インスリンが飲み薬になれは注射の回数も減りますし、インスリンの作用もより体に優しいものになりそうです。

インスリンが飲み薬になれは注射の回数も減りますし、インスリンの作用もより体に優しいものになりそうです。

「インスリン、飲み薬に」という見出しが日経新聞2014年6月24日朝刊に載りました。飲み薬にすることでインスリン注射の痛みがなくなる?! というのが素人の第一感ですが、簡易なインスリンペンと極細針の普及でインスリン注射の痛みなんて実はとっくの昔に死語になっています。にもかかわらずノボ ノルディスク(デンマーク)のようなインスリン製剤の最大手がインスリン経口薬の開発にも取り組んでいるのは、経口薬にすることで体外からのインスリン供給を、からだ本来のメカニズムにより近づけようとする意図があるからです。

ヒトインスリンに近づけようとした努力が、ヒトインスリンを超えたヒトインスリンに!?

糖尿病治療薬としてインスリンが使われ始めたのが1920年代ですが、なかなか理想的なインスリンにたどり着きませんでした。最初はブタやウシの膵臓から精製したインスリンが使われましたが、後に遺伝子組み換えによって酵母やバクテリアから人間と同じヒトインスリンが作られるようになりました。次に注射したインスリンが、より体の膵臓から分泌されたヒトインスリンの働きに近づくように構造を少し変えたインスリンアナログが登場します。食事の時に使うボーラスインスリンがより速い作用が求められ、ベーサル(基礎)インスリンはよりフラットな効果が望まれるからです。

今日、科学者達は糖尿病のある人々の日々の健康と生活を向上させるべく、更なるより使いやすいインスリンを開発中です。もちろん、注射以外の方法も研究されています。

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構造が少し違う動物のインスリンではなく、人の膵臓が分泌しているヒトインスリンを薬として利用するのは誰が考えても理想的ですが、いざ使ってみると思った程にはうまくいきませんでした。

その理由の一つはインスリンのルートの違いです。体では膵臓で分泌されたインスリンは小腸で吸収された栄養物と一緒に門脈(もんみゃく。消化管を通った血液を肝臓に運ぶ血管)を通って肝臓に直接入ります。肝臓にブドウ糖とインスリンが流れ込むと肝臓は肝臓によるブドウ糖の放出をストップし、大量のブドウ糖を取り込んで利用し、グリコーゲンとしても蓄えます。しかし、ある程度のブドウ糖は肝臓を通り抜けて全身に回ります。分泌されたインスリンも1/2程度は肝臓で利用・処理されますが残りは全身に回ります。

こうして全身の細胞でブドウ糖やインスリンが利用されて血糖値が一定に保たれるのですが、飲み薬のインスリンは小腸で吸収されるのでこの流れに入ります。一方、皮下注射されたインスリンは膵臓まで遠回りするので肝臓への作用も不十分で食後の高血糖を起しやすくなります。更に膵臓から分泌されたインスリンは血流中ではすでに1分子になっているのですぐに作用しますが、インスリン製剤のヒトインスリンでは、6個のインスリン分子がひとつに集まって雪の結晶のような安定した6量体になっているので、その分解にも30分以上の時間が必要になるのです。

このように注射するヒトインスリン(R=レギュラーとか、ヒューマンと言います)以上に体のヒトインスリンに近い作用をするように構造に手を加えたものが現在使われているインスリンアナログです。しかし、改良されたとはいえ、相変らず食後の血糖上昇は高いし、就寝中の低血糖も皆無とは程遠い状態です。

より速く効くボーラスインスリン、より安定して長時間効果の続くベーサルインスリンを目指して開発競争が続いています。

超速効型インスリンより、もっと速く短時間に効くように

インスリンが素早く作用するためには、なるべく早く循環系に入るようにしなければなりません。上記のように、インスリン製剤の中に6量体として存在しているインスリンを皮下注射後にいかに速くバラバラにするかがポイントです。

