暮らしの法律/雇用問題

法改正で残業代がアップするって本当?

2010年4月1日施行の改正労働基準法で、月60時間を超える残業代の割増率がアップしました。これは、わが国の労働者の残業時間がなかなか減らないことが社会問題となり、実行された改正であるといえます。具体的な内容と例外を紹介します。

酒井 将

執筆者:酒井 将

暮らしの法律ガイド

今回は、2010年4月1日施行の労働基準法の改正(残業代のアップ)について解説します。

質問:中小企業に勤める会社員のケース

中小企業は、法律の適用が猶予される場合がある

中小企業は、法律の適用が猶予される場合がある

私は、中小企業(サービス業)で働く会社員です。以前、テレビでニュースを見ていたら、「労働基準法が改正され、一定の残業時間を超えると、残業代の割増率が50%に引き上げられる」という報道がありました。私の勤務先は中小企業ですが、私の残業代も高くなるのでしょうか?

以前の残業代の割増率

以前は、使用者が36協定(労働基準法36条)により、労働者の労働時間を延長したり、休日労働をさせたり、深夜労働(午後10時~午前5時)をさせた場合、次のとおり割増賃金を支払うように定められていました。

1.時間外労働および深夜労働
通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の25%以上の率で計算した割増賃金を支払う必要がある。

2.休日労働
通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の35%以上の率で計算した割増賃金を支払う必要がある。

しかし、わが国の労働実態として、労働者の残業時間がなかなか減らず、過労死なども社会問題になったため、2010年4月1日施行の改正労働基準法により、割増賃金率等の見直しがなされることになりました。

改正後の残業代の割増率

改正労働基準法による法定割増賃金率の引き上げは、次の通りです(改正労
働基準法37条1項ただし書)。

1.時間外労働手当
使用者が、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の50%以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります。なお、施行日の平成22年4月1日を含む1か月については、施行日から時間外労働を累計して60時間に達した時点から後に行われた時間外労働について、50%以上の率で計算した割増賃金を支払えばよいことになっています。

2.休日労働
労働基準法35条に規定する週1回または4週間4日の休日(法定休日)以外の休日(所定休日)における労働は、それが法定の労働時間(労働基準法32条~同32条の5、同40条)を超えるときは、時間外労働として、「1か月について60時間」の算定の対象に含める必要があります。

3.深夜労働
深夜労働のうち、1か月について60時間に達した時点より後に行われた時間外労働については、深夜労働の法定割増賃金率と1か月について60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率が合算され、75%以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要となります。

例外は?

上記のとおり、改正労働基準法では、1か月について60時間を超える時間外労働手当について、法定割増賃金率を50%以上にすることを定めていますが、使用者が労働者に代替休暇を付与することにより、時間外労働が、1か月について60時間を超えた場合でも、25%以上の率で計算した割増賃金を支払えばよいこととされています(代替休暇制)。

これは、業務上、臨時に時間外労働を行わざるを得ない事情が発生することもあるため、法定割増賃金率の引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給休暇(代替休暇)の付与を認めたものです。ただし、使用者が、この代替休暇制を導入するためには、労働者の過半数で組織する労働組合、または、労働者の過半数を代表する者との間で、労使協定を締結する必要があります(改正労働基準法37条3項)。

中小企業ではどうなの?

経営基盤の脆弱な中小企業についてまで、改正労働基準法の「1か月について60時間を超える時間外労働手当について法定割増賃金率を50%以上とする」旨の割増賃金率の支払いを義務付けることは、会社の経営を圧迫しかねず、現実的ではありません。

そのため、改正労働基準法138条では、中小企業について、改正後の割増賃金率の適用を、当面、猶予することになりました。改正労働基準法の施行(2010年4月1日)から3年後に、改めて、中小企業の法定割増賃金率について、検討を加えることになっています(附則3条)。

どのような中小企業が猶予される?

改正労働基準法による割増賃金率の適用が猶予される中小企業は、次のとおりです。なお、中小事業主の判断は、事業場単位ではなく、企業単位で判断されますので、注意が必要です。

1.小売業
資本金の額もしくは出資の総額が5000万円以下、または、常時使用する労働者数が50人以下の事業主。

2.サービス業
資本金の額もしくは出資の総額が5000万円以下、または、常時使用する労働者数が100人以下の事業主。

3.卸売業
資本金の額もしくは出資の総額が1億円以下、または、常時使用する労働者数
が100人以下の事業主。

4.その他の業種
資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下、または、常時使用する労働者数
が300人以下の事業主。

ですから、上記に該当する中小企業については、改正労働基準法施行から3年間は、改正労働基準法の「1か月について60時間を超える時間外労働手当について、法定割増賃金率を50%以上とする」旨規定の適用がありませんので、従来どおりの割増賃金率を支払えばよいことになります。そのため、代替休暇の制度の適用もありません。

質問のケースはどうなる?

質問者のケースでは、「サービス業の中小企業に勤務している」とのことですので、「資本金の額もしくは出資の総額が5000万円以下、または、常時使用する労働者数が100人以下」であれば、改正労働基準法138条により、残念ながら当面は、残業代の割増率のアップは見込めなさそうです。

実際に勤務先が、改正労働基準法の「1か月について60時間を超える時間外労働手当について、法定割増賃金率を50%以上とする」旨規定の適用がある会社なのかどうかは、残業代に詳しい弁護士などに相談してみることをおすすめします。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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