20~100Hzの低音を効率良く鳴らすバックロードホーン
このシステムを見て、まず最初に感じたのは「よく、こんな企画が通ったなぁ」ということ。とくにフロントシートの足元にあるバックロードホーン型サブウーファーだ。オーディオをカスタマイズしたクルマでは、たまに見かけるが、純正システム、とくに軽自動車ではスペースの問題もあり、なかなか難しいのではないか。そのあたりを、N-BOXスラッシュの電装チームのプロジェクトリーダー、安原さんに聞いてみた。N-BOXスラッシュの電装チームのプロジェクトリーダーを担当した本田技研四輪R&DEセンター第8技術開発室の安原さん
「チームに最初に要望があったのは、軽の枠を超えて高音質なものをファッショナブルにやってくれ、ということだったんです。なので、もともとバックロードホーンやケブラーは構想にはなくて、リアのルーフにスピーカーをつけるとか、見えるところのデザイン性重視でスタートしたんです」
ーそれが、なぜフロントのバックロードホーンを組み込むことに至ったのか。
「機能グループの提案として、高音質とは可聴帯域をカバーし、クリアで臨場感があるのが理想ですよという話がありました。従来の4スピーカーだと20~100Hzあたりの帯域が不足するので、そこをカバーするためのサブウーファーをつけさせてください、と」
ー一般的に、サブウーファーというと後方のラゲッジルームやシート下だが。
「通常はCピラーの後ろとかカーゴルームの横に10リットル程度のボックスを置くのが主流なんですが、そんなスペースがないというなかで検討した結果、前にスピーカーがあれば受聴点との距離が短かくなり、それほど出力がなくてもいいですよねという話がでてきました。それで、じゃあ前に置きましょうという話になり、効率良く慣らすためにはどんな方式がいいかを検討した結果、バックロードホーンが出てきました。バックロードホーンは、音がピーキーという面もあるんですが、低音だけを鳴らすということを考えたら非常に効率良く出せるので、バックロードホーンをやってみよう、ということになったんです」
音が好きなチームだったから開発はスムースに
ーしかし他部署との調整は困難があったのでは?「このチームは、とくに音が好きなメンバーが多くて、その点はわりとスムースでしたね。LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)もそうですし、インテリアデザイナーも音にものすごく興味のある人で。だから、デザイナーも設計も一丸となってパッケージができました。その試作車を作って鈴鹿の工場に持っていき、みんなに聴いてもらって、こんな音を実現したいから協力してくれ、と。鈴鹿の工場と一体となってやっているというところも、スムースに進んだ理由です」
ー確かに工場の協力は必要。
「ホーンはフロントシートの下に潜り込むような設計ですが、実際にこれを組み込むのはハードルが高いんです。まずウーファーを取り付けてからロボットアームでシートをつけるんですが、搭載するときのばらつきが大きいとシートに干渉してしまいます。そこでばらつきをミニマムにしたり、挿入する方向を考えたりして、今ある既存のラインの中で取り付けられるよう工夫したんです」
このような経緯で誕生したN-BOXスラッシュのサウンドマッピングシステム。話を聞いて、ますます音を聞いてみたくなった。