介護

「介護離職」をする前に知っておきたい3つのリスク

親の介護を理由とした離職者は年間10万人にも及ぶと言われています。介護と仕事を両立するために創設された介護休業制度だけでは負担を軽減することができず、身体的にも精神的にも限界に達し離職に至るケースや、介護をしていることを勤務先に打ち明けることができず、一人で抱え込んだまま離職するケースも少なくありません。離職により生活水準が落ち、ブランクが再就職を困難とするといった問題も深刻です。

執筆者:中山 奈保子

介護休暇・休業で保障される時間はごくわずか

ある日突然、親に介護が必要になったとしたら、介護と仕事をうまく両立することはできるでしょうか。「介護休業」を申請し両立に挑むとなったとしても、制度で保障される時間は最大で93日間。要介護認定を受けて介護施設に入所させる程度であれば間に合うかもしれませんが、自宅で介護をする場合には不十分な印象を受けざるを得ません。というのも、介護休業の制度は、もともと「介護と仕事の両立に必要な準備をするための休暇・休業」を確保することを目的に創設されたものですから、親が元気なうちから知識を蓄え、家族・親戚内での分担を決めるなどの準備を進めていない限り、制度を活かすことは困難といえるでしょう。


前向きな介護離職でも将来の暮らしに十分配慮を

介護と仕事の両立

介護に専念するといっても、介護と仕事を両立させる以上に様々な問題が懸念されます。

なかには、介護離職を前向きに捉えるケースもあります。たとえば、「恩返し介護」と呼ばれるのがその一つです。若い頃に親へ迷惑をかけたという思いから、離職をし親の介護に専念するケースは、40代から50代の男性に多いと言われています。

しかしながら「介護離職」により、どんなリスクを背負う恐れがあるのか十分に検討しないまま離職を決めると、後々自分の暮らしに悪影響を及ぼし兼ねません。介護は、いつどんな形で終わりを迎えるか予測が難しく、始めは何の問題もなく過ごしていても、時間が経つと共に様々な問題が表面化してきます。


介護を理由に離職を決める前に知っておきたい3つのリスク

介護離職により、どんなリスクが生じてくるのでしょうか。ここでは、親が元気なうちから是非知っておきたい3つのリスクについて説明します。


1)介護疲れによる「介護うつ」発症・虐待のリスク

介護は腕力がものをいう「身体的なケア」だけではなく、精神的な不安を和らげる「心のケア」も必要です。親の話に耳を傾ける一方、介護者の負担やストレスは発散されにくい場合が多く、介護うつ発症の原因となります。また、親に対する「虐待」の問題も深刻です。肉親に対する介護虐待は、介護施設等よりも高い割合で起きていると言われています。親の介護をするようになって、他の家族・親戚との関係が悪化するといったケースも目立ちます。


2)ブランクが長くなるほど再就職が困難に

ブランクが長くなるほど、再就職先を見つけることが難しくなる傾向があります。親の介護経験を活かし介護職に就く選択肢もありますが、それ以外の領域での職場復帰が叶うのは困難となるのが現状です。また、懸命のリハビリにより親の介護度(介護に要する時間・負担等)が軽減され、「そろそろ介護と仕事を両立しやすい職場に就職を」を考える時期が訪れても、ブランク期間や年齢の影響により、既に再就職のチャンスを失っている可能性があります。


3)経済的基盤の脆弱化

比較的負担の少ない在宅介護の場合でも、状態が悪化すれば介護保険だけでまかないきれない医療費やオムツ代などの負担が増していきます。親の年金収入だけではまかなえず、自分の貯金を切り崩して介護を続ける人も少なくありません。介護を続けながら再就職が叶ったとしても、正社員なみの収入を得られる割合はごくわずかで、多くの人が介護離職前の年収よりも「半減」していることが分かっています。


介護離職を決断する前に

ある調査では、介護に費やす平均期間は4年9カ月としていましたが、実際には10年以上になることもしばしばです。介護が長期化すればするほど、ここで挙げたようなリスクを負う危険性が高まり、介護がひと段落した後の暮らしを脅かします。

大切な親のために「介護離職」を決断する前に、職場の上司に相談することはもちろんのこと、現在の仕事と介護を両立するためにどんな制度やサービスが利用できるか、介護費用や生活費はどれだけ必要か等、本人や親戚を交え長期的な視点で検討しておくことが大切です。

■参考
介護離職をしないために備えておきたい知識と意識

たとえ親に介護が必要になっても、制度を利用しながら仕事を続けようと考えている人も油断はできません。介護休暇・休業の制度は、介護を必要とする親が安心して暮らせる環境を整備するための最低限の時間しか保障してくれないことを前提に、親が元気なうちから知識と意識を高め、準備を進めておくことが大切です。


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