バンドにとって『壁を乗り越える』とはいったいどういうことか
昨年闘病生活を公開
彼の几帳面で責任感の強い性格、また周囲からの厚い信頼が自然と彼の役割を作っていったのだろう。
それが彼らのバンドの進め方として成り立っていた訳だが、当然、闘病生活に入ると栞に業務を集中させる訳にはいかず、他のメンバーが手分けして引き継ぐことになった。おかげで、以前は眠ることもままならなかった栞だが、今では睡眠時間も取れ、負担も軽減したという。
だが、役割を分担することでバンドが円滑に進むようになったかといえば、そうとは限らない。やはりそれまで頼りにしていたリーダーを失うことの影響はバンドにとって大きく、様々な反省点が浮き彫りとなって表れたようだ。
栞だけでなく、同じくらい残されたメンバーにとっても、苦悩の伴う日々の続いたことだろう。それでも彼らは、ライブではベースにサポートメンバーを入れることなく栞の帰る場所を空け、めげることなく試行錯誤を繰り返しながら活動を続けた。
その期間は結束が強化するなどメンバーそれぞれに多くの気づきを与え、バンドにとって必要な時間をもたらした。
そして、彼にこれまでどんな言葉に励まされたかを尋ねたところ、次のように返ってきた。
「とある関係者の方に『同情はしない。試練だと思って強くなって帰って来るのを待っている』と掛けられた言葉に一番励まされました」
それは結果的に栞だけでなく、バンドに対しての試練でもあり、その言葉を聞いてバンドにとって“壁を乗り越える”とはどういうことか、というのが少しわかったような気がした。
だが、彼らの関係性の再構築を伴った継続に対する強い思いを感じさせるそのエピソードは、壁と呼ばれる試練を乗り越えるひとつヒントに思えたのだ。
メンバーのこともあまりわからないままで終えていくバンドも少なくないのかもしれない。試練は、本当の意味で互いを理解し、関係性を構築するきっかけとなって、強固なバンドを形成していくのだろう。
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