初動の遅れで被害が拡大した2010年
振り返って、今年の口蹄疫の大流行は初動の遅れが目立っています。最初に口蹄疫と疑われる牛が宮崎県で見つかったのは、4月9日のことでした。しかしこの時点で、封鎖などの思い切った対策を取っていません。その後4月23日には9日の牛が口蹄疫であると判明しましたが、政府はまだ大きな対策を取りませんでした。現在批判の対象になっているのが、赤松農水相の外遊です。赤松農水相は、口蹄疫が確認された後の4月30日から5月8日まで、外遊に出ていました。
その間に口蹄疫は宮崎県でどんどん拡大。5月に入って殺処分対象の牛や豚の頭数は爆発的に増えています。口蹄疫は感染力が非常に強いため、感染した牛や豚が見つかれば、その農場の他の牛・豚は全て殺処分にするのが基本です。
そのため、5月18日まで126ヶ所の農場で11万頭以上が殺処分対象になるという酷い事態になっています。
大発生の影響は?
口蹄疫が大流行しているため、宮崎県の畜産業への影響が深刻になっていきます。殺処分にされた牛や豚は、当然ながら農家にとっては実害になります。現在の制度では、家畜を殺処分した場合は、その評価額の5分の4を政府が補償することになっています。しかし、今回赤松農水相は「全額を負担する」と述べています。ですが、最終的に何頭の牛や豚が殺処分されるかまだ確定していないので、当然その負担額もいくらになるかわかりません。すでに殺処分された11万頭という数から考えても、最低でも数百億、場合によっては1000億を超えてしまうと考えられます。財政の苦しさを勘案すると、それだけの金額を負担できるのかは疑問です。
単純な金額だけではなく、宮崎県の今後の畜産業にも甚大な悪影響が出るのは確実です。特に次世代の牛を産むための「種牛」が宮崎には55頭いましたが、その内49頭までが処分されると決定しています。残りの6頭だけは何とか避難していますが、その6頭が今後も無事でいられるとは限りません。種牛の育成には7~8年もかかると言われています。49頭が処分されただけでも相当な損害ですが、残り6頭まで処分されたら、宮崎県の畜産業は壊滅的な被害を受けることに。
日本はアメリカやオーストラリアから牛肉を輸入しているので、国産牛の市場シェアはそれほど大きくありません。だからこそ、貴重な国産牛の産地の1つがなくなってしまったら、余計に海外産に頼るしかなくなります。口蹄疫は目に見えないウイルスを通して感染するので、人間にできることは生きている家畜を封鎖・処分することくらいです。少しでも早く事態が収拾することを願うしかありません。