インテリアコーディネート/インテリアコーディネートの基本

賃貸インテリアの悩みを解決するポイントとは?

一人暮らしやDINKSの方々など賃貸住宅に暮らしている方の悩みは多いと聞きます。食器をしまう場所、収納が少ない、配線コードが煩わしい、などなど……。そこで横浜市で長年、数多くの「デザイナーズ賃貸」の設計、施工に携わっている天屋工務店社長の吉原雅浩さんが、この夏設計した物件『Memento.3、5』を例に、賃貸住宅での住まい方、特に「収納」を中心にポイントを教えていただきました。取材協力:天屋工務店、アマヤホーム

喜入 時生

執筆者:喜入 時生

インテリア・建築デザインガイド

賃貸暮らしの困りごとをケアするデザイン手法

天屋工務店の社長、吉原さんは「賃貸暮らしの困りごとは20個くらいある。それを解決していくのが私たちのスタイルです」と言います。そのうち、ダイジェストで以下の10ポイントを教えてもらいました。

  1. 収納、特にクローゼット(押入れ)の奥行きを有効に使いたい
  2. 家具の圧迫感のないインテリアにしたい
  3. 下駄箱、靴を入れるスペースの確保したい
  4. 照明の選び方や効果的な演出がわからない
  5. 大型テレビやPCの設置場所に困る
  6. さまざまな配線コードの処理がわずらわしい
  7. 昼間も寝室の空間を有効に利用したい
  8. できるだけ生活感を隠した設えにしたい
  9. 家具と部屋の素材テイストを統一したい
  10. 玄関に来客の目をひく仕掛けがほしい

……などなど。

どうでしょう。みなさん、心あたりがあるのではないでしょうか? このポイントは賃貸住宅探しのヒントになりそうですね。こうした悩みポイントが解消されている物件は「住まい」として暮らしやすい賃貸住宅といえるでしょう。たしかに、こうした悩みに答えていない物件も多い気がします。

「実は入居者は、入るときに調度品や家具にコストがかかりすぎているんです。いわゆるデザイナーズ、特にスタジオタイプの賃貸は、もとは家具・インテリア業界から住宅産業に参入してきているという背景もあると思うんだけどね、うがちすぎかな(笑)」

と、吉原さんは言いますが、経験上、考えてみれば思い当たるフシもあったりしたのでした。

事務所で軽くお話をうかがった後、この夏に竣工したばかりの、吉原さんが設計した賃貸集合住宅『Memento.3、5』を拝見しました。これを例に吉原流の賃貸集合住宅の見方、選び方のコツを見てみましょう。

この集合住宅のコンセプトは「綱島宿」。かつて温泉宿街として栄えた横浜市・綱島の街に、昔の「旅籠(はたご)」を連想させる長屋形式の全13戸の部屋で構成されたメゾネットタイプです。外壁の、ちょっと日焼けしたイメージの左官仕上げの色合いは、池袋にあるF・L.ライトの「自由学園明日館」を思い出しました。屋根は三寸勾配の片流れ形式で、吉原さんによると「敷地内に風車が並ぶようにスタディを重ねました」とのこと。たしかに、長屋が連なるつくりは界隈性が感じられて路地に迷い込んだような楽しい雰囲気です。

がいかん

『Memento.3、5』の外観。綱島の町の宿をイメージした旅籠。「誰もが旅人になれる部屋」というコンセプトです

13部屋すべてを拝見して、賃貸住宅の選び方のポイントをお聞きしました。さまざまなアイデアが盛り込まれた物件ですが、ボリュームの関係上、今回は収納を中心にお話いたします。

造り付けの収納は要チェック!

