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カジノとギャンブル依存症における日本の誤った認識(2ページ目)

日本におけるカジノ合法化がなかなか進まない。2013年に提出された通称「カジノ法案」も、衆議院選挙にともない廃案となったまま今国会でも再提出されていない。その最大の理由が反対派の抵抗だ。反対グループはカジノによってギャンブル依存症が増加すると主張するが、果たしてそれは事実なのだろうか?

松井 政就

執筆者:松井 政就

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依存症を招くのは「地域初のギャンブル」

ここで話をいったん戻し、カジノそのものによってギャンブル依存症が増えるかを考えてみる。

カジノとはギャンブルである。ギャンブルである以上、利用する人の中から一定比率で依存症が生じるのは事実だ。世界の事例でその数字は約1%と言われている。

ただしこれは、全くギャンブルのない地域にカジノが出来た場合のケースである。

米国のシーザーズ・エンターテインメントによれば、ギャンブル依存症への影響が明らかに見られるのは、ギャンブルが何もなかったところに最初に出来た場合であり、すでにギャンブルがあるところに、オプションとして追加された場合はあまり変化が見られないという。

これはクスリの効き目と似ている。それまでクスリを飲んだことがない人が初めて飲むと劇的に効くが、頻繁に飲み過ぎると効き目が落ちてしまうことは知られている。

この点において、日本は諸外国と全くケースを異にする。


ギャンブルにおける日本特有の事情

ギャンブル依存症の起きやすさは、ギャンブルへの「接触頻度」とギャンブルとの「距離の近さ(=行きやすさ)」と関係する。

海外のカジノでは、住宅地や生活圏にはギャンブル場を設置してはならず、ある程度離れた場所に置くことが基本的なルールとなっている。

一方、日本ではパチンコ屋のない町を探すほうが難しいほどだ。家から駅に行く途中、あるいは買い物に行く途中、必ずといってよいほどパチンコ屋がある。その数は全国で約1万2000軒だ。

これほどまでにギャンブルが日常に入り込んでいる社会は世界に類を見ない。極論すれば、日本は国全体がギャンブル場のようなもので、ギャンブル依存症から見て「最強(=最悪)」の環境と言うこともできる。

つまり、パチンコが生活に溶け込んでしまっている日本人は、悪く言えばクスリが効かなくなった人と同じで、ギャンブルに対して鈍感になっている可能性が高い。

しかも日本にカジノが出来たと仮定しても、町のパチンコ屋よりはるか遠い場所で、しかも頻繁に行くこともできない。つまり「接触頻度」と「距離」という条件において、パチンコに勝つことは難しい。


テーブルゲーム中心にすることで、より依存症への影響は弱まる

また、依存症はゲームの種類によっても左右されることがわかっている。結論から言えば、対人ゲームに比べ、「マシン(機械)系」のゲームほど依存症を招きやすい

昨今、インターネットゲームやスマホゲームの依存症が問題になっているが、あれも一種のマシン系ゲームによる弊害の一つだ。

カジノにもスロットマシンは導入されるが、主体はあくまでブラックジャックやルーレットといったテーブルゲームだ。

テーブルゲームでは、マシン系ゲームにはない「目視による(客の)確認」が可能で、もし客がギャンブル依存症の恐れがある場合などは、ディーラーまたはマネージャーがチェックできるようになっている。

日本にカジノが出来た場合、どれほどの利用者がパチンコからカジノに移動するかは不明だが、以上の理由から、移動する人数が多ければ多いほど、ギャンブル依存症の総人数は減るはずである。

先入観を持たず、カジノを導入する際の具体的な点を見ていくと、日本社会に限って、カジノによりギャンブル依存症が増える可能性は低いと見るのが妥当だ。

(※掲載された写真は筆者がカジノの許可を得て撮影したものです)
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