3位:バッティストーニ(指揮) レスピーギ:ローマ三部作
イタリアより新スター現る。東フィルとの奇跡の記録
峯:東フィルはよくついていっていますよね。イタリア人の振るレスピーギと言うと、大体想像がつくんですけれど、想像を超えました。私は衝撃とまでは言わないけれど「おー」という感じで。こんな若手がいるんだなぁと。一番最初に思ったのは“イタリアのドゥダメル”。一匹狼で世界を指揮するオペラの叩き上げの若手が出てきたのかなぁという感じですね。
大:自信を持って振っていて、その指揮者をオーケストラが信頼していなければここまで付いていかないですよね。そこまでの求心力みたいなものを持っていますよね。
久:二期会に呼ばれてバッティストーニと東フィルが初共演し、これが2回目だったんですよね。オケの信頼感を短期間で得る何かがあったんでしょうね。リハーサルでは全然無理をさせないとか聞きましたが、それだけではないでしょうね。
大:心を掴んだ上で演奏することはとても重要ですものね。
久:特に『祭り』がすごかったですね。最後の煽り方が半端じゃないのですが、アンサンブルが乱れない、その統率力はすごいなと。
大:『噴水』もきらきらと美しい演奏で印象に残りました。
北:今や日本のオーケストラが安心して聴けるんだなぁという感じもしましたね。
峯:日本のオーケストラの盤は、インバルと都響のマーラーもそうですけれど、結構安定して売れるものも出てきていますよね。
北:ゲネプロも録音しているのかもですが、昔だったら一日のライヴだけで、楽器も音数も多いローマ三部作をまとめて録音して出す、というのはなかったでしょう。なかなかすごいことですね。最近ローマ三部作の新譜ってそんなになかったんですよね。お客さんに薦めるにも、トスカニーニは流石に古いにしても、ムーティとかデュトワとか昔ながらの盤になってしまうんですよね。オススメできるのが10年前20年前と変わっていない。そういう中にこういうのが出てくると、オススメしやすいですね。
大:しかも、これからどんどん有名になる人ですし、観る機会もありますよ、と。
北:まだ20代ですよ、と。
久:ただ、20代の指揮者で日本のオケで、となると知らない人はなかなか買ってくれなそうな気も(笑)。内容的には本当に良いんだけれどなぁ。
北:そこなんですよね。実際に今売れているのは、内容で売れているんですよね。ベテラン指揮者や名がある指揮者の盤が多い中、こういった未来につながるような制作は素晴らしいなと思いますね。
峯:オペラの序曲集とかのCDも出ると面白いですね。
北:そうですね、ロッシーニとか。
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2位:バッティストーニ(指揮) マーラー:交響曲第1番『巨人』
バッティが新感覚で浮き彫りにする、新時代のマーラー
久:これはデ・ラ・パーラが出産のため振れなくなり「代役はバッティストーニが良い」と東フィルの団員が熱望して、ローマ三部作の時に続いて実現したライヴなんですよね。
大:指揮者にとってとても嬉しいことですよね。本当に良い関係ですよね。
峯:この演奏を客席で聴きましたが、前半のプログラムにバーンスタインの『シンフォニック・ダンス』があったんです。それがとても印象深くて。さっき“イタリアのドゥダメル”と言ったのはそういう意味もあるんですけれど、その流れでのマーラー。全体的な印象はさっき久保さんが言ったのと変わらないのですけれど、何年も一緒に共演しているような一体感が感じられました。東フィルってそんなにノリノリのオーケストラのイメージではないのですけれど、オーケストラが非常にノっている。こういう激情型の指揮者に反応する機能性があるのかなと思いました。若きマーラーの勢いそのままを表現した1枚ですね。
久:細かいところで聴いたことのないような歌い回しをしていますよね。
峯:曲芸を織り交ぜていますね。
大:そう、感覚がちょっと今までになかった感じ。3楽章のコル・レーニョ(弓の木の部分で弦を叩く演奏法)のところなど、ラジオをつけて急にたんたんと音楽が流れてきたかのような。マーラーによく言われる分裂症的なところが不思議な聴いたことがないカタチで現れてくる。それはやろうと思ってもなかなかできることではないと思い驚きました。
