スマートハウス・エコ住宅/エコ住宅のつくり方

なぜ日本はヒートショックの被害者が世界一多いのか?

ヒートショックによる年間死亡者数が1万7千人とも言われる日本。他国と比べるとその人数は圧倒的に多いのですが、その原因は住まいにあるとも言えそうです。今回は世界基準を参考に、日本の住まいのあり方を考えてみましょう。

八納 啓造

執筆者:八納 啓造

幸せになる家づくりガイド

ヒートショックとは

ヒートショックとは

 

ヒートショックとは、家の中で温かいところと寒いところを行き来するときに生じる血圧の急激な変化に対して起こる健康被害のことを言います。具体的には、温かいリビングを出て、寒い脱衣場で着替え、暑いお風呂に入る瞬間にこのヒートショックを起こします。

世界一多いヒートショックによる死亡者数

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浴室での死亡者数

現在の日本で、ヒートショックによる年間死亡者数が1万7千人と言われています(出典元をご紹介いただきたいです)。交通事故の年間死亡者数が約4千人に対して、その倍の人がヒートショックによって亡くなっているのです。そして、グラフのように年間の浴室死亡者数は2位の韓国の4倍近く、3位以下の国の6倍以上の人数でもあります。先進国の中でも、ヒートショックによる被害がどうしてこれだけ多いのでしょうか?

なぜ先進国のなかで一番ヒートショックの犠牲者が多いのか?

家庭における用途別世帯当たりのエネルギー消費量

欧米諸国と比較して日本のエネルギー消費量が少ないのには理由があった!


日本は、他の先進国と比べると一世帯当たりのエネルギー消費量は少なく、2001年のデータで、日本が41GJ(ギガ・ジュール)・世帯・年に対し、アメリカが97GJ、ドイツが74GJという内容です。

この数字だけ見ると「日本は消費エネルギーが少なくて優秀な国」に見えます。しかし実際には「日本人は他の先進国に比べて、家の中で暑さ、寒さを我慢して暮らしている結果、エネルギー消費量が少ない」ということが、ライフスタイルの調査から分かってきています。

他の先進国では、断熱性能が悪い家でも、24℃、25℃ぐらいに設定して、家の中を全館暖房しています。それに対して日本ではリビングを暖房で20~22℃程度を保とうとしますが、脱衣場などの非暖房室は外気温に左右されて、10℃以下しかないような状況を我慢して暮らしています。

20℃以上の温度差でヒートショックが起こりやすくなると言われています。これが他の先進国に比べて、ヒートショックで亡くなる人が多い原因になっているのです。

世界基準でみたエコ住宅を考える上でやりたいこと

先程の話からも分かるように、「日本以外の先進国では、全館冷暖房が基準になっている」ことが分かります。ここでよく住宅業界で議論されるのは「日本の気候で、全館冷暖房が必要なのか?」ということです。家づくりに携わっている専門家の中でも賛否両論があります。

例えば、昔の家はヒートショックが少なかった、近年の人は家が過保護になったので体が弱くなったという話もあります。ヒートショックは、空調エリアと非空調エリアの温度差が20℃以上ある場合に起こりやすくなります。

そこから分かることは「昔の家は居間も含めて寒く、かなり我慢して暮らしていた」ことが伺えます。そういう意味では、「体を強くして、寒くても我慢して暮らす」ことも1つのライフスタイルです。しかし、ヒートショックの現状からみると万人向けの考えではありません。どういうライフスタイルを描きたいかを住む人が明快に選択できるように情報提供することが重要です。

ここでお伝えしたいのは「日本以外の先進国は全館冷暖房を基準にしたライフスタイルを選択している」という事実です。「全館冷暖房は贅沢だ」「全館冷暖房は光熱費が莫大にかかる。それこそ光熱費の無駄遣い」「太陽光、通風の力を使わずに、機械の冷暖房に頼ろうとしている」という人もいますが、世界基準の視点から見るととてももったいない考え方です。

現在の世界基準の家は「太陽光や通風も最大限取り入れながら、かつ光熱費を最小に抑えることが出来る性能で作る」ことを軸にしています。具体的には、「断熱」「気密」「通風」「日射取得(採光)」「蓄熱」など建物躯体に関わる部分の強化が大切なポイントになります。

それぞれの意味を知るとエコ住宅がより分かりやすくなる

「断熱」「気密」「通風」「日射取得(採光)」「蓄熱」と聞くと、専門的で理解することが難しく感じる人もいることでしょう。しかし、この部分の違いを把握することがエコ住宅を理解する上でも大変重要ですので、それを紹介していきましょう。

