男の子育て/イクメン・父親の育児

仕事も家庭も空回り"イクメン病"にご用心!

イクメン病とは、理想のイクメンであろうとするばかりに、仕事も家庭も空回りしてしまい、上司からも妻からも怒られるという悪循環にはまり、何より本人の自己評価が著しく下がってしまう状態のことをいいます。

執筆者:おおた としまさ

「仕事を効率化して早く家に帰ろう!」の落とし穴

仕事も家庭も空回り…イクメンの落とし穴

仕事も家庭も空回り…イクメンの落とし穴

できるだけ仕事を効率化して、できるだけ早く家に帰り、できるだけ育児や家事をちゃんとやりたいと思っているのに、早く帰りたいと思っているときに限って仕事のトラブルが発生してしまったり、育児や家事の貢献度がまだまだ足りないと妻からなじられたりして、どうやったら仕事と家庭を両立できるのかと、途方に暮れている人はいませんか? もしいたとしたら、その人はイクメン病にかかりつつあるかもしれません。

イクメン病とは、理想のイクメンであろうとするばかりに、仕事も家庭も空回りしてしまい、上司からも妻からも怒られるという悪循環にはまり、何より本人の自己評価が著しく下がってしまう状態のことをいいます。この数年、私の運営する「パパの悩み相談横丁」に、そのようなパパたちからの相談が増えており、そのことに警鐘を鳴らすために、拙著『忙しいビジネスマンのための3分間育児』の中で私が勝手につくった造語ですけど。

メカニズムはこうです。せっかく親になったのだから、ちゃんと育児をしたいし、妻の育児負担を少しでも軽減するために、家事もやりたいと思っている。すばらしい心がけです。でもそのためには時間が必要。そこで、仕事の時間を短縮しようという発想になります。それまでときに残業をしながらでもこなしていた仕事を、さらに効率化して早めに切り上げなければならないという思考になります。ここに落とし穴があります。「仕事を早く終わらせないと家には帰れない」という呪縛です。家族との時間を充実させたいと思っているのに、結局意識は仕事優先になってしまっているのです。変えなければいけないのは家庭よりも仕事を優先してしまう意識なのに、その意識が変わっていないのです。

がんばりすぎることによる悪循環

それまでよほど仕事をさぼっていた人でもない限り、効率化によって捻出できる時間はごくわずかであるはずです。絞りきった雑巾を万力にかけて最後の1滴を絞り出すような、そんなつらい毎日になってしまえば、誰だって心身ともに疲弊します。ピークの時期を根性で乗り切るというような一時的なものならいいでしょうけれど、長期間にわたる子育て期間をずっとそのようなライフスタイルで乗り切ることは、よほどの体力と気力をもっている人でない限りそもそも不可能です。スーパーイクメンやスーパーワーキングマザーみたいな人がときどきクローズアップされますけど、みんながみんなあれをできるわけではありません。

疲弊した状態では、本人の意志に反して、仕事のパフォーマンスは下がります。だからちょっとしたミスやトラブルが発生しがちになります。それがジャブのように効いてきて、結局思ったほど仕事が効率化できていないということになります。それで「子育てに一生懸命なのもいいけれど、しっかり仕事もしてもらわなければ困るね、キミ」などと上司から叱られます。私が相談を受けたケースでは、よくよく話を聞いてみると、どうも上司だって「子育てをするな」と言っているわけではないのです。「仕事を優先しろ」と言うつもりもありません(たぶん)。ただ、なんだか上の空で仕事をしているように見えることを、注意してくれているだけなんです。でも、言われた本人は「この上司はイクメンに理解がない」などと思い込んでしまいます。特に自己評価が下がっている人は、被害者意識が強くなることがありますから、場合によっては上司に対する反発が態度に表れてしまって、職場での人間関係が悪くなってしまうこともあります。

うまくいっていない仕事のことを気にしながらでは、家にいても、おおらかな気持ちで妻や子どもと接することができません。そんな状態で育児や家事をしていても、妻からの評価は得られません。「イヤイヤやっているみたい」とか「やりかたが雑」とか言われてしまいます。いや、妻だって、せっかくやってくれていることにダメ出しをしたいわけではないのです。やってくれているのはわかるんだけど、なんだかいやーなムードであることに対する違和感を口にしようとすると、そういう言い方になってしまうのです。しかし言われたほうはショックです。ただでさえ、心身ともに限界であるのに、嫌みを言われてしまうわけです。「自分のがんばりを認めてもらえていない」と、悲しくなってしまいます。そうやっていちいち凹む夫を見て、妻は「頼りない」と思うようになります。ますます態度は冷たくなります。

もっと悲しいのは、これだけやっているのに子どもにもそっぽを向かれることです。心の余裕がない状態では満面の笑顔を見せることもできません。いつも仕事のことを気にかけて、心ここにあらずといった状態で形だけ子どもの世話をしたり、遊び相手をしていたりしても、子どもにはそれが伝わってしまいます。「パパと遊んでいてもつまらない」と思われてしまうのです。

ペースダウンをする勇気も必要

つまり、仕事と家庭を両立しようとする余り、仕事をしている間は家のことを考えて、家のことをしている間は仕事のことを考えるという大変非効率な状態になってしまうのです。「今、ここ」に集中するという基本中の基本がおろそかになってしまうのです。「何をやってもうまくいかない。努力が報われない」と思うようになります。自己評価はどんどん下がり、「自分は父親失格なのでしょうか」「自分はイクメンにはなれないのでしょうか」などと悩むことになります。まじめすぎるんです。単純に、キャパ以上のことをしようとしているから、何もかもうまくいかなくなるのです。仕事だって同じですよね。自分の限界を超えることはときに必要ですが、どれくらい自分のキャパが足りていないのか自覚できないほどの高い目標を掲げてしまうことは無謀です。誰にとってもいいことがありません。

「もしかしてオレ、イクメン病かも」と思ったら、一度ペースダウンしましょう。そして、それまで空回りしている自分を叱咤激励してくれていた妻や上司に、自分の空回りを説明しましょう。きっと理解してくれます。決してかっこ悪いことではありません。そのうえで、できることからやり直しましょう。仕事の量を減らしてもらうように、上司にかけあってみるのも一手です。どうしても外せない仕事があるのなら、負担をかけてしまうことは承知のうえで、妻に事情を説明してみるのもいいでしょう。それを受け入れてもらえれば、感謝の気持ちが湧いてきます。感謝の気持ちがあれば、勇気が湧いてきます。そこから意識は少しずつ変わっていきます。イクメン病の悪循環を裁ち切り、好循環に転じ、真の意味で仕事と家庭の両立を実現するためには、そういうプロセスが必要です。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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