久:4楽章のクライマックスもそんなに力が入っていないんですよね。でもパーッと良い意味で解放された感じの表現というか。
峯:彼は元々デ・ラ・パーラが予定したプログラムから一つも変更しなかったんですよね。それでこの『巨人』は初めて指揮したそうですね。
久:曲をまだよく知らずに勉強して短期間で仕上げたということが解釈的に影響していたかもしれないですよね。
大:それも大きいでしょうけれど、それにしてもまったく新しい感覚を持った指揮者が登場した、という印象ですね。
北:私は『巨人』ではなく、別日に行われたドボルザークの『新世界』を聴きに行ったのですが、それもかなり変わった演奏でした。そして、オーケストラの眼差しが温かくて「何か一緒に作りたいな」という思いが感じられました。
峯:両方聴いた人から『新世界』の方が面白かったと聞きました。『新世界』が変わった演奏だったからマーラーが普通に聴こえたというのもあるかもしれないですね。このマーラーは普通と言えば普通かもしれないけれど、昨今のマーラー演奏とは違う若さが感じられましたね。
北:『新世界』はもしかしたら賛否両論出るくらいの変わった演奏でした。
大:何が飛び出すのか分からない、という意味でも今後ますます楽しみですね。
北:『新世界』の公演の前半にやったチャベスの『インディオ交響曲』が非常に熱狂的な演奏でしたね。
峯:それは『シンフォニック・ダンス』と同じですね。あの興奮を伝えるために、チャベスとバーンスタインでカップリング出してほしいですね。それはそれで面白い。
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1位:ラトル(指揮) シューマン:交響曲全集
ベルリン・フィルが世に問う“最上の”自主制作盤 第1弾
峯:メジャーレーベルでは絶対にこうしたものは出さないですよね。ベルリン・フィルが世に問いたいのはこういうカタチなのかと思いました。記者会見の際に感じたのですが、パッケージメディアに対する感覚が、普通のディスクよりも高い位置に押し上げられていて、昔、一家に一台ステレオがあった時代を彷彿とさせます。
大:ベルリン・フィルらしく、思い切った感じがありますよね。
久:音楽はCDの価格も下がったり、手軽にダウンロードできたり、どんどん軽く、価値が下がっちゃっているように思います。そういう流れに対抗するというか、多少値は張っても最上のものを提供して「世界中の人たちと感動を共有したいんだ」みたいな気持ちは伝わるなと個人的には思いました。
峯:一つのパッケージのカタチとしてなるほどと思ったセットでしたね。価格もまぁ、一般のものより高いですけれど、これだけのものが入っていると思えば1万円を切っているわけだし。今のベルリン・フィルの魅力は十分に入っていますよね。
久:まぁ、聴きたくなりますよね。
峯:すごく良い演奏だったと思います。
大:ラトルとベルリン・フィルの関係がとても良いのだろうな、というレベルの高い演奏ですよね。
北:ラトルはベルリン・フィルの主席指揮者からの退任も決まっていて終盤ですしね。
峯:あうんの呼吸みたいなところがあるのかもしれないですね。主要な主席プレイヤーがちょくちょく変わっていて、世代交代の時期ではあるようですけれど。ベルリン・フィルはベルリン・フィルらしく、というプライドがこのセットに見えますよね。強いて言えば、4番の初稿は面白かったですけれど、欲を言えば改訂版も入れて欲しかったです。
久:それお客さんから言われますね~(笑)。
北:言われますね(笑)。
大:これは売れていますか?
峯:爆発的ではないですけれど、実際かなり売れています。受け入れられているのだなぁ、と。普通のクラシック好きのお客さんが普通に買っていっていますね。
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ということで、2014年上半期に、クラシックのCD屋さんが選んだベストでした。ぜひ聴いてみてください。ただ、すばらしいCDはこれら以外にもたくさん。泣く泣く選外となった盤も多々あるのです……。CD屋さんに行けば随時オススメCDが陳列され、また視聴できる場合も。そんな中で、人生を変える一枚に出会えるかもしれません。ぜひCD屋さんに足を運んでみてください!