「もう年だから仕方ない」そんな口癖が、痛みを一層悪化させます。失った健康面にとらわれるのではなく、残された機能や生きる知恵と経験に焦点を当ててみましょう。今を元気に生きるヒントが、きっとあるはずです
痛みは全てに現れる
私は、465gの低出生体重児から100歳を超える高齢者まで、2万人を超える人々に麻酔をかけてきました。全身麻酔をかけられた患者さんは、出血や低体温などどんなストレスにさらされても訴えることができません。そこで患者さんの肌の色、血圧、心拍数、体温、体の酸素量、出血量やおしっこの量などから、麻酔中の患者さんの状態を推し量るのが麻酔科医の仕事の一つです。そんな物言わぬ患者さんの訴えを汲み取る臨床経験によって、一目見ただけで患者さんの状態がわかるようになりました。外来に痛みを訴えて来られる患者さんたちを診察するとき、その方が部屋に入ってこられた瞬間から、すでに診察は始まります。なぜなら不調があれば、その患者さんの表情、歩き方、顔色、話し方など、あらゆるところに痛みが現れるからです。痛みの原因は、何も傷の有無に限ったことではありません。傷が直接関係する痛みもあれば、ご家族や職場の人間関係、経済状況や健康不安などが原因になっている場合もあります。
痛みはこれらの原因が深く絡み合って成り立っているので、単に傷の炎症を抑えるだけの直接的な処置を行うだけでは、痛みをやわらげることが難しい場合があります。ですから、私のペインクリニックでは患者さんの愚痴や悩みを聞いて差し上げたり、嫁姑問題、夫婦問題、就職相談など人生相談に近いやり取りになることもあります。
心の持ち方ひとつで痛みは変わる
痛みを自分で治す方法について、詳しく紹介しています。「気力をうばう「体の痛み」がスーッと消える本」
怒りを感じると交感神経が緊張して、筋肉が硬くなり、血管が収縮し、ストレスホルモンが分泌されます。その結果、腰痛や肩こりが悪化し、血圧・血糖値が上昇し、狭心症や脳卒中、糖尿病のリスクが高まります。そのうち免疫力も低下して、やる気や集中力、記憶力まで低下することも。怒りは痛みスイッチを押すばかりではなく、自分本来の人生まで悪い方向に向かわせます。
怒りを断ち切る方法
怒るな!といっても、人間力の達人でもない限り難しいものです。では怒っても痛みスイッチを入れないようにするためには、どうすればいいのでしょうか?私は、怒りを1回1回断ち切る方法として、その怒りを書くことをお勧めしています。万一、怒りがこみ上げてきたら、その怒りを書き記してみましょう。あの時自分はこう感じた、起こった出来事に対する自分の思いを正直に書いてみてください。そして大切なことは、その同じ出来事に対して、相手の立場になってもう一度書くことです。相手と自分、同じ出来事でも捉え方の違いに気がつくと、強烈な怒りの原因を客観的に見ることができ、その怒りを断ち切ることができるはずです。
「もう年だから仕方がない」というと痛みが悪化する
「もう年だから仕方がない」と、痛みを感じる度に口癖のように言う方がいらっしゃいます。足が痛い、腰が痛い、膝が痛い、と訴えて、「以前はこうではなかった。」とくよくよ悩み、健康だった頃の自分と今の自分を比べるタイプです。しかし、前は違った、前はこうではなかった、と繰り返してもそこに戻れるわけではありません。さらに、愚痴をこぼされてばかりいる身近な人は、たまったものではありません。ストレスのはけ口となる毎日が続くと、どんなにできた人でも嫌気がさし、痛みで困っている人のことが煩わしくなっていきます。すると、最も身近で大切だった人々の心が離れてしまい、痛みが悪化するとともに孤立と孤独の苦悩までもが襲ってきます。これによって、さらに深刻な痛みの悪循環を形成していくのです。
痛みがあっても、よりよく元気に生きるために
75歳の今よりも40歳のときの方が調子よかった、というのは当たり前の話です。だからといって、40歳と同じ健康や体力を求めるのは不可能です。けれども、今は40歳の頃よりも知恵がある!経験値も上がっている!そして何より余暇の時間も十分持てる!!同じ75歳と40歳の条件でも、失った健康面にとらわれるのではなく、捉え方を変えてみてはいかがでしょうか?現状を受け入れ、残された機能でこれからどう生きていくか、という方向に気持ちを切り替えることが幸せに生きるヒントになると思います。
過去と他人は変えられません。自分の性格すら変えられなくてもいいんです。まずは、怒りと痛みにとらわれた自分の考え方を変えてみましょう。そうすれば、今の自分はいくらでも変えることができるのです。そのことを心に刻んで毎日の生活に喜びを見出し、今日を生きる元気にしていただきたいと願っています。
参考文献:
気力をうばう「体の痛み」がスーッと消える本(アスコム) 富永喜代