天龍&原の龍原砲のダブル・タックル
兄弟の絆を感じさせたザ・ファンクス
タッグマッチから始まった日本のプロレスを力道山亡き後に黄金時代へと導いたのはジャイアント馬場とアントニオ猪木のBIコンビでした。1960年9月30日に同日デビューを果たした2人のライバル意識が圧倒的な強さを生み出し、世界に誇るタッグチームになったのです。2人がタッグを組んでいたのは67年5月から71年12月までの4年7カ月。209センチの馬場と190センチの猪木の大型外国人チームに体力負けすることのないスケールの大きなファイトは、高度成長期の日本のパワーを体現しているようでもありました。このBIコンビは178戦159勝11敗8引き分けで勝率9割1分5厘という驚異的な成績を残しています。ただ、このBIコンビにタッグチームとしての本当の面白さがあったかというと、やや疑問が残ります。日本プロレス界のナンバー1を争う2人が組んだ以上は強いのは当然で、組みながら競い合っているという面白さはありましたが、タッグマッチならではの合体プレーなどはほとんどありませんでした。タッグの面白さはお互いのマイナス面を補う、役割を分担することによって1+1が2ではなく、3にも4にもなるところですが、BIコンビの場合は1+1=2の強さでした。
日本のファンが最初に感動を覚えた外国人のタッグチームは77年12月の『世界オープン・タッグ選手権』で優勝したドリー・ファンク・ジュニアとテリー・ファンクのザ・ファンクスでしょう。彼らもタッグ戦術をフルに使うコンビではありませんでしたが、冷静沈着な兄ドリーと情熱的なテリーのファイトが噛み合って、兄弟ならではの絆を感じさせるコンビでした。『世界オープン・タッグ選手権』最終戦で地上最凶悪コンビと呼ばれたアブドーラ・ザ・ブッチャー&ザ・シークに血ダルマにされ、ブッチャーに左腕を刺されたテリーは戦闘不能に陥りましたが、孤軍奮闘する兄ドリーを助けるべく、左腕をバンテージでグルグル巻きにしてリングにカムバック。そして兄弟愛で逆転優勝した瞬間、蔵前国技館は熱狂に包まれました。日本プロレス界には「暮れの興行とタッグ・シリーズは当たらない」というジンクスがありましたが、この大会の成功によって翌78年から全日本プロレスの暮れのシリーズは『世界最強タッグ決定リーグ戦』が恒例化されて現在も続いています。
長州&浜口、龍原砲から日本のタッグが変わった
日本人タッグチームで純粋にタッグの面白さを提供してくれたのは長州力とアニマル浜口の維新コンビです。82年10月に「俺はお前の噛ませ犬じゃない」と藤波辰巳に言い放ち、新日本プロレスの体制に反旗を翻した長州は革命戦士と呼ばれるようになりました。その長州が元国際プロレスの浜口と83年6月に結成したのが維新コンビです。2人は合体パイルドライバー、長州のバックドロップと浜口のダイビング・ネックブリーカーの合体技などを次々に開発して猪木、藤波らの正規軍に対抗。そのスピーディなタッグ戦術は評判となりました。この長州、浜口に谷津嘉章、キラー・カーンらが共鳴することによって当初は長州の独りだけの革命だったのが、浜口との維新コンビを経て維新軍団という一大勢力になったのです。全日本プロレスでは87年6月に天龍源一郎と阿修羅・原が結成した龍原砲が一世を風靡した。「ジャンボ鶴田と輪島大士を本気にさせて全日本マットを活性化する」と正規軍を離脱した天龍と原は「俺たちにマンネリはない。まず毎日、取材に来るマスコミと勝負だ」とサンドイッチ・ラリアット、スローイング・ラリアットなどのオリジナル殺法を次々と開発。連日、身を粉にするようなファイトを続けてファンの絶大な支持を受けました。全日本は平成に入って三沢光晴、小橋建太、秋山準の超世代軍と川田利明、田上明らの聖鬼軍によるタッグマッチ、6人タッグマッチがファンを熱狂させましたが、その礎となったのが龍原砲と言っていいでしょう。
外国人タッグチームではスタン・ハンセンとブルーザー・ブロディの超獣コンビ、80年代の日米マットでセンセーションを起こしたアニマル&ホークのザ・ロード・ウォリアーズが多くのファンの記憶に焼き付いていると思います。
プロレスのファイト・スタイルが多種多様化した今、多くの個性的なタッグチームが存在します。プロレスリング・ノアの杉浦貴とZERO1の田中将斗が合体した弾丸ヤンキースは強さと凄さを体現するコンビで、両団体のタッグ王者に君臨。2014年度プロレス大賞の最優秀タッグチーム賞の最有力候補です。インディー系ではともに170センチ台の小柄ながらスピード、テクニック、破天荒さ、コンビネーションでオーソドックスなスタイルもデスマッチもOKな宮本裕向と木高イサミのヤンキー二丁拳銃、会場全体を使って観客をパニックに陥れる双子のバラモン兄弟が人気を集めています。
大一番の一騎打ちの前哨戦的な見方をされていたこともあるタッグマッチですが、レフェリーの目を盗んでのタッチワークの妙、それぞれのチームのオリジナル合体殺法など、一騎打ちにはない魅力があるのです。ぜひ、会場に足を運んで観戦してみてください。