いわゆるデザイナーズマンションは、基本的に収納計画がなされていない場合が多いようです。つまり「住み手が『自由』に考えてね」ということなのですが、吉原流の考えでは、それは「不親切」。つまり、あまりにもユーザーをおざなりにしている、ということです。ユーザーフレンドリーではない住まいは、それが借りであっても、あってはならない。「『借りの住まい』は決して『仮』の住まいではないのです!!」と吉原さんは強調されます。

■特にクローゼット(押入れ)は足りていないことが多い

みなさん、さまざまな賃貸住宅で暮らしてみて「収納が少ないな」と感じたことはないでしょうか? 吉原さんが、ある意味デザイン以上にこだわっている収納についてお話を聞きました。

「通常のマンションなどの集合住宅はクローゼット(押入れ)の広さは、寝室に間口1間=1.8メートルあればいい方です。ですが、入居者の方々の声にこたえて私は、標準で間口1.5間2.7メートル以上の広さを最低限確保しています。また布団を入れる場合は奥行き80センチが必要。そして洋服をハンガー掛けするには奥行き60センチでオッケー。この矛盾したような条件をクリアするために、私は写真のように標準仕様で天井いっぱいまである3枚引き戸を採用しています」

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3枚引き戸の収納の建具を閉めたところ。引き手代わりの丸い穴もカワイイですね


「布団を入れるスペースは小物を入れる引き出しを3つ付けて洋服を掛けるクローゼット部分は、奥行き60センチでいいので残りの20センチ部分を棚板にしています。押入れスペースは布団類の量が少なければ、下の部分ににスノコを置いて活用する人もいるので、この上にもパイプを付けて洋服を掛けられるようにしています。また、天井高さは約2.4メートルなので、40センチ程度の残りの空間もギリギリまで活用して、帽子などのファッション小物などをしまえるようにしています」

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左側を空けたところ。このように開口を2/3をあけられるので出し入れしやすいのです


「これだけの収納があれば、たとえば6帖のスペースだとしても手持ちの箪笥などを置く必要がないので、広々と部屋が使えると入居者に好評なつくりです。賃貸物件を検討するときは造り付け収納の広さに注目してください。場合によっては新しく収納家具を購入することもなく、初期費用も抑えられます

くろーぜっと3

右側を2/3空けたところ。ロングコートもらくらく収納できそうですね。奥に20センチの奥行きの棚と上部の40センチの空きスペースにも注目!!


■玄関やキッチンの収納も「親切」かどうか

収納といっても玄関の下駄箱やキッチン、テレビ台など、あらかじめ造作してある家具があるかどうか? も賃貸住宅選びの重要なポイントとなります。特に玄関収納について吉原さんは次のように語ります。

「日本人ほど、さまざまな靴の種類を履く人種はなくて、成人女性の靴の平均所有個数は20足、男子は10足といわれています。ですので私は特に玄関収納にはこだわっていてDINKS世帯で30足は収納できるシューズボックスを標準装備しています」

くつばこ

入居時はチェックしたいシューズボックスの収納力。この左側にある下駄箱は下にロングブーツも置けるようになっています


きっちん

従来のシステムキッチンは上部に収納がある場合が多いですが、主婦の方々は中の食器などは取り出しにくい。そこで箪笥状の収納を床に置き調理器具が取り出しやすい、やさしいつくりとなっています


ほんだな

スキップフロアの上にあるシェルフ。本棚にしてもいいし、見せる収納として服をたたんで置いたり趣味的なコレクションを並べたり、使い方は自由。シェルフの左上に見える丸棒は手すりになっています

tv台

窓際に設置されたTV台。センターやや右の奥に楕円状の配線用の楕円系の穴があけられています。写真をクリックすると拡大するのでよく見てください。これはポイント5の「配線が煩わしい悩み」を解決するユーザーフレンドリーなうれしい設計ですね

そのほかにも「衣類といっても、案外、忘れがちな肌着類があって、これは洗面所に十分な空間を取る」「収納たっぷりのクローゼットは並列した賃貸の隣戸間の遮音対策にもなります!」とか、そのほかも、システムキッチンが意外に使いにくいことなど、吉原さんの収納への思いは、まだまだ続きましたが、これは次回以降にぜひ紹介したいと思います。

次ページでは、照明計画や素材など、住みやすさのこだわりをご紹介します。

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