胃腸の病気/便秘・下痢

慢性便秘症診療ガイドラインによる便秘の定義・治療法

【消化器病学会専門医が解説】便秘はありふれた症状である反面、軽視されやすい症状でもありました。便秘薬が処方されても、必ずしも患者サイドが満足できる効果があげられていないことも指摘されていました。2017年に発刊された『慢性便秘症診療ガイドライン』で初めて示された便秘の定義と推奨される治療法について解説します。

今村 甲彦

執筆者:今村 甲彦

医師 / 胃腸科・内科の病気ガイド

2017年『慢性便秘症診療ガイドライン』発刊の背景

医師のイメージ

今まで医療現場でも明確にされていなかった便秘の定義。2017年に発刊されたガイドラインで、初めてその定義が明記されました

便秘薬は薬局で手軽に買うことができる市販薬も多く、それらを服用して自己治療を行っている方も多いと思います。しかし、便秘薬は適切に使用しないと、逆に便秘を悪化させてしまうこともあります。

さりとて、便秘で医療機関を受診しても、通常レベルの便秘はすぐに改善しないと命に関わるような性質の症状ではないことから軽視されやすく、これまで医師の対応もまちまちでした。便秘に対しての処方は、医師の経験的な面も多く、必ずしも患者さんが満足できる治療効果があげられていないことが指摘されていました。この背景として、便秘の診断や治療に関して、エビデンスに基づくガイドラインがなかったことも挙げられると思います。

現在、高齢化社会を迎えて増え続けている高齢者の多くが、便秘に悩まされていることが明らかになってきました。特に介護の現場では、便秘症やその合併症への対処が問題となっています。このような時代的要請に応える形で、今回発刊されたのが『慢性便秘症診療ガイドライン』です。

ガイドラインで初めて示された「便秘の定義」

便秘の定義は難しく、実は今まで統一された便秘の定義はありませんでした。今回発刊された『慢性便秘症診療ガイドライン』では、便秘の定義として「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」ということが初めて示されています。

排便時に苦しい、ほとんど出ずにスッキリしないといった便秘の症状があっても、毎日少しでも排便があれば、医師から「便秘ではないので大丈夫です」と対応されたという方もいるかもしれません。しかし、今回のガイドラインでは、排便困難感や残便感など、便秘に伴う症状で日常生活に支障があれば、便秘と診断して治療を行うことが望ましいと解説されています。

ガイドラインで推奨されている便秘薬……30年ぶりの新薬も

今回のガイドラインでは、便秘治療に対して「強い推奨」と「弱い推奨」に分けられています。「強い推奨」とされている薬は、上皮機能変容薬と浸透圧性下剤です。それぞれについてわかりやすく解説しましょう。

■上皮機能変容薬
上皮機能変容薬は、便を軟らかくして腸の輸送能力を促進させる作用がある薬です。慢性便秘症の適応とされている薬は、ルビプロストン(商品名アミティーザ)と呼ばれるものです。これは30年ぶりに登場した便秘の新薬で、患者さんの満足度も高いようです。この薬は医師の処方箋が必要な処方薬です。

■浸透圧性下剤
浸透圧性下剤も便を柔らかくする作用があります。浸透圧性下剤は、酸化マグネシウムなど塩類下剤と呼ばれるものです。昔からある薬で、市販の薬局でも購入できます。比較的安全な薬ですが、腎不全や腎機能低下の方は、血清マグネシウムが上昇することがあるので、注意が必要です。

意外と間違えやすい便秘薬の使用法

市販の薬局で販売している便秘薬の多くは、「刺激性下剤」と呼ばれるものです。刺激性下剤には、アントラキノン系(センノシドやアロエなど)とジフェニール系(ビサコジル、ピコスルファートなど)があります。

刺激性下剤は、今回のガイドラインでは「弱い推奨」に位置付けられています。刺激性下剤は、漠然と連日使用するのには適していないのです。この薬を長期連用すると耐性ができてしまい、難治性便秘になってしまうリスクがあります。

米国消化器病学会が定める便秘症ガイドラインでも、生活習慣指導と浸透圧性下剤の投与が治療の基本であり、必要時にのみ刺激性下剤を併用するように勧められています。

通常の便秘では、上皮機能変容薬や浸透圧性下剤を使用して、効果不十分の際に刺激性下剤を使用するという治療法が望ましいでしょう。

高齢化社会を迎え、慢性便秘の患者数は1000万人以上と増加の一途です。また、難治性便秘の患者さんも増加しています。患者さんの生活の質(QOL)を向上させるためにも、便秘治療の必要性はさらに増していくものと考えられます。
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