住みたい街 首都圏/キケンな街の見分け方

水害、土砂崩れ……危険は地形図で分かる

東日本大震災以降、自然災害が相次いでいる。中には火山の噴火のように予測ができないものもあるが、水害、土砂災害などの中には事前に地形図、旧版地図を見ることで危険性を知ることができるものもある。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

海から離れた場所、
高台でも洪水は起きる

豪雨

昨年秋名古屋で遭遇した1時間に100ミリを超える豪雨の写真。マンホールの蓋が飛び、車が水没していた

2014年10月の台風18号では首都圏でも冠水箇所が見られ、ネット上には半分水没した車や膝まで浸かって歩く人の姿などの映像が流れた。それを見て不思議に思った人もいたようだ。海や川に近いに京浜急行川崎駅前や鎌倉中心地、茅ケ崎などであれば、分からないではないものの、どうして、海から遠い、高台に思える戸塚や大船のような場所で冠水被害が出るのだろう?と。

 

戸塚と柏尾川、周辺との関係

東京地形地図を使えば、戸塚駅、柏尾川と周囲の関係が一目で分かる(クリックで拡大)

これについては地形図を見るのが一番早い。右は神奈川県戸塚駅周辺のグーグルアースに東京地形地図を重ねたもの。一目見れば分かるように、駅のすぐ近くを柏尾川が流れ、川の左右は高台。川がこのエリアの地形の底になっているのである。川沿いの標高は14~15mとなっており、川の両側の高台は20m以上、場所によっては60mほどにもなっており、そこに降った雨はすべて底に向かって流れる。海から遠かろうが、周囲から見て低地になっていれば、そこには水害の危険があるというわけだ。

 

大船も同様に海からは遠いものの、駅の西側には柏尾川が流れ、そこに東側から砂押川が注いで駅の下を通って柏尾川と合流しており、駅周辺が標高で言えば11mくらいで底。その西側には観音様の坐する高台があり、こちらの高さは40mほど。また、東側は西側ほど極端な高低差はないものの、1kmほども離れた鎌倉街道を超えた辺りになると20m、30m。駅近く、川沿いに向かって水が流れてくるのは自然の成り行きなのである。

 

水が低い場所に向かって流れることを知っていれば、水の被害が出やすい場所は容易に分かる。周囲に比べて低い場所が危ないのだ。そして、それを知るために役に立つのが地形図。首都圏を見るのであれば、前述のグーグルアース+東京地形地図が分かりやすい。グーグルアース、東京地形地図の順にダウンロードすれば自動的に使えるようになる。いずれも無料。

 

地理院地図

地理院地図。航空写真なども含め、国土地理院の様々な地図が見られるので便利。ただし、地図は情報量が多く、作動は遅い(クリックで拡大)

その範囲外を見たい場合には地理院地図(電子国土Web)で色別標高図を選択すると標高を色分けして見せてくれる。ただし、色の変化が東京地形地図ほど密ではないため、ぱっと見て分かりにくい場合があるので、その時には地図上をクリック、標高を確認するようにしたい。地理院地図ではそれ以外にも明治前期の低湿地や都市圏活断層図なども見られるので、災害全般について調べる時には効率的。

 

土砂災害、斜面崩壊など
造成地の危険は新旧の地図で見る

豪雨による土砂災害も相次いでいる。広島での土砂崩れは記憶に新しいところだが、こうした被害も地形図を見ることで危険は察知できる。また、斜面地であれば造成された土地である可能性が高いが、その場合の危険は新旧の地形図を比べてみることで分かることがある。

 

今昔マップ

今昔マップon the webトップ画面。首都圏のみならず、全国8カ所の新旧の地形図を一度に左右に並べてみることができる(クリックで拡大)

土砂災害ではないが、斜面地の危険の例として横浜市西区のマンションを取り上げよう。このマンションでは竣工後の早い時期から建物が傾き始め、住民は早くから施工業者などにそれを訴え続けてきたが、なかなか事業者が認めたがらなかったというもの。最終的には住民が示した昭和初期の地形図から非を認めるに至っており、古い地形図が決め手となった。どういう場所であるかを、埼玉大学の谷謙二先生が作成された今昔マップ on the webで見ていこう。

 

明治時代の地図

1986年以降の地形図と現在のもの。左右に並べて見られ、古い地図上でカーソルを動かすと現代の地図上にもその場所が記される(クリックで拡大)