■ BIODEL

インスリン分子が6量体として安定したクリスタル状になるには、中心部に亜鉛が必要です。Biodel Inc.(米)は薬のデリバリー技術の開発会社で、高分子量のインスリンをいかに速く吸収するかの研究で知られています。Biodelの試験中のインスリンBIOD-531は400単位/mlの高濃度のヒトインスリン(rDNA)に、インスリン6量体から核となる亜鉛を奪い取る金属キレーション剤のEDTA(エチレンジアミン酸酢酸)やクエン酸、硫酸マグネシウムを添加したもので、速いインスリン吸収は確認されました。しかし、注射部位に刺激性があるのでインスリンにカルシウムとマグネシウムを添加して注射部位の不快を低減中とのことです。

■ インスリンにヒアルロン酸分解酵素を混合

インスリンを注射する皮下組織は細胞外の間質組織で満ちています。これらがインスリンが分散して循環系に到達するのを妨げます。間質組織の主成分はヒアルロン酸なので、ヒアルロン酸を加水分解する酵素ヒアルロニダーゼを注射液に混ぜて使うと組織への浸透性が増加します。この研究はヒト由来の組み換えヒアルロニダーゼ(商標Hylenex)を開発・販売しているHalozyme Therapeuticsが行っています。ヒアルロニダーゼは既に局所麻酔と共によく用いられており、眼科などの手術でも利用されている安全なものなのでFDA(米国食品医薬品局)のインスリンとの混合認可は比較的早いのではないかと言われています。

■ FIAspはノボ(ウルトラ)ラピッドインスリン?

超速効型インスリン、ノボラピッド(一般名インスリン アスパルト)にニコチンアミドとアルギニンを配すると更にスピードアップします。ニコチンアミドはビタミンB複合体の一つで、これが吸収を速めると考えられています。アルギニンを添加することで安定性が増すようです。食事直後のボーラスインスリンが可能ですから、高齢者や幼児のようにどの位食べるかを予測できない患者にも安心して使えます。治験の最終段階の準備中とのこと。

より長く、安定した持続型インスリン

日本や欧米、その他の国々ではノボ ノルディスクのトレシーバ(インスリン デグルデク)を既に使っていますが、米国ではFDAが更なる心臓の安全性のデータを要求していますから早くても2015年の認可になりそうです。

■ インスリン LY2605541

イーライリリーが治験中のこの持効型インスリンの元はなんと超速効型のヒューマログ(インスリン リスプロ)です。構造の一部を変えたので高分子量のPEG(ポリエチレン グリコール)と結合します。これによって分解と排出がゆっくりになります。
今年(2014年)の3月にイーライリリーは1型と2型の患者をリクルートしていましたから、まだ先の話でしょう。

■ より濃縮したインスリンで、より持効型に

日本で使われているのは100単位/mlのインスリンですが、インスリン抵抗性の強い患者のいる米国では500単位/mlのものがあります。理由はまだ完全には分かりませんが、インスリン濃度が高くなると作用時間が伸びるのです。恐らく濃縮されたインスリン同士が強くくっつくのではないかと考えられていますが、サノフィはインスリン グラルギンの300単位/ml、ノボ ノルディスクは高単位のインスリン利用者のためにインスリン デグルデク200単位/mlを開発中と伝えられています。

更に新しい吸入式や経口薬のインスリン

2014年6月にFDAは新しい吸入型ヒトインスリンを承認しました。以前のファイザーの吸入式は失敗でしたが、今度のインスリンはどうでしょうか?

また、文頭で紹介した経口薬としてのインスリンはイスラエルのOramed、デンマークのノボ ノルディスク、インドのBioconが、初めての経口インスリンの実現に向けてしのぎを削っています。経口薬なら1型糖尿病のインスリン回数を減らして食後血糖の乱高下を防ぐことも容易になる希望があります。

これらのインスリンが実現すれば、糖尿病治療の厳しさも和らげることが出来るでしょう。

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