オランダの大学での実験~後半
■実験3: ほめ言葉とチャレンジレベルを測る実験実験の最終段階として、今度は240人の子供達が参加し、次のようなステップで行われました。
- 子供達はまず自分の自尊心レベルを評価するアンケートに回答
- その後、画家ゴッホの作品『野生のバラ』を模写するよう指示された
- その際、プロの画家が、あとで1つ1つの作品を評価し、コメントをする旨も伝えられた
- 絵を描いた後、実験上の批評家(実際はプロの画家ではない)が、子供達に「過剰なほめ言葉」「普通のほめ言葉」「ほめ言葉いっさいなし」のうちの1つを選び、コメントを添えた
- その後、子供達は4枚の難しい絵画と4枚の簡単な絵画を見せられ、それらのいくつかを模写するように言われる。また、その際、難しい絵は失敗も多いかもしれないが、学ぶものも多いとも付け加えられた
■結果
- 自己評価で自尊心が低かった子は、過剰なほめ言葉をかけると、難しい絵にチャレンジすることはなく、簡単な絵を選ぶ傾向が強かった
- 自己評価で自尊心が高かった子は、過剰なほめ言葉をかけると、難しい絵にチャレンジする傾向が強かった
では、この実験で使われた「過剰なほめ言葉」とは何だったのでしょう? どれくらい過剰だったのでしょうか? 意外にも、この実験で用いた、過剰なほめ言葉はとてもシンプル。過剰か、そうでないかの違いはたったひと言、「incredible」のある、なしだけだったのです。
「incredible」 とは、信じられないほど、途方もない、驚くべき、はなはだしい、びっくりするほどすばらしい、並はずれた、 異常なほど、のような意味を含みます。このひと言がONかOFFか、つまり、「信じられないほど上手に描けたわね!」か「上手に描けたわね!」か、これだけの違いだったのです。
育児に唯一のルールはない
実験者達は、自尊心の低い子達は、ほめられすぎると、次回も高いものを求められるのではと気になり、俗に言う、「自己防衛メカニズム」が働いてしまうために、あえてチャレンジを避けるのではないかと示唆しています。この実験は、同じほめ言葉が、全ての子に同じように響くわけではないことを証明しています。一見、万能そうな「ほめる」という行為。でも、全ての状況で全ての子供達に同じように作用するわけではないのですね。
親の立場からしたら、もし「うちの子、自尊心が低いかも」と感じたら、それを高めようと必死にほめ言葉を浴びさせてしまうかもしれません。親は良かれとやっていることが、子供には逆に作用してしまう……。子育ての奥深さを改めて実感する結果ですね。
過去記事 「3歳までのほめ方で分かる、5年後のやる気」 で、『努力ほめ』について触れましたが、この『努力ほめ』なら、自尊心が低くなっているときにも、しっかり伝わってくれると思われます。我が子にぴったりのほめ言葉探しに、ぜひご参照ください。
*出典:Psychological Science (2014) 「"That's Not Just Beautiful --That's Incredibly Beautiful! ": The Adverse Impact of Inflated Praise on Children With Low Self-Esteem」より