ダフ屋の温床に
実は、フィギュアスケートに限らず、こうした極端な動向の変化が「ダフ屋」の温床になる。チケットの需要が急増し、品薄になればなるほど、ダフ屋の儲けは増すからだ。実際に、羽生選手の出場が発表されると、ネットオークションで当大会のチケット転売が急増した。ファン交流サイトでの定価取引で入手できなかったファンの中には、ネットオークションで高額で購入した人もいるはずだ。
こうした事態を防ぎ、ダフ屋の横行に歯止めをかけるには、特定の選手だけを目当てにする「追っかけ」ではない、安定したフィギュアファンを増やすことだ。
1強にかかる重圧
日本の男子シングルは、高橋大輔選手が昨年引退し、羽生選手に迫る成長を見せていた町田樹選手も全日本選手権の直後に電撃引退。現在は事実上、羽生選手の「1強」とも言える状況だ。これは羽生選手の強さと人気を裏付けるものであるが、これを手放しで喜んでいいかと言えばそうでもない。
なぜなら、羽生選手の出場か否かによって興行としての大会の成否が左右されること、つまり興行収益確保のため、特定の選手への負担が増す懸念があるからだ。
とくに羽生選手の場合、今シーズンは試合当日の怪我(中国杯の直前練習)や腹部の手術(全日本選手権の後)など、体調面でのトラブルの連続だった。そのため、シーズン最大目標である世界選手権が終わった後は休むという選択もあった。
今回出場するのは体調面の問題もないからだろうが、今後同じような状況が起きた際にも問題が起こらないとは言い切れない。
ファンの果たすべき役割とは
こうした1強集中を防ぐには選手層が厚くなることが求められる。むろん、選手自身の努力が第一だが、実はファンにも果たすべき役割がある。サッカーで、サポーターを「12番目の選手」というが、フィギュアスケートのファンにもそうした側面がある。
フィギュアスケートは、スポーツではあるが、選手と会場が一体となって一つの演技を共有するのが他のスポーツと異なる点。それだけに、フィギュアファンには、演技を楽しむだけでなく、応援という形で選手をサポートする役割もある。
特定の選手のファンであっても、他の選手が成長できるよう応援し、サポートすることが重要だ。
なぜならファンの応援により、1強以外の選手もしっかり育てば、フィギュア全体のレベルが底上げされ、一層見応えのある演技が見られるようになるからだ。
何より、羽生選手もそうして育てられた一人なのである。