財務省が介護報酬の6%引き下げを提言

2015年4月に向け、介護報酬を全体で6%引き下げするという議論が行われています

2015年4月に向け、介護報酬を全体で6%引き下げするという議論が行われています

介護保険の制度は3年に一度、大きな改革が行われてきました。次回は2015年4月。2014年6月18日に成立した医療・介護一括法(地域医療・介護総合確保推進法)をもとに、関係省庁でさまざまな議論が進んでいますが、介護の現場や介護家族にとっては厳しい内容のものが少なくありません。

そんななかで、追い打ちをかけるような衝撃的なニュースがありました。

2014年10月8日、財務省で開かれた財政制度等審議会のなかで、社会保障予算についての議論が行われ、2015年4月からの介護報酬改定において「マイナス6%程度の適正化(=報酬引き下げ)が必要」と明言されています。これがそのまま実現されれば、平成15年度のマイナス2.3%、平成18年度の(施設居住費等を給付対象外とした部分を含んでの)マイナス2.4%をはるかに上回る下げ幅となります。

財政制度分科会(平成26年10月8日開催)資料「資料1 社会保障1(総論、医療・介護、子育て支援)」(58ページ参照)

なぜ、このような厳しい提示がなされてしまったのでしょうか?
 

介護報酬引き下げ論の根拠は?

財務省による厳しい提示の根拠とされたのは、介護給付費分科会で提示された介護事業経営実態調査の結果です。収支差率が特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホームなど)12.2%、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)11.2%、通所介護(デイサービス)10.6%などとなっているこの調査結果に加え、介護給付費実態調査(26年4月審査分)と平成26年介護事業経営実態調査結果をもとに、財務省では介護保険サービス全体の収支差率をプラス8%ほどと推計しています。

第11回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会資料(平成26年10月3日開催)「資料1 平成26年介護事業経営実態調査結果の概要(案)」(3ページ参照)

この8%という数字が、一般的な中小企業の収支差率2.2%と比べて大きすぎる、つまり儲けすぎているから介護報酬全体を引き下げるべきだ、というわけです。

しかも財務省は、追い打ちをかけるように、資料のなかで「さらに今後高齢者が増加(市場が拡大)する中で、規模の経済によるコスト低減が見込まれることも踏まえれば、収支差率を中小企業の水準より低い水準とすることも検討すべきではないか」と提案しています。

ちなみに介護報酬を1%削減すると、約1,000億円の節約効果があります。マイナス6%なら、約6,000億円ですね。

また、特別養護老人ホームや介護老人保健施設が内部留保をため込んでいることも、問題視されています。

財政制度分科会(平成26年10月8日開催)資料「資料1 社会保障1(総論、医療・介護、子育て支援)」(60ページ参照)

介護保険サービスで利益を上げるのは悪?

それでは、介護保険サービスを提供することで、利益を上げるのは良くないことなのでしょうか?

ガイドである私としては、決してそうは思いません。

介護事業の公益性の高さを考えると、途中で経営が破綻し、サービス利用者に不利益を与えるのはなんとしても避けるべき。介護事業者の立場からすれば、安定した経営を行うためには、ある程度の内部留保は確保しておきたいところです。

また、介護保険制度が3年ごとに大きく変更されるのも、介護事業者が内部留保を蓄積したくなる理由としては十分だと思います。過去にも、いくつかの介護保険サービスに対して介護報酬の実質的な引き下げが行われており、多くの介護事業者が対応に苦しんできたという経緯があります。いざというときに備え、ある程度の余力を残しておきたいと考えるのは当然です。
 

6%引き下げが実現した場合に危惧すること

もし今回の財務省の提示が、そのまま現実のものとなってしまった場合、私が危惧するのは次の2点です。

1.質の高いサービスを提供する介護事業者が減ってしまう
介護事業者は税制などで一定の優遇をされている社会福祉法人ばかりでなく、民間企業も数多く存在します。これらの企業が利益を1%増やすのには、涙ぐましい努力が必要です。そんななかで「良いサービスを提供しろ。利益は上げるな」と言われて、喜ぶ経営者などありえません。

質の高いサービスを提供するには、蓄積されたノウハウやスキルが必要。施設や設備といったハードにも大きなコストがかかります。現在、良いサービスを提供している事業者が、採算性の悪さから介護事業から撤退し、「安かろう悪かろう」の事業者の比率が高くなってしまう危険性があるのではないでしょうか。

