原油を見れば世界が分かる
原油価格の下落は続く。しかし、日本経済や日本株にとってはプラスの側面が!
今と同じように、かつてサウジアラビアが原油の増産を決定し、5ヶ月間で価格3分の1にまでなった事がありました。1985年終盤~1986年春にかけての事です。当時米ソは冷戦対立を深め、アフガン侵攻などで緊張も高まっていました。
そのタイミングで原油価格が一瞬で3分の1となったのです。需給の理屈だけではありえない暴落です。そして5年後にソ連は崩壊しました。崩壊に至るまでに様々な政治的変化がありましたが、原油価格が最大の原因と思います。
現在のロシア、イスラム国、イランと欧米間の対立関係も似ています。ソ連からロシアへと国は変わっても、他に際立った産業のない構造は同じであり、原油価格が下がれば政治が崩壊します。経済が良いうちは(たとえそれが「イスラム国」などの、どのような政治体制であっても)安泰ですが、経済が崩れれば国も滅んでしまいます。世界にはロシアのように原油と経済が直結している国が幾つもあります(中東やベネズエラなど)。
原油安で「日本株」は今思われている以上に「買い」
そしてその影響は産油国だけでなく、消費国にも甚大なものとなります。原油暴落の起きた1986年の日本は、これからバブルが始まるとは思われていない段階でした。1985年9月のプラザ合意によって極端な円高(1ドル約250円が150円に)となり、消費税導入も議論されていた日本の景気は良くありませんでした。ドルも原油価格と並んで世界を大きく変える力のあるものです。しかし、そこへ前述のような原油価格3分の1という暴落が一瞬で起きて(11月~3月)日本経済は立ち直りました。プラザ合意(100円もの円高誘導)という日本に不利な取り決めと、まるで交換条件のようにも感じる神風でした。2013年度のデータですが、日本の輸入品目に占める石油ガス関連の割合は以下のように3割にもなります。
1986年当時はまだアウトソーシングや海外生産という言葉すら存在せず、メイド・イン・ジャパンが当たり前でした。その製造構造の中で100円も円高になった上に(つまり、円高で原油の調達コストが下がった上に)、原油価格が3分の1に暴落したわけですから、日本経済のコストは劇的に下がり、その結果1986年に大幅に過去最高となる(それ以降を含めても)巨額の貿易黒字を生み出しました。その頃、輸出額はむしろ減っていたのにそれ以上に輸入額が劇的に下がったのです。
しかし当時の日本は原油安とドル安のダブルメリットをあまり意識せず、日本企業の合理化努力によって円高不況を克服したと錯覚しました。空前の貿易黒字で資金も国内にダブつくなか、実力以上に日本経済や企業を「過大評価」した結果、バブル(=実力の過大評価)へと突入して行ったのです。震災以降、日本が30年ぶりに貿易赤字となったのも原油・ガスの輸入量が増えたからであり、今も燃料価格の影響は大きい事に変わりありません。
よく米国がドル安・ドル高政策に転換したというような話を聞きますが、それと同じくらい原油価格は世界地図や経済・株価にとって影響の大きな事と思います。
1986年当時の「原油安政策」を見ると、今回の原油安はまだまだ長期化する可能性も充分あると予想します。まだ、欧米に敵対する勢力が力を失っていないからです。そうすると日本経済への好影響は今年以降、計り知れないほど大きくなると思います。当時と違って今は円安基調ですので、その分効果は薄くなりますが、それでも原油6割安は輸入金額を大きく減らすはずです。ガスや石油製品も併せると年間10数兆円の節約効果があり、円安で輸出金額は伸び、貿易黒字に戻る可能性もあります。ガソリン価格の大幅安は今後訪れるはずであり、家計に対する消費増税のマイナスを相殺する力があると思います。原油安が続く限り、「日本株」は今思われている以上に今後「買い」であると思います。
参考:日本株通信
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