2015年本屋大賞は上橋菜穂子『鹿の王』!
『鹿の王』上橋菜穂子著、角川書店、上・下巻、各1600円+税。
児童文学のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞作家賞を受賞した上橋菜穂子さん。大人も夢中にさせる稀代のストーリーテラーが、続けてビッグタイトルを獲得しました。
『鹿の王』は日本医療小説大賞も受賞した話題作。異世界を舞台にした父と子の物語です。辺境の戦士団の頭だったヴァンが、奴隷として囚われていた岩塩鉱で、黒い獣の群れに襲われる場面から始まります。ヴァンと幼い少女をのぞいて、獣に噛まれた人はみんな死んでしまう。突然流行し始めた奇病はかつて国を滅ぼした〈黒狼熱〉なのか?
ヴァンは自らの体に訪れる変化を見つめつつ、ユナと名づけた少女を連れて放浪します。一方、若き天才医術師・ホッサルは病の治療法を調べますが。
ファンタジーが苦手な人にもオススメ
なんといっても、病の原因を解明する過程で出てくる「人の中に森がある」というイメージが新鮮です。ヴァンたちが直面する危機の背景には、強大な帝国による支配、医術の発達を阻む迷信、故郷を奪われた少数民族の存在がある。架空の国の話だけれど、どこか現実の緊迫した世界情勢とも重なります。
キャラクターも魅力的です。例えばヴァンは風のように駆ける飛鹿に乗り、敵に遭遇すると誰がリーダーか見抜いて最初に倒す。タフでカッコいいヒーローですが、亡くなった妻子のそばに早く行きたいから戦士になったという悲しい過去を持っています。ヴァンがユナを守ることで失った大切なものを取り戻し、『鹿の王』という題の意味がわかる終盤は落涙必至。
異世界ファンタジーが苦手でも家族小説や時代小説、ミステリーが好きな人はぜひ手にとってみてください。各ジャンルのいいところを全部盛りにしたみたいな小説だから。
Kindle版は上下合本ももあります。
『鹿の王』特設サイトでは登場人物紹介やPVが見られます。
本屋大賞の公式サイトではノミネート作品や過去の結果がわかります。