2.介護職員の給与が上がらず、良い人材が集まらない
介護職員の平均給与が、一般の給与所得者と比べて低いのはよく知られるところです。実際、厚生労働省がまとめた平成25年賃金構造基本統計調査によると、ホームヘルパーの平均的な給与月額は約21.8万円。全産業の平均である約32.4万円と比べ、その差は10万円以上。2009年および2012年に行われた介護報酬改定のなかで、介護職員の処遇改善を促進する加算が行われたことで、2009年から比べると月額が3万円ほど上がったのですが、まだまだ「世間並み」にはほど遠いのが実情です。

こうしたなか、介護事業者が大きく利益を削られたのでは、経営者たちが介護職員の給与を大幅に上げるマインドになれるはずがありません。もちろん、介護報酬で加算される範囲での給与アップは実現するでしょうが、それだけでは不足。事業者全体として適正な利益を上げたうえで、それが介護職員に分配される仕組みとならない限り、根本的な問題解決にはつながらないと思います。

このような状況が続くのでは、介護業界が優秀な人材を集めるのは困難。逆に、他業界への人材流出が続くことになってしまいます。

平成25年賃金構造基本統計調査「職種別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」
 

公務員の給与は「聖域」なのか?

さて、ここで参考までに見てほしいデータがあります。それはこうした現状を招いた公務員の人件費がどうなっているかです。

財務省がまとめた国家公務員の人件費は、総額で5兆996億円。新聞報道などによると、平均年収は660万円ぐらいとされています。一方、国税庁による平成25年分民間給与実態統計調査によると、民間の給与所得者の平均年収は約414万円。官民の差は約37%です。

乱暴な話ですが、国家公務員の給与を民間並みに「適正化」することができれば、約1,800億円の節約効果があるわけです。

もちろん、国家を運営するために優秀な人材を確保する必要性があることや、給与が少ないことで汚職などに手を出す公務員が増えてしまうリスクなどを考えると、単純に公務員の給与を下げることがベストだとは思いません。しかし財務省や人事院、厚生労働省などから自らの身を切るような議論が表に出てこないままで、介護事業者が利益を上げるのを悪いことのように議論している姿には、強い違和感を覚えます。

財務省主計局「平成26年度公務員人件費(政府案)」(1ページ参照)

国税庁「平成25年分民間給与実態統計調査」
 

ガイドなりの解決策の提案

社会保障費を抑えなければ、財政を維持するのが厳しいのは事実。しかし介護報酬の引き下げありきでは、間違った方向に行ってしまう恐れがあるのも事実だと思います。

では、例えばどのような解決策が考えられるのでしょうか?実現するにはいくつもの壁を乗り越える必要があるのですが、私なりの提案を2つ挙げさせていただきます。

1.介護保険サービスを消費税の対象にする
介護保険サービスは原則として消費税が非課税となっています。そのため介護事業者が設備投資はもちろん、おむつなどを購入した際に支払った消費税については、すべて事業者負担となっています。一説によると、介護老人保健施設では平均して年間600万円ほどの損が出ているとのこと。今後、消費税率が引き上げられていくことを考えると、この負担は大きくなるばかりです。

介護保険サービスを消費税の対象にすれば、こうした問題は解消します。大幅な介護報酬の引き下げに見合うほどのプラスにはならないでしょうが、それでも多少はマシなはず。サービスを利用する側からすると負担増になってしまうのですが、その程度の痛みは我慢するべきかな、と思います。

2.ケアマネジャーを介護事業者から独立させる
ケアマネジャーの大半は、訪問介護や通所介護、施設などの介護事業者から給与をもらって働いています。そして介護保険サービスのケアプランを作成するのにあたって、サービスの利用者は費用を負担しない仕組みになっています。ケアマネジャーが1カ月に担当できる利用者の数にも上限があります。

こうした状況のなかで、ケアマネジャーに対して「なるべく多く、うちで提供しているサービスを利用しているケアプランを作ってほしい」という指示が、少なくない経営者たちから出されるのも当然と言えば当然です。これは制度そのものに大きな問題があるのではないでしょうか。

ケアマネジャーを介護事業者から切り離して独立させ、ケアプランの作成に対しても利用者が費用を負担する。そのうえで「利用者の満足度調査」と「行政側による不要なサービスの提供が行われていないかの監査」という2つのチェックを厳しく行うことで、ケアプランの透明性を高めることができれば、「介護報酬の無駄遣い」と言われるようなことは無くなっていくはずです。


良いサービスを提供することで利用者を満足させ、その結果として、事業者が適正な利益を上げる。働く人たちの給与も、その利益に比例して上がっていく。他のサービス業と同様に、介護業界も早くこうした普通の産業になることを、心より願います。

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