介護/食事・口腔ケア

嚥下調整食2以下の介護食の作り方とコツ:下

介護食を用意するときに、「米」をどのようにしてやわらかく調理するかが大きなポイントになります。「米」は日本人の主食であり、パワーの源です。そこで、ペースト状の粥を用意する方法と、市販の介護食を手に入れる方法、そしてお年寄りの食事に携わる際の心構えについてお話します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

粥をペースト状にしたい!

ごはん

日本人はもちもちとした食感を好む人が多いようです。そのため、粘り気の多い「米」を栽培し、好んで食べてきました。米の味は慣れ親しんだものがよいとはいえ、この粘り気がお年寄りの「食べづらさ」につながります。

基本的なペースト食のおかずは「嚥下調整食2以下の介護食の作り方とコツ:上」でお話したように、出来上がった料理をフードプロセッサーでつぶせば作ることができます。しかし、粥をペーストにするときだけは注意が必要です。日本米で作った粥は粘り気があるため、フードプロセッサーにかけると、餅のような粘り気が出てしまうためです。

毎年、お正月になるとお餅を喉に詰まらせてしまうお年寄りの話が出てくると思います。お餅のような粘り気のある食品は、喉につかえてしまうため、ペースト状にしても飲み込みにくいのです。これは「「食べる動作のメカニズム」と食事の関係」で示したように、咽頭の途中で引っかかってしまい、上手く食道に送り込めないのです。そのため、粥をペースト状にする時は、病院や介護施設でも、その状態には毎回、かなり気を使います。

おかずを作る際にはとろみ剤で硬さを調整しましたが、とろみ剤のほとんどの商品は、粥の粘り気を抑えられません。粘り気を抑えられる商品として、70℃以上の料理をそのままミキサーにかけてゼリー状に固めるための固形化剤(「ホット&ソフト プラス(ヘルシーフード)」等はありますが、毎日のこととなると、今度はミキサーが耐えられません。他に、病院や介護施設では、粥の粘り気を防ぐために、スベラカーゼ(フードケア)等の酵素で粘り気の元を切断するような固形化剤を使うこともあります。しかし、スベラカーゼは高価ですし、病院等で使用するならばともかく、自宅で1人分を作るために使用するのは厳しいようにも思います。

それでも「米くらい炊きたてを食べさせてあげたい」という気持ちも痛いほど分かるので「やっぱり炊き立てを! 」という方は、七分粥(全粥7割、重湯3割)と前述の粘り気を抑えられる「半固形化剤・固形化剤」を使ってちょうどよい固さに仕上げて下さい。

毎日のことですし、毎食となると介護者の負担も大きいので、市販のレトルトタイプである「おいしくミキサー(ホリカフーズ)」や「快食応援団 なめらかおかゆ(ヘルシーフード)」のような袋から出せばそのまま食べられるものを使ったり、「ぱぱのおもゆ(伊那食品工業(株))」や「粥ゼリーの素 宮源のお粥((株)宮源)」などを使ってお湯を入れてかき混ぜるだけで作れる商品を上手に使うこともおすすめします。

介護食を手に入れる

介護食はスーパーにそのコーナーがあるわけではないので、ひと手間必要です。ご近所に介護食のショップがある場合は、ショップの方にご相談されるのがいいと思います。お近くにショップがない場合「介護食 宅配」などと検索すれば、さまざまなサイトが出てきます。最近は、宅急便等で商品を送ってくれる業者もありますから、お近くの会社を検索してみるといいでしょう。

台所に立つよりも、おばあちゃんの顔を見ていてほしい……

市販品を利用するようにと書くと、「栄養士なのに手抜きを指示するのか? 」と思われてしまうかもしれません。確かに、やることは手抜きかもしれません。ですが、考えてみてください。病院や介護施設では食事を作る専門の職員が雇われているのです。もちろん、つくっている食数は多いですが、その分、作る人数もいますし、なによりも専門家の集団です。だからこそ、料理をつくって、ミキサーにかけるなどの調整をして、きれいに盛り付けたものを提供することができるのです。

これを仮に、家庭で1人分を作るとしても、専門家集団が行っている作業で省略できる作業はひとつもありません。おそらく、1人で1日3食、飯、汁、おかずのすべてを作ろうとしたら、1日仕事になってしまいます。これでは、ご家族の心が休まる時間もありませんし、なによりも、介護される方とコミュニケーションをとる時間がなくなってしまいます。

「ご家族は台所に立つより、おばあちゃんの顔を1秒でも長く見ていてほしい」

そんな願いから、私は心を鬼にして「お好きだったもの以外は、市販品で」と申し上げるのです。

食事中にはコミュニケーションを!

実際には、自宅で作った料理に限ったことではありませんが、このように食事をフードカッターでつぶした食事は、原型がまったく分からなくなってしまいます。色もほぼ茶色の単色なので、目の前に置かれた食事を食べ始めても、それがお肉であるのかお魚であるのか、食べているご本人も、理解できないことが往々にしてあります。

そこで、介護者は「これは白身魚をおしょうゆで煮たものです」とか「これはハンバーグです」「お味はいかがですか? 」などと、料理の話をしながら食事を見守ってほしいのです。食事介助をする場合も同じです。口に入れる食べ物を「お粥です」「魚の煮物です」とお口に運ぶたびに、お伝えしてください。

もしかしたら、返事は戻ってこないかもしれません。しかし、介護される方というのは、しっかり聞いておられます。耳が遠くて聞こえなかった場合は「なぁに? 」と聞き返されるかもしれません。それでも、話しかけてください。耳が遠い方はお話をする介護者の顔を、しっかりご覧になっています。その顔が笑顔であれば、喜んでくださいますし、介護者が怒っていると感じると、悲しい表情をされます。介護される方の心は敏感です。

そんな介護する側とされる側の心の動きの一つ一つが、お互いの生きる力の源になると信じています。おいしい・食事が楽しいという気持ちは味付けのみならず、こうした心の交流からも生まれるのです。


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