4位:ムラヴィンスキー(指揮) 大阪ライヴ 1977年
良音質によりヴェールを脱いだ、大巨匠の真の深さ
久:音も良かったし、演奏も素晴らしいですね。
北:ムラヴィンスキーは「自分の見えるところにマイクを置くな」と言ったので隠すようにして録ったあまりよくない録音が多い中で、これはきちんと分離したステレオの音として、状態良く残されていましたので、ここ何年かどころか、アルトゥスレーベルが最初に日本公演のショスタコーヴィチの交響曲5番のCDを出した時に続く衝撃ですね。曲がムラヴィン・ファン以外はなかなか入りづらいですが(笑)。
大:「あぁ、『くるみ割り人形』の抜粋か」と思ったら、有名な『花のワルツ』や『トレパーク』とかは一切入っていないんだっていう(笑)。でも『冬の森』とか凍りつくような凄みある演奏で、選ぶ理由が分かりました。
峯:この選曲はムラヴィンスキーですねぇ。
北:ちょっと面食らいますよね(笑)。
大:ムラヴィンってマイクが見えると怒ったんですか?
北:1973年の初来日の時はそういう話はあまりなかったのかもしれませんね。ショスタコーヴィチの交響曲第5番とかベートーヴェンの交響曲第4番とか、きれいな音で録れたのでしょうが、以降の来日などではマイクを嫌がったそうですね。なので、演奏が良くても、音が悪い。隠し録りと言っては失礼なんですけれど、それに近い録音になってしまったものが多いですね。
久:ムラヴィンスキーは、ガツンガツンという表現の印象がありましたけれど、それは録音の悪さでもあったんですよね。こうして音の良い演奏を聴くと、そうではないことが分かる。解説にも書いてありましたけれど、『未完成』の最初の音から本当に凄みがありますね。
北:ダイナミクスレンジ(音量の幅)も相当広かったみたいですね。
大:僕も同感で、これも解説に書いてありましたけれど、ムラヴィンスキーは甘さのない端整な引き締まった演奏で「隊列を乱すとシベリア送りだ!」みたいな厳しい部分があるかと思っていたのですが、これを聴くと非常に音に温かみがある指揮者だと分かったというか。もちろん厳しさはありますが。
北:リハーサルは相当厳しかったみたいですよね。でも、本番でミスしている盤とか結構ありますよね(笑)。
大:それは、シベリア送りですね(笑)。
久:『未完成』で、1楽章はガツンと来るけれど、2楽章はほぼノーアクセントで、ぼーんっと広げていって、クライマックスで一度だけガツンと来ますけれど、こういう表現をする人だったんだと思いましたね。全然知らなかったです。
峯:その一方で、レニングラード・フィル独特のムラヴィンスキーが指揮したときの管楽器の鳴らし方というのは変わらず聴き取れますね。
大:ムラヴィンスキーって演奏が速い印象もありますが、『未完成』のテンポはかなりゆったりしていて。
北:ブラームスなんかもテンポ的にすごく速いわけではなく、同じく今年出たウィーンでの交響曲第2番も良いですね。
久:あの2番は、うねうねしたすごい演奏でしたね。生き物がうねるみたいな。
峯:あれも音が良くなっていましたね。以前に出ていた録音の印象とは全然違いました。
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4位:ロト(指揮) ストラヴィンスキー:『春の祭典』&『ペトルーシュカ』
あのハルサイを当時の楽器で! 古楽演奏の最先端
大:本当ですよね。音色が今と違うなぁというのはもちろんあるのですが、それを上回って良い演奏だなぁ、なめらかだなぁ、と思いました。『春の祭典』は初演から100年だった昨年2013年に録音がたくさん出て聴きましたけれど、これを聴いてまたビックリしましたね。まだこんなことができたのか、と。
久:『ペトルーシュカ』も編成の大きさを活かした良い演奏でしたね。
北:4管編成の1911年版ですもんね。品薄なくらい売れていますよね。
峯:知らない間に売り切れてなかなか入ってこない。いろいろなところで売れているんでしょうね。
久:ただ、解説を見ると、1900年前後の楽器を使っているって書いてあるじゃないですか。これ、本当なんですかね? 100年前の金管楽器って吹けるのかなぁ?
北:メンテナンスしていたら吹けるのかもしれませんけれど、普通はコピーを使う場合が多いのでは。
久:でも、コピーはそう書いてあるようなんですよね。あと、ホルンはピストンホルンなんですね。
北:解説にどの楽器を使っているかがきちんと書いてあるのはすごいですね。普通はここまで詳細には書かないですよね。
峯:これからの指揮者の生き方を示唆しているような1枚だと思いました。
久:かなり気合入ったでしょうね。
大:彼は1971年生まれと、かなり若いですし、今後も楽しみですね。現代音楽もかなり振るんですよね。
北:いろいろな探究心があるので、これからも我々の考えつかないようなことをしてくれそうな気がしますね。
大:斬新ですが、変な感じがしないのが良いですよね。ただ、『春の祭典』で突然ゲネラルパウゼ(全休止)が入っているのはびっくりしました。
久:あれは驚きましたね。演奏のスタイルも当時のスタイルに合わせたと書いてあるので、根拠はあるんだと思うんですけどね。
北:研究の成果なんですかね。
大:ロトは、今年2014年12月にN響で第九を振るんですよね。
峯:このCDでの音楽へのアプローチの仕方も踏まえて聴くと相当楽しいでしょうね。って、そこでも当時の楽器を使いますかね? だったらそれまたものすごい注目ですけれども(笑)。
北:指揮者が楽譜を持ってくるという話は聞きますが、楽器を持ってくるというのは聞いたことがないですね(笑)。ただ本当に、この盤によってかなり注目され、名前も更に知られるようになったので良いタイミングですね。
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