  • 断熱
    主に、家の外壁、屋根、基礎、窓などの外部から入ってくる熱の進入を和らげ、かつ屋内で作りだした熱を逃がさないために施す部分。断熱性能が高くなればなるほど、屋内は屋外の影響を受けにくくなります。
  • 気密
    家にどれだけの隙間があり、隙間風が入ってくるかを示します。例えば分厚いセーターの網目が大きければ、いくら毛糸が厚くても寒くなります。家にとっても一緒で、いくら断熱性能を高めても家に隙間が多ければ多いほど、家の性能が下がります。隙間から出入りする空気のことを漏気(ろうき)といいます。「気密を高く取ると息苦しくなるのでは?」という声もあります。実際は、最新のマンションに比べて、通常の木造住宅では25倍の隙間があると聞くと驚くでしょうか?気密は住宅によってはこれほどまでに差があり、高気密というのは最新のマンションの隙間程度に抑えるか多くても5倍ぐらいまでの隙間に抑えようという動きであるということも知っておきましょう。
  • 通風
    窓を開けて、外気を取り入れ新鮮空気を取り入れることを言います。通風と隙間風を混合している人もいますが、通風は隙間風を極力なくすことで、計画的に空気を流す「通風計画」が可能になります。先ほどの気密性能を高くすることで隙間がなくなるので、通風計画がスムーズになるのです。夏の夜に、外気温が28℃ぐらいまで下がれば、通風で家の中の温まった空気を入れ替えることで室温を28℃にすることが可能になりますが、この場合も効率よく空気を入れ替えることの出来る通風計画がとても重要になります。
  • 日射取得(採光)
    家の中にどれだけ太陽光を取り入れるかは、冷暖房負荷に大きく影響します。「高断熱の家は、真夏、日射で暑くなるのでは?」と心配される方も多くいます。

    実際、夏に太陽の光をふんだんに取り入れると家の中に熱がこもるためそのような懸念事項が出てきます。高気密の家を手掛ける業者の中でも「どれだけ太陽光を取り入れるか?」を考えずに、このような欠陥住宅を生み出しているケースも見られます。

    日射取得で大切なのは、「夏は出来るだけ太陽光を室内に取り入れず、冬は出来るだけ太陽光を室内に取り入れる」という視点です。代表的なのは、南側に設ける庇(ひさし)です。庇の長さで室内に入れることと、東西側の外壁の窓を極力小さくするなどによって、太陽光をコントロールすることが可能です。
  • 蓄熱
    石焼きイモの石を思い浮かべてみましょう。イモは石に蓄えられた熱で温められ、ホクホクの石焼きイモが完成します。なぜなら、石は一度たくわえた熱を長時間に渡って放熱出来るだけ熱を蓄えておける量(蓄熱量)が多いからです。それに対して、木は石ほど熱を蓄えることが出来ません。

    住宅に関しても、家の中の素材に石など蓄熱量の多いものを組み込むことで、一度温めた部屋の温度を保ちやすくなります。また、冬場などは太陽光で直接温められた石やコンクリートなどが蓄熱体となり、夜にかけて放熱させることで暖房負荷を抑えるなども可能になります。

    マンションなどの鉄筋コンクリート造の家の場合は、外壁の屋内側に断熱材が入っているので、コンクリートでも蓄熱することが出来ません。屋内側で、直接コンクリートなどが露出している部分で蓄熱できるということを知っておきましょう。

躯体強化がヒートショック防止に大きく貢献する

まとめになりますが、ヒートショックを防止するには「家の中で温度差が出来るだけない状態を作る」ことがとても重要です。そして、他の先進国と同様「全館冷暖房」が体に負担の少ない環境づくりのベースになることも分かりました。

しかし全館冷暖房をすると、躯体性能が低ければその分、光熱費に跳ね返ってきます。ドイツなどでもまだまだ躯体性能が低い建物が多く、エコ化を図るために国を挙げてその躯体強化に取り組んでいます。躯体強化の目安は、5~10年で投資したお金が回収出来るかどうかです。

例えば、標準的な40坪の家の冷暖房費が年間30万円だとしましょう。躯体性能を高めるのに150万円かかったとします。仮に年間冷暖房費が15万円になったとすれば、年間15万円の差額が出て、約10年で回収出来る計算になり、10年目以降はどんどんプラスにもなっていきます。

今回を期に「断熱」「気密」「通風」「日射取得(採光)」「蓄熱」などの特徴をぜひ把握しておきましょう。それぞれの詳細については別の機会にお伝えしたいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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