誰にでもある住宅内で「ヒヤリ」「ハット」した経験
皆さんも住宅の中で、もうちょっとで大けがをしそうになった経験があると思います。私の母によると、私が幼い頃、2階のベランダから飛び降りそうになっていたことがあるそうです。また、電源のコンセントに異物を突っ込んで遊んでいたこともあるといいます。当時のことを私は全く覚えていませんが、きっと冒険心や想像力の豊かな子どもだったのでしょう。全くアホそのものですが、要するに子どもというのは前後の見境無く、突拍子もないことをするものだということです。要するにヒヤリハットは、「もう少しで命に関わる大事になる」そんな出来事のことだと考えて頂くと良いでしょう。
さて、そんなエピソードを話す私の母ですが、この人だって人のことをいえません。私はあるときから母は「この人は収納ベタ」だと確信したのですが、それは部屋にものを置きっぱなしにすることが多いからです。もうすぐ70歳を迎えることから、ものにつまづいて大ケガをしないか心配になります。
私の実家はバリアフリーの点ではしっかりとしているのですが、本人のそうした自覚のない行為が危険を生み出しているというわけです。ですから、もし皆さんも「収納ベタ」を自覚されているのなら、住まいの検討段階から様々な場所に収納を設け、室内が片付けやすくなるよう配慮されるべきです。
ちなみに、私も母の遺伝子を受け継いでいますから、掃除や収納は苦手です。ここまでの話は、一見、ヒヤリハットとは関係のないように思われるかもしれません。しかし、申し上げたいのは、それは誰にでも起こりうることで、中でも幼い子どもと高齢者に起こりやすいということです。
交通事故より多い家庭内での死亡事故
さて、皆さんは交通事故より家庭内の事故で亡くなっている人の方が多いことをご存じでしょうか。2012年度の人口動態調査によると、前者が6414人に対し、後者は実にその2.4倍の1万5343人にのぼっているといいます。意外に思われるかもしれませんがが、この数字は住宅という場所に危険が潜んでいることを如実に表していると考えられます。家庭内事故の死亡者数の中で65歳以上の高齢者は全体の82.6%を占め、これは年間で約1万3000人という数字になります。高齢者の身体機能の低下と、住宅内に危険箇所があることが相まって、このような実態になっているのだと考えられます。
一方で、子どもの家庭内事故は、同じく人口動態調査における死因原因をみると、「不慮の事故」が0歳では第4位、1~4歳では第2位、5~9歳では第1位、10~14歳でも第2位と、非常に高い状況となっています。
子どもの場合は、まだ危険を察知する能力が未発達ですから、一見安全に感じられる住宅の中に危険な場所や箇所があるというわけです。このようなことから、住まいづくりでは子どもや高齢者の安全にしっかりと配慮する必要が出てくるのです。
そうした配慮は、家族の中に高齢者や子どもがいるから必要というわけではありません。きっと、皆さんが将来、高齢者になっても安心を提供してくれるはずです。要するに長く住み続けるために必要なのが、今回のテーマ、ヒヤリハットを感じるような住まいの危険を取り除くことなのです。
では、どのような工夫があると住まいは安心・安全になるのでしょうか。次のページでポイントを絞りながら、いくつかご紹介したいと思います。