右の地図は明治時代の1986年から1909年の現地の地図で、マンションがある場所は隠谷戸とある文字の少し上くらい。見れば分かる通り、傾斜地で凸凹がある。しかも、地名は隠谷戸。谷戸(やと)とは丘陵地が浸食されて作られた谷状の地形で、隠とあることから、おそらくは奥深く谷が食い込んでいて外からは見えない状態から名づけられた地名と推察できる。右の現代の地図で十字が付いているのが現在、マンションがあるあたりだ。

 

1965年以降の地形図

1965年以降の地図。地名に歴史、地形を知るための意味があることが認識されるのは昭和も終わり頃になってから。この時代には意味を顧みる人は少なかった(クリックで拡大)

その後、1965年から1968年の地図を見ると、明らかに土地は平坦になっており、地名も宮ケ谷と変わっている。物件が所在するのはこの地名のある辺りだ。それでも谷という文字は残っている。日本の国土は1960年代以降の高度経済成長で埋めたり、切ったり、盛ったりと大きく変化しているが、このエリアもまた、である。こうした造成地を規制する宅地造成等規制法が施行されたのが1962年なので、地図作成に要した時間等を考えると、この土地が法に則って造成されたかどうかは微妙なところだ。

 

1998年

現地に行けば傾斜地であることは分かるものの、敷地内は平坦に見えるような状況になっていたようだ(クリックで拡大)

さらに1998年から2005年の地形図を見ると、すでに傾斜地だった面影はほとんどなくなっている。もちろん、実際に現地に行ってみると敷地と周囲の間に高低差があるので、傾斜地であることは十分分かるが、それほど深刻に考える人は少なかっただろうと思う。

 

迅速即図

最古のものと現在を比べた。等高線の密度がまったく異なっていることが分かる(クリックで拡大)

最後は残っているうちで最も古い、明治初期から中期にかけて作られた2万分1フランス式彩色地図(迅速即図)。これを見ると傾斜はそれ以降よりもはるかにあったようで、時代が新しくなるにつれ、地形が変化してきたことがよく分かる。

 
土地の高低、埋め立ての有無は地形図を見れば一目瞭然だが、それに比べると造成の有無は見分けにくい。だが、丹念に古い地図から順に変化を追っていけば、人の手が加わっていることは分かる。実際の造成がどのように行われたかまでは分からないものの、注意しなくてはいけない土地であることは分かる。当然、その場所に住まいを選ぶ時には、土地に合わせた調査、設計施工その他が行われているかどうかをチェックしたいところだ。

 

地形図、旧版地図で
危険な場所を知り、備える

最後にひとつ、こうした場所をどう考えるかについて個人的な考えを書いておきたい。ノウハウではないので、読みたくない人はスルーしていただいて構わない。

 

急傾斜地

首都圏では横浜市に急傾斜地が多い。これから選ぶのであれば、できればあまり選ばないほうが賢明(クリックで拡大)

地形図、実際の現地の状況などから推察すると、どう考えても危ない場所は明確に存在する。幸い、ある程度は技術の力によってコントロールできるようになってはきているが、技術をもってしてもコントロールできない危険もある。そして、日本にはそうした土地の宅地化を規制する仕組みはない。たとえば、土砂災害で多くの被害者を出した広島県は土石流危険渓流、急傾斜地崩壊危険箇所の指定箇所数はいずれも全国一位。土砂災害マップもきちんと作られている。でも、だったらと思わないだろうか。ここが危ないという地図を作るなら、その前に、そこに人が住まないようにしたらいいじゃないか、と。

 

青地

誰の家の所有か分からない状態で、このようにフェンスなどで囲まれている土地も危険。俗に青地というが、元河川だった土地だ(クリックで拡大)

しかし、日本ではそれができない。家が欲しい人がいて、家を売りたい人がいて、宅地にできそうに見える土地が市街化区域内にあればそこに家が建つ。そこがいくら危険と思われたとしても家が建ってしまうのである。もちろん、災害が発生しないかもしれないという考え方もあるが、そう考えていて起こってしまった場合にはダメージが大きくなる。

 

一方でどうしても家が欲しいという気持ちは抑えようがない。山がちの国、日本では災害に強い場所はそうそう多くはなく、どうしても何かしら弱いところのある場所に住まざるを得ないのが現実だ。

 

であれば、ハザードマップを作らなくてはいけないほど危険な場所、技術を駆使してもカバーできない場所は別として、技術や備えで多少なりとも被害を防げるところならば、そこに住まないようにしようではなく、どういう危険がある場所かをきっちり知って、危険を想定、備える姿勢でそこに住むしかない。そのために地形図や旧版地図は役に立つ。難しいと敬遠せず、使ってみていただきたい。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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