糖尿病/糖尿病と腸内細菌

糖尿病とプロバイオティクス、プレバイオティクス

安全な乳酸菌やビフィズス菌のような善玉菌をプロバイオティクスとして摂取したり、善玉菌を繁殖させるであろう難消化性の糖類をプレバイオティクスとして、また、その2つを組み合わせて相乗効果を期待するシンバイオティクスという考え方が広まってきました

執筆者:河合 勝幸

市販のプロバイオティクス(写真はビフィズス菌と乳酸菌の一例)とプレバイオティクス(写真はラクトスクロース)を組み合わせて手術の2日前から摂り始め、術後40日間続けました。術後の炎症を抑えた論文があります

市販のプロバイオティクス(写真はビフィズス菌と乳酸菌の一例)とプレバイオティクス(写真はラクトスクロース)を組み合わせて手術の2日前から摂り始め、術後40日間続けました。術後の炎症を抑えた論文があります

前記事の「糖尿病と腸内細菌 小児発症の1型糖尿病にも関与か!?」では腸内細菌が産生する酪酸(短鎖脂肪酸の一つ)がキーワードでしたが、2型糖尿病でも健常者に比べて酪酸産生菌が少ないという研究が既に科学誌Nature(Aug.24,2012)に中国の科学者によって発表されています。

一般に、酪酸が腸粘膜バリアーを強化して、腸内細菌の血液への移行を防ぐことで炎症を抑えるという機序で説明されています。しかし、糖尿病患者やその予備群にすれば「どうやって酪酸産生菌を増やすのか?」という選択肢が示されてなければあまり意味のないニュースになってしまいます。

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今までの、あるいはこれからの腸内細菌と疾病の研究は、腸内細菌が人間の健康のためにどのように役に立っているかを解こうとしているものです。しかし、まだ科学者達は確実なデータを十分には得ていません。ぼう大な腸内細菌の多様性解析に、16SリボソームDNAクローンライブラリー法のような糞便から細菌由来の遺伝子を直接取り出して腸内フローラを総合的に特定できるような手段を手に入れたのはここ数10年のことなのです。まだ70%の腸内細菌が特定されていないという専門家の意見もあります。

ですから、各研究グループによるそれぞれの論文が科学的根拠に基づいていると思うのは時期尚早でしょう。

科学者たちはどのような食品や食事構成が腸内フローラに影響を与えるか、あるいはよく知られている「ミヤリサン」のような整腸剤を酪酸サプリメントとして投与した場合に健康効果を持つかどうかを研究中です。ただし、話題の酪酸産生菌の不足が2型糖尿病の原因の一つなのかどうかはまだ証明されていません。

そこで安全な乳酸菌やビフィズス菌のような善玉菌をプロバイオティクスとして摂取したり、善玉菌を繁殖させるであろう難消化性の糖類をプレバイオティクスとして、また、その2つを組み合わせて相乗効果を期待するシンバイオティクスという考え方が広まってきました。糖尿病に直接関連するこれらの試験はまだ動物実験のレベルが多く、臨床試験はあまり見当たりません。そのあらましは後ほど紹介しますが、まず、プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスの具体例をまとめましょう。

プロバイオティクス(Probiotics)

2001年に国連の食料農業機関(FAO)によって「適正量を摂取したときに、宿主に有用な作用を示す生菌体」と定義されています。つまり、生きた状態で摂取すると相互作用で腸内の有用菌の増殖を促進する、あるいは有害菌の増殖を抑制して宿主に有益にはたらく細菌や酵母を指します。乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌、酪酸菌などの生きた細菌やヨーグルトなどの発酵乳や乳酸飲料が該当します。

食品としては古来より発酵食品として親しんできましたし、処方箋なしで買える整腸剤としても各家庭にあるはずです。とかく、ヘルシー食品として軽く捉えがちですが、近年ヒトの機能に及ぼす作用や病原微生物への作用に関心が高まり、臨床医学での応用が増えています。

ただし、薬品として使うのには正式な認可が必要なので、多くの国でダイエタリーサプリメントとして扱われています。米国では20種ぐらいの菌が利用されていますが、2007年にFDA(米・食品医薬品局)はダイエタリーサプリメントとして、不純物や汚染物質を含まず、正確に表示されることを規定しました。治験では補完療法、代替療法として扱われます。細菌数は10億個単位でカウントされ、日本や欧州と比べると米国はやや立ち遅れているようです。

プレバイオティクス(Prebiotics)

「大腸に常在する有用菌を増殖させるか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分」と定義されています。誰でも食物繊維を思い浮かべますし、日常生活ではそれでいいのですが、臨床治験や治療で使用されるプレバイオティクスの多くは、小腸で消化吸収されないオリゴ糖類です。

「オリゴ」とは少ないという意味で、グルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)、乳糖などをヒトの消化酵素では分解できない形に連結したものです。プレバイオティクスは大腸の腸内細菌を活性化するためのものです。医学で使われるものとしては、果糖系少糖類(いわゆるネオシュガーで、果糖が数個つながったもの、FOS)、イヌリン(果糖がたくさん重合したもの)、ラクチュロース(異性化乳糖)、ラクトスクロース(乳糖と砂糖を足して2で割ったようなもので、ガラクトース系少糖類(GOS)、イソモルト系少糖類、キシロース系少糖類などが利用されています。

シンバイオティクス(Synbiotics)

上記のプロバイオティクスの生菌と、腸内細菌の餌となるプレバイオティクスの少糖類多糖類を組み合わせたものです。プロバイオティクスは一般的に乳酸菌のような小腸の腸内細菌を対象としており、プレバイオティクスはビフィズス菌のような大腸の腸内細菌を対象にしています。シンバイオティクスはこれらの善玉菌を活性化して健康に寄与してくれます。

シンバイオティクスで期待されるものは、抗悪玉菌、抗がん作用、下痢治療、抗アレルギー、骨粗しょう症予防、抗潰瘍性大腸炎、血中脂質異常、血糖値安定、免疫系の安定、肝性脳症の治療(ラクチュロース)などです。

臨床試験では感染症予防によい結果が得られており、腸管感染症、日和見感染症、尿路感染症、産婦人科感染症などに予防効果をもつことが報告されています。特に糖尿病患者は感染症弱者ですし、術後患者の炎症はなんとしても防ぎたいものです。うれしいことに、この分野での論文がとても増えています。

糖尿病は炎症の病気でもありますから、このシンバイオティクスの更なる効果が期待できます。


糖尿病におけるプロ/プレ/シン/バイオティクスは動物実験のレベルが多いのですが、使われているプロバイオティクスは乳酸菌とビフィズス菌が主体で、炎症マーカーの低下やインスリン感受性の向上、血糖値改善など良好な報告が続いています。患者による臨床試験は人数は数10人と控え目ですがプラセボ群と比較しても血糖値、インスリン濃度、インスリン感受性などで良好な結果が出ています。

ヘルシーな食生活にヨーグルトやビフィズス菌、血糖を上げにくいオリゴ糖を組み合わせるのはいとも簡単です。担当医に相談してみましょう。


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