーを得るには衝立の両側に開いているスペースから回りこまなければなりません。その様子は1頭ずつ録画され、研究者たちは犬の尻尾の振り方に注目して測定をしました。
ストレスの“適量”は犬の性格や気質と関係する
実験結果から、ペットドッグとサービスドッグを比較した場合では、何らかのやや強いストレスがあった時、ペットドッグの方が興奮しやすく、また神経質になりがちで、サービスドッグの方はより落ち着いているか、もしくは注意力が散漫になったそうです。もちろん、個々の犬の性格や気質によっても差があるわけですが、ハイパー気質の犬ではストレスがピークを超えるとプレッシャーによって参ってしまい、穏やかな気質の犬では興奮状態に陥るという違いがあることが明らかになったそうです。
愛犬の性格を見極め、自分の態度や雰囲気に留意することもしつけのポイント
犬のしつけに関して、一般的には「愛犬の性格を理解して、愛犬に合ったしつけをしましょう」などと言われます。動画を見てもわかるように、実験対象犬のチャーリーは実験者が落ち着いた態度で呼べば“ジャーキーをもらう”という課題を難なくクリアできています。ということは、本来、その能力はあるというわけです。しかし、実験者がやや興奮した大げさな態度で呼ぶと、できていたことができなくなっています。これは犬をしつける際、1つの指標になるのではないでしょうか。何かを教えようと思ってもなかなか愛犬が覚えてくれないという時、ほんとうはそのコにはちゃんと要求されたことをこなすだけの能力はあるのに、オーナーである私たちの態度や声のトーン、雰囲気などがそれを潰してしまっているというケースもあるのかもしれません。
「ストレス(の容量)がその個体がもつキャパシティのピークを超えてしまった時、本来持っている能力を障害してしまうのです」と研究者であるEmily Bray氏も言っています。“高い声のトーン、かつ楽しげに明るい態度で犬にコマンドを出すのがベスト”とはよく言われますが、それがすべての犬に通じるわけでもないでしょう。
- 愛犬の性格を把握する。
- それに合わせて、愛犬のストレスピークレベルを超えないよう、自分の態度や声のトーン、雰囲気を調節する。
ということで、これまで悩んでいた問題をクリアできる可能性もあるかもしれませんね。
参考資料:
Duke UNIVERCITY/Duke TODAY/Stress “Sweet Spot” Differs for Mellow vs. Hyper Dogs